デバイスリンクプロファイル カラマネ純色伝
さあ、基礎編は終わりましたが、カラーマネジメントの話は尽きません。このまま続けます。ここまでカラーマネジメントのメリットを中心に話をすすめてきました。しかしすべてにおいて完璧なシステムはありません。
もちろんカラーマネジメントにも問題点はあります。
今回は、どのような問題があるのか、またそれをカバーするデバイスリンクプロファイルをご説明したいと思います。
カラーマネジメントでは、ソースからPCSを媒介して、ディスティネーションへ色変換が行われます。
ソース・ディスティネーションのカラーモードは問われません。PCSのみCIE Labと決められており、CMYKでありRGBであれ、ソースとディスティネーションそれぞれのカラースペースを色の見た目を維持しながら接続し、色変換が行われています。
しかし、ここで困ったユースケースが存在します
CMYK->CMYKを変換するケースです。
別々のCMYKデバイス間の色を合わせたい場合、この状況が発生します。
例えばソースをインクジェットプリンタでディスティネーションをオフセット印刷機とします。その場合インクジェットCMYK->オフセット印刷機C'M'Y'K'という変換が必要になります。
ICCプロファイルを使ったカラーマッチングでは変換の際、PCSでソース・ディスティネーションのそれぞれのLab値の中で、一番の近似値を選び出し変換を行います。
その変換では、もとのチャンネルの構成(CMYKやRGBの値)は全く無視される特徴があります。
CMYKデバイスとりわけ印刷機では、Lab値だけではなくCMYKの値の組み合わせが重要になります。
一般的なオフセット印刷機は、CMYK4色のインキを使ってフルカラーを再現しますが、例えばC50やK100など、CMYKそれぞれまったく他の色を含まない色を純色といいます。この純色が印刷という技術にとってとても重要な意味を持ちます。
印刷は、4Cのインキを刷り重ねるために、位置をぴったり合わせないとズレて印刷され、絵柄の縁にそれぞのインクの色が見えてしまったります。これは版ズレと呼ばれ、クライアントクレームにも繋がる代表的な印刷事故のうちの一つです。
これは、はっきりと形をもった小さなオブジェクトでよく起こる現象ですが、代表例が文字になります。
文字は情報伝達という役割のため、デザインにおいて絵柄以上に重要な要素となることが多く、判別しやすい黒(スミ)がよく使われます。
そのため黒で版ズレを起こすと、文字は小さいオブジェクトであることも相まって目も当てられない状況となるため、文字の黒はK版単色であることを求められます。
また他のインキであるCMYでも、減法混色という仕組み上、純色を混色にすると必ず彩度・明度が低下します。色再現の難しいところではあるのですが、色の見た目の近さだけを追求して彩度・明度を下げると、印刷の綺麗さが損なわれクレームに繋がったりもします。
さらにオフセット印刷では、ウェットなインキの上にウェットなインキを刷り重ねるため、刷り重ねが多いと後刷りのインキがうまく乗らずに濃度不良を起こすこともあります。
そのため刷り重ねが少なければ少ないほど品質上有利であるという性質もあります。
これらの背景により、変換元のCMYKでは、それぞれの純色は意図的に配色されており、変換後も維持される必要性があります。
しかしICCプロファイル変換では、いったんPCSでデバイス値をリセットし、Lab値の判断でのみ一番の近似値を選ぶという方法なので問題が発生するのです。
そこで登場するのがデバイスリンクプロファイルです。
デバイスリンクプロファイルとは、ソース→ディスティネーションへの変換の演算をあらかじめ行っておき、その結果をテーブルとして保持しているプロファイルです。
通常のICCプロファイルでは、その度にレンダリングインテントなどを参照しながらソースの値をディスティネーションの近似値に変換する演算を行っています。
それに対してデバイスリンクプロファイルでは、あらかじめ演算された値がプロファイル内に格納されているので、選び出すだけです。ソースの値をディスティネーションのそれに直接結びつけているため、デバイスをリンクさせた=デバイスリンクプロファイルという名称になっています。
またデバイスリンクプロファイルでは作成時、純色を保持するオプションを選択することが出来ます。純色を保持しながら、Labでの近似値へソース・ディスティネーションを変換することが出来るのです。ここがデバイスリンクプロファイルの一番の強みになります。
デバイスリンクプロファイルは、プルーファーという、印刷機の色をシミュレーションするプリンタ等のデバイスのRIPでの使われることが多いです。
ここでデバイスリンクについいて整理します。
デバイスリンクプロファイルは、ソースプロファイルとディスティネーションプロファイルを合体させたようなものであるとお気付きだと思います。そうです、プロファイル作成時にソース・ディスティネーションがあらかじめ選択され、変換値を作成しているのです。
そのためICCプロファイル色変換ではソース・ディスティネーションと2つのプロファイルが必要になってきますが、デバイスリンクプロファイルでは1つで変換が可能なのです。
ICCプロファイルでのカラーマネジメントでは、ソースプロファイルとディスティネーションを柔軟に切り替えながら、様々な組み合わせのデバイス間の色合わせが出来るとうメリットがありました。
しかしデバイスリンクプロファイルでは、完全にソースとディスティネーションが固定されており柔軟さが失われているのはデメリットとなります。またレンダリングインテントなどの諸条件もプロファイル作成時に決定されてしまうので、こちらも変換時にに切り替えることはできません。
また純色を維持するため、純色部分では色変換上アンタッチャブルな領域になり、カラーマッチングとしては一般のICCプロファイルより劣った結果をもたらします。
しかし、印刷にとってなにより純色を維持できるということは、ものすごく大切なことなんです。
色の正確性より、純色であることが優先されることがあると分かっていただけたと思います。
カラーマネジメントにとって純色は大切ですが、人もいつまでも純情であり続けたいものです。
最後に、昔見た幕末純情伝という映画を思い出します。
牧瀬里穂が主演で、沖田総司が実は女性だったというストーリーだったと思います。
牧瀬里穂に気が遠くなるほど憧れていた当時、B級映画であることは火を見るより明らかでしたが、「沖田総司はBカップ。」というそのサブタイトルだけで見に行った覚えがあります。
純情な16才男子が、なけなしの小遣いをはたいて。。。
これで、カラマネ純色伝を終えたいと思います。
今回もお粗末さまでした。
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