連載:メタル史 1980年①Black Sabbath / Heaven and Hell
#早速購入いただいた方、ありがとうございました。今回から本編を書いていきます。今回は初回なのでサンプルとして全編無料公開。はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
Black Sabbathはヘヴィ・メタルの祖ともされるバンド(→関連記事)です。1970年にリリースした2枚のアルバム「Black Sabbath」と「Paranoid」によって「ヘヴィ・メタルという音楽のイメージ」を定義した。その後も次々とメタル史に残る名盤をリリースしてきますが70年代後半になると失速。あまり評価の高くない「Never Say Die(1978)」リリース後、看板ボーカリストであったオジーオズボーンが脱退してしまいます。デビュー当初は工場労働者であり規律があるライブバンドであった彼らも活動の中でロックスターとしての生活に溺れ、酒、ドラッグ問題で身を持ち崩し、どうにもバンド活動が続けられる状態ではなかった。そんな彼らが起死回生の策として新たに迎えたボーカリストがRainbowを脱退したロニージェイムスディオでした。
以前書きましたが、僕はヘヴィメタルという音楽のイメージが固まったのは1970年代後半~1980年代前半にかけてだと思っています。特に1980年以降にいわゆる「メタル」とされる音像を持った作品が多くリリースされるようになった。だからこの連載は1980年を起点としています。70年代は明らかな「メタル」感のあるアルバムはまだ少ないんですよね。ボーカルの歌い方、ギターの迫力、ドラムとベースの生々しさや前面に出てくる感じ、これらが「今まで聞いたことがないほど激しいな」と感じる作品が80年代に入って急に増えていきます。
そんな中、70年代でメタルサウンドの確立において特に重要なバンドはBlack Sabbath、Rainbow、Motörhead、Judas Priest、Budgieだと思っています。彼らが生み出した原型がさまざまに波及していく(USだとKISSやAlice Cooperがいますが、彼らはパフォーマンスやビジュアル面のインパクトはあったけれど録音物的には既存のハードロックの範疇だと思います)。そうした「メタルの先駆者」たちの中で2つのバンド、Black SabbathとRainbowが合体したらどのような音像になるのか、期待が高まる中で本作がリリースされました。
結論から言えば見事に「Black Sabbath + Rainbow」を体現した名盤。現在までにUKでゴールド、USでプラチナムディスクを獲得し、商業的にも成功しました。
プロデューサーはマーティンバーチ。もともとFleetwood MacやDeep Purpleのレコーディングエンジニアとしてキャリアをスタートし、Deep Purple、Rainbow、Whitesnakeなどのパープルファミリー作品をプロデュースしてきた名プロデューサーで、おそらくロニーの紹介で本作を担当。マーティンバーチはこの後Iron Maidenとタッグを組み次々と名盤を生み出していきます。
なお、オジー脱退後のブラックサバスにロニーを紹介したのはシャロンアーデン(のちのシャロンオズボーン)だったとされています。シャロンの父親はブラックサバスのマネージャーであり、シャロンはそのまま脱退したオジーのマネージャー、そして後に妻となります。彼女がボーカル不在になったサバスとレインボウを辞めたロニーを引き合わせた。
この当時、サバスはほとんど活動停止状態でした。オジーは脱退、ギーザーバトラーも離婚したばかりで不在、ビルワードはアルコール中毒(それが原因でこのアルバム録音後に脱退)、そんな先の見えない状態からトニーアイオミとロニーの出会いによってサバスは復活を遂げます。起死回生の一枚。タイトルの「天国と地獄」はバンドメンバー自身のおかれた境遇を表していたのかもしれません。
各種データ
Released : 18 April 1980
Studio : Criteria, Miami + Ferber, Paris
Genre : Heavy metal
Length : 39:46
Label : Vertigo
Producer : Martin Birch
Black Sabbath
Ronnie James Dio – vocals
Tony Iommi – guitars
Geezer Butler – bass
Bill Ward – drums, percussion
Additional personnel
Geoff Nicholls – keyboards
All music written and arranged by Geezer Butler, Ronnie James Dio, Tony Iommi, and Bill Ward; lyrics by Dio
1."Neon Knights" 3:53 ★★★
ベースとドラム、そしてパワーコードの刻みからスタート。メジャーコードの展開が多く疾走感がありかなりRainbow色の強いオープニング。独特のリフが曲を主導することが多かった初期Black Sabbathからいきなりこの曲を聴くと違和感を感じますが、実は前作Never Say Dieの一曲目も疾走感がありメジャーコード主体の曲だったので70年代サバスにもすでにあった要素。ただ、歌メロはDio節とでも言えるものでOzzy時代とは違うものを感じます。ギターソロは即興性が高いもの。ビルワードのドラムがパワフルに鳴り響き、ギーザーバトラーのベースもうなります。Rainbowに比べるとキーボード奏者がいない分、バンドのグルーヴが前面に出ています。歌詞は「ネオンナイツ」なので音だけだと大都市の夜を想起しますが「Neon Knight」で騎士の方。
2."Children of the Sea" 5:34 ★★★
アルペジオの静謐な響きからスタートする曲。最初のパートはRainbow時代のTemple Of Kingなどを彷彿させますがそこからヘヴィなパートに展開するのはSabbathならではのお家芸。少ない音数でヘヴィさを感じさせるのが上手いバンドです。オジーの独特の金切声に比べるとディオはかなり朗々と歌い上げるので、一歩間違えるとかなり暑苦しい、重苦しさを感じさせるところをマーティンバーチの手腕かギターサウンドが明るめなのが良いバランスを保っています。そこそこアップテンポだけれど、ヘヴィバラードとも呼べるエピカルで荘厳な曲。ギターソロはやや作曲された感じがするフレーズ。ギターソロのバックで流れる呪術的なコーラスが雰囲気を出しています。このアルバムの全曲作詞はディオで、この曲も魔法やファンタジーに関するもの。
3."Lady Evil" 4:26 ★★☆
ここで軽快なロックンロールに。ただ、曲はロックンロールながらギーザーバトラーのベースが低音が効いており、少し後ノリのため全体としてはヘヴィで酩酊感を出しているのはさすが。曲全体を通してベースの存在感が目立ちます。歌詞は魔女についてのもの。RainbowのTarot Womanみたいなモチーフですね。ギターもザクザクしてうねっており、人間椅子なんかの原型になっている曲。早すぎず遅すぎず、ちょうど歩くぐらいのテンポで心地よく体にリズムが沁みる曲。コーラスのハーモニーもさりげないけれど効果的です。1曲目、2曲目と荘厳だったけれど、こちらはちょっと享楽的でサバス流パーティーロックといった曲。
4."Heaven and Hell" 7:00 ★★★
タイトルトラックで7分に及ぶ大曲。オープニングはRainbowのStargazerを連想させます。そこからベースとボーカルだけに。この「ベースとボーカルだけ」というのがけっこう効いていて、このパートが長いんですよね。静と動のコントラストを強烈に演出しています。少ない音数でドラマを生み出す魔法こそがサバスの特異性。途中でテンポチェンジもあり、ドラマティックに展開していくいかにもサバスらしい曲。
この曲の歌詞はやや意味深と言うか、リリース当時のバンドがおかれた状態を表しているようにも。冒頭から「あなたは歌手だ、歌ってくれ」でスタートし、「天国と地獄、愚か者(Fool)愚か者(Fool)」とコーラスで歌われる。ドラックとアルコールで歌えなくなったオジーのことともとれるし、あるいはディオ自身、ロックスターの生活は堕落しようと思えばすぐに地獄のようになるということを戒めたのかもしれません。
なお、そうしてジャケットを見るとこのやさぐれた天使たちはブラックサバスのメンバーなのかも。かつては天使、労働者の天使だったのが堕落して天国と地獄を見た。
5."Wishing Well" 4:07 ★★☆
少し軽快な曲、ギターとベースのユニゾンリフが曲を引っ張っていき、そこにボーカルが乗ります。ちょっと箸休め的な曲ですがディオの熱唱が乗ると迫力があります。リフだけで引っ張るのではなくコーラスではコード展開が変わるなどちょっとしたフックもありギターソロはサイケデリックな響き。ギターソロの途中でちょっと歌謡曲みたいなフレーズも出てきます。シンプルかと思うとけっこうな量のアイデアが詰め込まれた曲。
6."Die Young" 4:45 ★★★
ツインギターの抒情的なギターソロのオープニングから勢いよくリズム隊が入ってきて疾走曲に。1曲目と同じように勢いのある曲だけれどこちらはよりマイナー調で緊張感が高め。歌詞も「若くして死ね!」となかなか強烈。明日のことを考えず今を生きろ、というメッセージが訴えられ、曲もそれに合わせた切実な疾走感があります。コーラスは音数が減りベース、ギター、ボーカルに。静と動のダイナミズムが強調されている曲。
7."Walk Away" 4:25 ★★☆
グラムメタルのような爽やかなギターリフからスタート。最初のギターリフだけ聞くと「これトニーアイオミだぜ」とはなかなか思わないでしょう。明るめでこの頃のUSメタルっぽい曲。荘厳でシリアスな響きの曲(1,2,4,6)と明るめで軽いノリの曲(3,5,7)が交互に出てくるのは意図的なのでしょう。軽いノリ、といってもあくまでこのバンドにしては、ですが。こういう軽いノリの曲だとギーザーバトラーのベースの重さ、太さが目立ちます。また、一聴して軽めの曲でも曲展開がかなり凝っていてさまざまなアイデアが詰め込まれているのが本作を名盤にしています。「手抜き曲」が存在しない。
8."Lonely Is the Word" 5:51 ★★☆
鳴り響くギターリフ、同じコードをかき鳴らすだけですが、ややスローで立ち込める雲のような響きがあります。後のストーナー的な感覚がある曲。ギターサウンドが明るめで意外とカラッと乾いています。ベースが動き回りボーカルラインと絡みつく。ギターソロは抒情的。ちょっとLed Zeppelin、ジミーペイジ的な感じもします。ゆっくり弾いていたと思ったら途中からけっこう音数多めに。トニーアイオミはそこまで音数多く弾きまくらない人ですがこの曲は彼にしてはかなりソロを弾きまくっている印象。ベースやドラムも手数が増えていき熱量が高まったところでボーカルが入ってくる。ドラマティックなバラード。かすかに入るキーボードの音色が哀愁を誘います。
改めて聞いても名盤ですね。メタル史における原型の一つとなったアルバム。
それでは良いミュージックライフを。
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