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素晴らしきメタル・バラードの世界 1980年代前半編

素晴らしきメタル・バラードの世界。80年代は曲数が多いので前後半に分けてお届けします。

70年代に萌芽~確立したヘヴィメタルというサブジャンル、概念は80年代にはより確固としたものとなり、メインストリームの商業的成功も手に入れました。いわゆる「80年代メタル」としてイメージされるヘアメタル、グラムメタル、ポップメタルのバンド群(日本ではLAメタルとも)が活躍し、音響設備の進化によりライブツアーが大規模なアリーナやスタジアムで行われるようになった「アリーナロックの時代」。ただ、同時にメタルというものがイメージの一つとなり、ポップスとしての骨組みにメタル風味を被せた曲も多く生み出されるようになりました。そうした華やかな時代の中で真の「メタル・バラード」と呼べる曲を選んでみます。

素晴らしきメタル・バラードの世界へようこそ。


Iron Maiden / Remember Tomorrow (1980)

1970年代後半、ロンドンを震源地としたNWOBHMが表舞台に噴出したのは1980年。アイアンメイデンのデビューもその大きな契機となりました。メイデンサウンドというのは、本質的にはプログレ、特にイエスのクリス・スクワイアのような動きの大きいベーススタイルをパンクのスピード感とメタルの轟音によってリニューアルしたもの。この時まで、ここまで前面に出るベーシストはメタル界にはいなかったんですよね。ジャズやプログレにはいましたが。最初のボーカルだったポールディアノはパンキッシュな感覚も持ち合わせていてそれが唯一無二の魅力だったのでしょう。とにかく「新しいメタル」を体現したバンドが1980年におけるアイアンメイデンでした。この曲は静と動のダイナミズムがドラマティックな名曲。

Saxon / 747(Strangers in the Night) (1980)

NWOBHMの初期から活躍するSaxon。ちょっと年齢は上でオジーオズボーンやロブハルフォード、つまり70年代初頭から活躍するバンド達と同世代。遅れて花開いたバンドです。そのためか最初からどっしりとして芯がある、言い換えればNWOBHMの中では70年代ハードロックとの地続き感が強いバンド。作曲センスは光るものがあり、この曲はしっかりとロックのエッジが立ち、ビートも効きながらほのかな哀愁がある曲。マイナー調とメジャーの切り替えがうまい。1965年のNY大規模停電をテーマに、空港に着陸できず空中待機したジャンボ機(747)の乗客の心情を歌った曲。乗客の不安と飛行機の浮遊感がうまく表れています。

Def Leppard / Bringin' On The Heartbreak (1981)

NWOBHMから飛び出したもう一つのスター、デフレパード。なぜか80年代はLAメタル、ヘアメタルの一群に数えられます。地理的には何の関係もないのですが。80年代後半にはそうした分厚いコーラスと派手なビジュアルを売りにすることになるわけですが1980年代前半はもっとUKハードロックのルーツが見える音楽性でした。この曲は80年代メタルバラード特集でも時々出てくるかもしれません。Love Bitesの方がヒットしましたがこの曲の方がメタルバンドらしさはあると思います。後半に向けてドタバタと盛り上がっていく感覚。

Michael Schenker Group / Never Trust a Stranger (1981)

「神」と呼ばれるほど日本ではギターキッズに人気があったマイケルシェンカー、UFO、スコーピオンズを経て自分のバンドを持ったのがMSG。名ドラマー、コージーパウエルを迎えた2ndアルバム「神話(MSG)」からのナンバー。ゲイリーバーデンの歌メロが冴えています。この曲の一筋縄ではいかない転調感や泣きメロとメジャーコードのバランスは独特。スコーピオンズ的と言えるかもしれません。次々とメロディが展開していく曲で、コーラスに絡みつくギターフレーズが癖に。

Praying Mantis / Beads of Ebony (1981)

NWOBHMの中から現れ、日本で人気を博したプレイングマンティス。息の長いバンドで現在も活躍中です。ポップでフックのある歌メロと絡みつくツインリードギターが特徴で、この当時の「パワーコードの刻みリフ+ツインリードのメロディアスなフレーズ+キメが多いバンドサウンド」というNWOBHMのフォーマットに忠実ながら他バンドより格段にポップなコーラスを持つという特徴のあるバンド。そもそも「祈っているカマキリ」ですからね。メタルバンドでカマキリをモチーフにする時点で少しセンスが変。この曲はそんな彼らのレパートリーの中でも構成が複雑でどんどん展開するメロディアスかつドラマティックな曲。

Tygers of Pang Tang / Mirror (1981)

後にThin LizzyWhitesnakeで80年代白蛇大ブレイクの原動力となるジョン・サイクスを擁するタイガーズオブパンタン。2ndアルバム「Spellbound」からのナンバー。これもNWOBHMの名盤とされていますね。後にPlease Don’t Leave Meを筆頭に名バラードを多数生み出すことになるジョンサイクスの美意識を確かに感じられる名曲。そういえばメタルバンドがサビで「Mirror」という単語を使う場合、たいてい2回繰り返しますよね。「Mirror Mirror」と。Blind Guardianがそうだし最近ではBabymetalもそうだし。他にもあった気が。「鏡よ鏡」みたいな2回繰り返しの定型句なんでしょうか。

Whitesnake / Here I Go Again (1982)

ジョンサイクス参加”前”のホワイトスネイク。こちらも1987のWhitesnake(サーペンスアルバス)バージョンではなく1982年のオリジナルバージョンです。冒頭のオルガンはジョン・ロード。この時はドラマーがイアン・ペイスだし、ディープパープル色が強い時期です。ブルージーな魅力がある名曲。この後ディープパープル80年代の再結成でメンバーが抜け、ジョンサイクスらが加入して80年代ホワイトスネイクが始動(そして崩壊)します。この曲は派手さが増した87年バージョンと聞き比べてみるのも面白いです。冒頭のオルガンがなくなり(このハモンドオルガンのサウンドはジョンロードのシグネチャーサウンドだからジョンロードがいなくなった時点で再現できない)、ギターソロの雰囲気がだいぶ変わっています。

Iron Maiden / Hallowed By Thy Name (1982)

再びメイデン。今回の選曲ルールとして「同じバンド、同じボーカルからは1曲」としています。つまり、同じバンドでもボーカリストが変われば選んでいる。また、同じボーカリストでも違うバンドなら選んでいます。けっこう雰囲気が変わりますからね。こちらはボーカルがブルースディッキンソンに変わっての「The Number of The Beast(魔力の刻印)」からのナンバー。ドラマティックなアイアンメイデンの代表曲の一つであり、メタル・バラードの代表曲の一つとされる曲です。静と動のダイナミズム、メタル音楽ならではの物語性の一つの完成系を提示した曲。この曲はそれほど音程移動は激しくないものの相変わらずベースサウンドが唸っています。なお、メイデンはこの次のアルバムでドラマー交代が起き、そこでもけっこうサウンドが洗練されますが、このアルバムが一番特異なサウンドだったかも。この時のドラマー(クライブ・バー)って他の楽器とのユニゾンがめちゃくちゃ多いんですよね。ドラムとしてのビートキープよりほかの楽器とのユニゾンを優先するというか。

Vandenberg / Different Worlds (1983)

後にジョンサイクスの後任としてWhitesnakeに入るエイドリアン・ヴァンデンバーグ率いるオランダのVandenberg。この人はアコースティックギターの使い方が上手いですよね。ちょっと弾いてみた、という感じではなくきちんとクラシックギターの曲としても成り立つようなしっかりとした構成が考えられている。この曲はいわゆる「80年代メタル・バラード」のパブリックイメージに近い曲調。アコースティックギターとエレクトリックギターの対比が聴きどころ。1983年ごろはそろそろメタルがメインストリームに乗り始める頃ですが、まだ「メタルバンドのバラードが売れる」という感覚はなかったと思われます。あんまりヒット曲が出ていないので。

Quiet Riot / Thunderbird (1983)

80年代、メインストリームにメタルが躍り出ることになった爆発点であるQuiet Riotの「Metal Health」。全米一位を獲得した初のメタルアルバムとされています。もともとオジーオズボーンバンドで名を馳せたランディ・ローズが在籍していたバンドであり、本作は1982年に事故死したランディ・ローズに捧げられたアルバムでもあった。本作リリース後に契約や人間関係で内部崩壊しQuiet Riotは一発屋のイメージもありますが改めて聞き直すとメタル時代の幕を開けたことが納得できる完成度の高いアルバム。ボーカルの表現力も高いしバンド全体がドラマティックに盛り上げる力も高い。この曲は名バラードだと思います。

Rainbow / Can’t Let You Go (1983)

様式美のゴッドファーザーと言えるリッチーブラックモア率いるレインボウの「Bend Out Of Shape」からのナンバー。ボーカルはジョーリンターナー。本作の後、リッチーブラックモアがディープパープル再結成に参加するためレインボウは実質的に解散状態となり、その後ジョーリンターナーがディープパープルに加入することになるわけですが、本作はそんなレインボウのカタログの中でも曲の出来が良く、この曲もメロディアスかつ堂々たる威厳がある曲。クラシカルなイントロからミドルテンポで曲が進んでいきます。曲展開が複雑なわけではないけれどとてもドラマティック。リッチーブラックモアにしか出せない感覚。

Dio / Rainbow in the Dark (1983)

様式美のもう一人のゴッドファーザー、ロニージェイムスディオ率いるDIOの名曲。Rainbowのあとブラックサバスを経て自分のバンドを持ったディオの1stアルバム「Holy Diver」からのナンバー。ディオはUSにパワーメタルやエピックメタルと呼ばれる音楽、イメージの種をまき続けます。DIOってUSのバンドなんですよね。USパワーメタルの直接の祖はロニージェイムスディオだと思います。ディオの真骨頂は本曲で聴けるようなミドルテンポでぶっとい声で歌い上げるドラマティックなメロディ。キーボードのリフ(というか音色)がちょっとかわいげがあり印象に残ります。

Dokken / Alone Again (1984)

いわゆるLAメタル(グラムメタル、ヘアメタル)を代表するバンドの一つ、Dokkenの名バラード。「メタル」の名に違わずキーボード主体ではなくしっかりギターサウンド、バンドサウンドがボーカルを支えており、ドラマティックに盛り上がります。Dokkenのギター(ジョージ・リンチ)はエッジが効いているんですよね。ボーカルの超絶歌唱力、スーパーハイトーンや威厳のある声ではないもののボーカルとギターリフ、バンドサウンドが絡み合うメロディアスでドラマティックな佳曲。

Manowar / Mountains (1984)

USパワーメタル、あるいは「エピックメタル」というものを一段階推し進め、ネタ一歩手前というか本人たちは大真面目なのだが傍から見るとストイックすぎて一歩引きたくなる暑苦しさを持った伝説のバンド、Manowarの名バラード。リーダーのジョーイディマジオもまた超絶ベーシストでアイアンメイデンのスティーブハリス以上に前に出てくるというか弾きまくります。本作はベースのアルペジオからスタートする珍しい曲。途中もベースのハーモニクスやコードストロークを多用、いわば「ベース弾き語り(+ドラム)」とすら言える曲。メタルという音楽シーンにおいてベースの可能性をさらに広げたプレイヤーなのは間違いありません。

Twisted Sister / The Price (1984)

ヘヴィメタルが青少年に与える悪影響についてフランクザッパらとともに米国の公聴会で政治家と渡り合いメタル界のご意見番として地位を確立したディースナイダー率いるTwisted Sister。80年代のグラムメタルブームに乗ってデビューのチャンスをつかみヒットを飛ばしましたが1972年から活動するベテランで、いわゆるLAメタル勢とは世代が違います。少し年上のお兄さんバンド。NWOBHMにおけるSaxonみたいな立ち位置か。なお、場所もLAではなくNYが拠点。NYのクラブで演奏する下積み生活が長く、そのため演奏技術は高い。この曲もシンプルでそれほど飾り気がないけれど真っ当勝負で盛り上げるバンドの地力を感じさせるバラード。

Accept / Winterdreams (1984)

ジャーマンメタルの源流の一つ、Acceptのバラード。この曲は曲構成そのものはそこまで大仰ではなくあまりエピカルではないのですが、ボーカルがメタルボーカリスト以外の何物でもない嗄れた金属的な声。それにこのドイツ的なシンプルなメロディが組み合わされると鋼鉄感と哀愁が立ち上ります。ボーカリストのUDOは自分が作ったAcceptを追われ、自分のバンドU.D.O.を結成するという悲運なんだか強運なんだかわからない人。強運というのは今でも元気に活動していますからね。これだけ癖が強いスタイルでずっと活動を続けてきたのはやはり一つのスタイルを切り開いたオリジネイターの凄味でしょう。

Sortilège / Délire d'un fou (1984)

ドイツのメタルバンドは黎明期から英語で歌うバンドがほとんどでしたがフランスのソリタージュは母国語のメタルを生み出しました。このアルバムは英語版もあるのですがフランス語版の方が力強いのですよね。やっぱり慣れない言語だと歌いづらかったのでしょう。1980年代前半から英語以外でメタルバンドが存在した主な言語は日本語、フランス語、ロシア語、スペイン語ですね。それぞれ話者が多く、その言語の音楽市場の規模が大きかったからでしょう。90年代にはブラックメタル、フォークメタルの隆盛があり欧州各国(特に北欧、東欧)や中国・韓国などでも母国語のメタルバンドが生まれていきます。この曲はフランス語の曲、ハイトーンボーカルの金属感とドラマティックな曲構成はUSメインストリームとの同時代性をぶった切る独自性があります。ものすごくエピカル。

Ratt / Back for More (1984)

USメインストリームに戻ってきました。LAメタルの雄、RATT。RATTってあまりわかりやすい「バラード」がないバンドで、一応バラードとされるGivin' Yourself Away(1990)にしてもいわゆる「パワーバラード」ではなくビートが効いています。ミドルテンポ、スローテンポでメロディアスな曲、かつ全盛期の曲ということでこちらを選んでみました。パーティーなノリではなくちょっと哀愁があるナンバー。

Jag Panzer / The Watching (1984)

USパワーメタル、エピックメタルの初期から活動するJag Panzer。彼らのデビューアルバムAmple Destructionはこのジャンルの名盤とされています。近年エピックメタル、USパワーメタルの再評価が進んでいますね。ストーナーメタルの隆興も関係あるのだろうか。音楽的特徴としては勇壮なメインテーマを奏でるリフ、ミドルテンポで行進するようなテンポ、じっくりと展開していくドラマティックなメロディなどが王道です。疾走曲もありますがエピカルな大曲というとやはりミドルテンポであったり、スローテンポとアップテンポの組み合わせで合ったり、、、つまり本稿で扱う「メタル・バラード」がたくさん埋まっているジャンル。この後もUSパワーメタルバンドはたくさん出てきます。


以上、80年代前半編でした。「80sメタル・バラード」の定番から他ではほぼ見かけない曲まであったと思いますが、通底するものはメロディアスでドラマティックであること。フランスのSortilègeとか他にない特異性があるので好きな人は好きなバンドだと思いますし、UDO時代のAcceptにもちゃんとバラード曲があることはちょっとうれしくなる豆知識だと思います。なお、もう1曲、90年代のObjection Overruledにも「AMAMOS LA VIDA」というバラードが収録されていますが僕的には今回選んだ曲の方が好み。

次回は80年代後半編です。お楽しみに。

それでは良いミュージックライフを。







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