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新しい音楽頒布会Vol.16 メロディックデスメタル、北欧ハードロック、USポストパンク、J-アートパンク
In Flames / Foregone
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スウェーデン、イェテボリシーンを代表するインフレイムスのニューアルバム。1990年に結成され、「The Jester Race(1994)」や「Whoracle(1997
)」といった名盤でメロディックデスメタルという型を発展させたたオリジネイターの一つでありながらオルタナティブメタルへの接近を図り脱メロデス路線となっていたバンドですが本作はメロデスへ一部回帰。なお、オルタナティブメタル路線は失敗ではなくスウェーデンではナショナルチャート1位を連続して取っているし、むしろ商業的には成功した変化でもあったのですがメタルコミュニティからは酷評されてきた近作に比べて本作はかなり初期のメロデス色が戻ってきています。
初期の中心メンバーであるイェスパー・ストロムブラードが昨年、ヘイローエフェクトで「まさに(イェテボリ)メロデスの王道」サウンドを具現化したことにも影響を受けたのでしょう。もちろん、前面メロデス化したわけではなく従来のオルタナティブロック路線というか、クリーントーンでちょっと浮遊感がある最近のメインストリームなヘヴィロック路線の要素も大きく、曲によってミックスされている感じ。ただ、音そのものにかなりエッジが立っておりメタル耳も十分楽しめる良質なプロダクション。一時期はクリーントーンばかり使っていたボーカルもグロールが多用されています。90年代に比べるとかなり洗練(漂白というべきか)されていますが、どこか土臭いアコースティックギターの使い方や独特のまがまがしい空気感が曲によって顔を出す瞬間があるのがうれしいところ。Knotfestでも来日してくれるのでライブが楽しみ。
Wig Wam / Out of the Dark
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ノルウェーの誇るメロディックハードロックバンド、ウィグワムの復活第二弾アルバム。メロハーの殿堂、イタリアのフロンティアレコードからのリリース。フロンティアはメロハーの良作を量産していますが、やはり企画ものバンドではなく自分たちの物語を持っているオリジナルバンドは一本軸が通っている気がします。いわゆる(メロデス以前の)「北欧メタル」的な透き通った感覚がありますが、こちらはスウェーデンではなくノルウェー。ノルウェーと言えばブラックメタルでありやはりスウェーデンの洗練とは違うどこか暗黒的な雰囲気やバイキング的なメロディが特徴。このアルバムも明るく爽やかなコーラスはあるもののヘヴィでダークなパートも多いし、バイキング的なメロディも多用されています。この辺りがオリジナリティですね。ワールドミュージック、伝統音楽(フォークミュージック)とメタルの融合が大好物の僕としては好きな路線。
Paramore / This Is Why
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USロックの冬の時代であった2010年代に燦然と存在感を示したパラモア。オリヴィア・ロドリゴが影響を公言したことからも再注目されました。近年のUSの女性ロックの一つの発火点の一つになったバンドなのかもしれない。14歳、中二の時に聞いた音楽がそのあとの嗜好をかなり左右すると言いますが、パラモアの大出世作「Paramore」が2013年。その時14歳だった人は今23歳。ストリーミングで旧譜にアクセスしやすくなったとはいえ、やはり「現在進行形で活躍しているアーティスト」の影響は大きい。今の20代前半の女性ロックアーティストにとって一つのロールモデル、あるいは自分の音楽を形作るきっかけになったアーティストなのでしょう。6年ぶりの新作となる本作はかなりポストパンク路線が強まっており、UKのポストパンクリバイバルに対するUSからの回答、みたいな趣も。ただ、ポストパンク的な前半に比べて後半はやや落ち着いたSSW的な、最近のUSインディーロックっぽい音像。もうすぐ活動20周年(結成は2004年)というベテランなのにかなりフレッシュな感覚があるのは流石。とはいえ、着眼点や曲構成そのものは斬新ながら演奏や編曲は流石ベテランの風格と洗練があります。
Gezan with Million Wish Collective / あのち
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日本のポストハードコアバンド、GEZANのニューアルバム。「Million Wish Collective」はコーラス隊のことで、昨年の野音のライブにも参加していました。コーラス隊を迎えての初のアルバム。より祝祭的になりながら「わかりやすさ」が増しています。
本作を聞いた最初の印象は「インディーズとか日本のアンダーグラウンドな音楽文化をわかりやすくパッケージしたアルバムだなぁ」ということ。「吐き気がするほどロマンチック(スターリン)」「もう(俺らは)我慢できない/くらいねくらいね(じゃがたら)」など、インディーズシーンを連想させるフレーズを織り交ぜつつ「いつまで清志郎に頼っているんだ」と説く。正直、そこは流れ的に「(江戸)アケミ」とか「(遠藤)ミチロウ」だろう、と思ったけれどそれだと伝わらないから「(忌野)清志郎」にしたのでしょう(ほかにも「ジョンレノン」も出てくる)。そういう「本当はいろいろ知っているけれど伝わらないだろうから有名どころを取り上げるよ」的なところが鼻につくと言えばつく部分もあるけれど、結果としてわかりやすく伝わることは確か。客観的なプロデュース意識がある、と言うか。こういう「合唱を取り混ぜたカオスなロック」だとmizuirono_inuがめちゃくちゃ凄いと個人的には思っているんですが、あのままでは多分かなり限られた人にしか伝わらない。あの空気感をより普遍性をもってパッケージしきったことは偉業。あと、ボーカルの声がいいですよね。切り込んでくるような声が陳腐さを跳ねのけている。全体として尖りながらも普遍性に手を伸ばせる傑作。
以上、今週は4枚でした。それでは良いミュージックライフを。