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連載:メタル史 1985年②Celtic Frost / To Mega Therion 情報編
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スイスのエクストリームメタルバンド、セルティックフロストのセカンドアルバム。デビューアルバムも当連載で取り上げました。
前作は1stとは位置づけられているものの、リリース当初はEPであり、あとから2曲追加されたもの。そういう意味では本作は初めて「フルアルバムを作る」という意識で最初から取り組んだ作品です。前身であったHellhammerの悪名を乗り越えデビューにこぎつけ、一定の評価を得て自分たちの音楽性、ビジョンに自信を持ったであろうバンドがどのような音像を作ってくるのか。リリースがノイズレコード(ハードコア・パンクレーベルのメタル部門が出自)というのも特異な音作りに影響を与えていたのでしょう。スイスといういわばメタル的な「飛び地」からの出現ということや、「メタルレーベル」の出身ではない故の自由さ、新規性、あるいは自己流の模倣による極端さが感じられた1stから、2ndはどのように変化したのか。
メンバーは、前作でともにバンドを立ち上げたGt兼Voのトーマス・ガブリエル・フィッシャー(このバンドではトム・ウォリアーと名乗った)とベーシストのマーティン・エリック・エインのうち、エリック・エインが不参加(本作制作後に再び参加)。Hellhammer時代からの盟友だった二人ですが、Hellhammer時代から続く悪評にエインが疲れたこと、音楽的により洗練に向かっていく中で自らの役割に悩んだこと、ウォリアーとの関係性の悪化などで一時的にバンドを離れていたようです。本作はアメリカ人ベーシストのDominic Steinerが参加。ただ、アルバム制作を通してウォリアーはエインの重要性を再確認したらしく、アルバムリリース後に復帰。その後は活動休止まで活動を共にすることになります。
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脱退するDominic Steinerが右端
印象的なアートワークは映画Alienのキャラクターデザインでも著名なH.R.ギーガーによるもの。ギーガーはほかにもEL&Pの「頭脳改革」などロック系のジャケットをいくつも手掛けていますね。実はギーガーもスイス出身で、そうしたつながりがセルティックフロストのジャケットを手掛けることきっかけになったのかもしれません。なお、これが縁となったのか、あるいはその前から交友があったのか、フィッシャーは2000年代にはギーガーの個人マネージャーを務めていました。意外な関係。ミュージシャンが画家のマネージャーを務めている例は珍しいですね。自分のレーベルを持つ(=ほかのミュージシャンのマネジメントも手掛ける)例はありますが、違う分野の著名クリエイターのマネージャーは珍しい。
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結果として本作はデスメタル、ブラックメタルといったエクストリームミュージックの古典としてカルト的な人気を誇ることになりますが、リリース当時はまだまだ駆け出しのバンドであったし、音楽性も広く受け入れられる可能性は低いものだった。結果として、ギーガーのジャケットのインパクトもあり、本作はメタル史に燦然と輝く存在感を放っています。
本作の特徴として挙げられるのはフレンチホルンの導入、いわば「クラシックの導入」です。もちろん、クラシック的なメロディを取り入れるのはリッチーブラックモアをはじめ他にも先例がありますが(そもそもDeep Purpleはオーケストラと共演していますし)、そうしたロック界、ハードロック界の先例を踏まえつつもオーケストレーションを激烈なメタルに取り入れたのは先駆的。1985年当時は新しい音像です。ようやく形になりつつあったThrash Metalをさらに推し進め、ゴシック・ニューウェーブなどの影響を感じさせるダークなトーン、ハードコア的な攻撃性を加味したDeath Metal、Black Metalの元型的な要素、そして90年代以降のブラックメタルに通じるオーケストレーションの導入と、異形ながらその後のメタル史に大きな影響を与えた作品。Mayhem、Emperor、Darkthroneなどのブラック・メタルや、Morbid AngelやObituaryなどのデス・メタル勢が本作からの影響を公言しています。
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ちなみに演奏しているのはWolf Benderというミュージシャンですが
このアルバム以外で名前を見かけたことはありません
タイトルの「To Mega Therion」はギリシャ語(Τὸ Μέγα Θηρίον)で「大いなる獣」を意味し、アレイスター・クロウリー(オカルト研究家)の称号から取られたもの。クロウリーはOzzy Osbourneの「Mr. Crowley」でも歌われていますし、Led ZeppelinのジミーペイジやKing Diamondもテーマとしていました。ハードロック、メタルシーンに脈々と受け継がれる悪魔をテーマとしたアルバムですね。なお、トム・ウォリアー自身は悪魔主義者ではなく、あくまで歌詞のテーマとして扱っていたとインタビューで明言しています。「宗教そのものを信じていない」と語り、むしろ既存の組織化された宗教には否定的な立場です。
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本作のプロデューサーはHorst Müller, Tom G. Warrior, Karl Walterbachで前作と同じクレジット。トム・ウォリアーはバンドの頭脳で、ワルターバッハはノイズレーベルのオーナーですね。録音も前作と同じドイツながら違うスタジオ。少し良いスタジオに移ったのでしょうか。
次回はレビュー編です。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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