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カラーマネジメントを俯瞰してみる 必ず入口と出口がある

今回でこの連載のカラーマネジメントのお話は、12本となりました。ここまでで基礎は大方ご説明出来たと思います。

 しかし部分の説明だけでは、全体が見えず、実ワークフローの中でどのようにカラーマネジメントが動いているのか、分かりにくかったと思います。

 今回は、なるべくシンプルなユースケースで、カラーマネジメントの実際の動きを確認してみたいと思います。

 ユースケース

カメラマンが撮影を行い、Phothoshopでレタッチ、それをプリントショップに持ち込みポスターとして印刷する。

 それでは順を追って見てみたいと思います。

 1. 準備

このユースケースでは、カメラマンのモニタとプリントショップのプリンタと2つの出力デバイスがあり、2つのアウトプットプロファイルが必要となります。メーカーや業態団体から汎用的なICCプロファイルを入手して使用することも出来ますが、あくまでも汎用的なものであり、個々のデバイスごとにチューニングされたものではありません。今回はモニタ・プリンタそれぞれの独自プロファイルを作成することにします。また、Photoshopのカラー設定を「プリプレス用-日本2」に設定しておきます

モニタプロファイル作成:モニタに測色機を装着、付属ソフトを使って、キャリブレーションとプロファイル作成を行います。これら2つの工程は同時に行われることがほとんどです。モニタに既知のRGB値を入力して表示、それを測色機でCIE Lab値を計測するとそれぞれのRGB/Labの対照表が完成します。これを元にモニタプロファイルが付属ソフトで作成されます。

※これは、モニタに内蔵されている測色機を使用している例です
引用:EIZOホームページより

プリンタプロファイル:キャリブレーションを行い、プリンタの出力状態を正しい状態に安定させます。これはCMYK各インクを1-100%を十数パッチに区切り出力を行い測色、入力=出力となるよう補正をかけます。その後、既知のCMYK値の1000-2000超のパッチを出力し、それを測色機でLab値で計測し、その結果で演算を行いプリンタプロファイルが完成します。

2_カメラマン:撮影

向日葵が凜と咲くような写真をとるため、夏の快晴の日を選びます。もちろん後からPhotoshopで色補正は可能ですが、トーンの再現やダイナミックレンジ表現等、後のレタッチ・色補正では撮影時のデータを超えることが出来ません。そのため撮影場所や時間の選択、シャッタースピードや絞りなどの設定を適切にすることが重要になります。今回はよりガモットが広いAdobe RGBモードを選択し撮影を行い

最終的にAdobe RGBプロファイルが埋め込まれた撮影データ(jpeg)を得ることが出来ました。

3_カメラマン:レタッチ

カメラから撮影データを取り出し、Photoshopで開きます。今回はPhotoshopのカラー設定が「プリプレス用-日本2」で作業用スペースがAdobe RGB、開くデータも同じくAdobe RGBプロファイルが埋め込れており一致しています。そのため、「プロファイル不一致」のダイアログは表示されません。

ファイルを開くには、ソース:埋め込みプロファイルのAdobe RGB、ディスティネーション:モニタプロファイルで、OSに搭載されるCMMを使って、色変換を行い、モニタに表示させます。この変換により、撮影時の色の見た目をモニタで正しく表示することが出来ます。空とひまわりの色がくすんでいたため、彩度を高く色補正をしますが、補正の度に裏でソース→ディスティネーションの変換が行われモニタには正しく色が表示されます。

ファイルはより汎用性の高く、編集の度に画像が劣化しなTIFF形式で保存しします。※このファイルには引き継ぎきAdobe RGBプロファイルが埋め込まれます。

4_プリントショップ:出力

プリントショップでは、RIP(Raster Image Processor)と呼ばれる、出力ソフトを使用します。これは、文字・画像データをラスター・イメージに変換処理しプリンタに送信する処理ソフト・装置で、カラーマネジメントの処理もここで行われます。RIPにもカラーマネジメント設定があり、入出力プロファイルやレンダリングインテントの設定が行えます。

今回はあらかじめ、埋め込みプロファイルを使用し、出力プロファイルとして作成したプリンタプロファルを指定しておきます。

 これにより埋め込みプロファイルを読み込み、ソース:AdobeRGB→ディスティネーション:プリンタプロファイルという変換が行われ、カメラマンの意図通りの見た目の出力が行われます

 カメラマンの作業用スペースがAdobe RGBであり、モニタでもAdobe RGBで表示が行われ、それをみながら色が決定されました。その色の見た目を維持しながら、プリンタ用CMYKデータに変換が行われ出力が行われます。


ここまでで、撮影・レタッチ・プリンタ出力と、それぞれ色変換が各所で行われてきました。これにより、「色の見た目」がバトンリレーのように伝達され、正しい色をポスターとして出力することが出来ました。

 ものすごく単純化しましたが、このユースケースでそれぞれの色変換を追うことが出来たと思います。

 実際のワークフローは、出力がオフセット印刷やプリンタなど多岐に渡ったり、本生産とは別にプルーフ出力があったり、より複雑です。しかし基本として今回のユースケースで行っている色変換を、様々なデバイス間で行っているだけです。

ワークフロー構築をするには、複雑で訳が分からなくなることがあります。しかしポイントは、出力デバイスをまたぐ際には必ず変換が行われていること、変換にはソースとディスティネーションが必ずあります。入口と出口を整理すると、シンプルに考えることができ、ワークフローとして繋げていくことできます。

カラーマネジメントには入口と出口がある
これが今回の重要ポイントだと思います


ここで村上春樹氏の小説の一文を引用します。

入口があって出口がある。大抵のものはそんな風にできている。郵便ポスト、電気掃除機、動物園、ソースさし。もちろんそうでないものもある。例えば鼠取り。《…略…》後足を針金にはさんだまま、鼠は四日めの朝に死んでいた。彼の姿は僕にひとつの教訓を残してくれた。物事には必ず入口と出口がなくてはならない

村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」より引用

彼の例えに、カラーマネジメントを加えたいと思います。

入口があって出口がある。大抵のものはそんな風にできている。郵便ポスト、電気掃除機、動物園、ソースさし、カラーマネジメント

村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」より引用

そう入口と出口を忘れないでください。

これでカラーマネジメントの基礎編はいったん終了します。これからは、基礎知識を使ってトピックを一つずつ掘り下げていきたいと思います。また深くなりすぎたら、たまに単純化するための俯瞰をしていこうと思っています。

 それでは、本日もお粗末様でした。

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