大人のためのメタル話③ 現在(2022)のメタルシーンを見渡す75曲 ~1.70年代デビュー組編~
ヘヴィ・メタルは多くのことを教えてくれました。「メタル」と名前が付くから行ったことがない国の知らないバンドと出会い、そこから多くのことを知りました。北欧メタルがなければ僕がフィンランド、ノルウェー、スウェーデンの違いについて考えることはなかったでしょうし、ジャーマンメタルがなければドイツに強い親近感を覚えることもなかったでしょうし、オリエンタルメタルがなければイスラム世界における音楽の役割を考えることもなかったでしょう。ヘヴィ・メタルは知らない世界への扉だったのです。今日は、2020年代のメタルの扉を再び開いてみましょう。
ヘヴィ・メタルの発祥を1970年、ブラックサバスのデビュー時を起点とするとすでに50年以上の歴史を持っています。その50年の間に「メタル」で定義される音楽のイメージは大きく拡大しました。メタルの本質が「歪み」だとすると、「歪み」の表現技法はだいたい10年周期ぐらいで変化してきており、多様化しています。それはより多くの可能性にメタルの扉が開かれたということですが、80年代、90年代の「メタルブーム」の後、メタルから離れてしまった方から見ると「最近のメタルは良く分からない」となってしまうような気もします。旧譜やベテランを聴きこむのもいいけれど、新譜や新しいバンドも楽しめた方がいいじゃないですか。
ニューメタル以降のメタルコアはいわゆる「ギターリフ主体のメタル」とは別物になっていますし、ポップスやブルースを基調とした曲構造(Aメロ→Bメロ→サビ→繰り返し→ギターソロ→サビみたいなもの)に当てはまらない、音響まで含めた楽曲全体で「歪み」を伝えるような手法も出ています。「メタルってこういう音だよね」の共通認識が困難なほど多様化した今のメタルシーンをどう整理して道案内すればいいのか。次の方法を思いついたので今回はこれでプレイリストを作ってみることにします。
70年代、80年代、90年代、00年代、10年代にデビューしたバンドが2020年以降に出した曲をそれぞれ10曲(10バンド)以上選ぶ
書いたように「10年ぐらいで音像が変わる」傾向にあるんですが、やはりバンドってデビューした当初の音楽性が維持されるんですよね。70年代デビュー組はやっぱり70年代感があるし、80年代、90年代といった各年代デビュー組もそう。なので、デビュー年代でメタル史50年を5つに区切り、各年代にデビューしたバンドがいまどんな音を出しているか、75曲にまとめてみました(本当は各年代10曲=50曲、を考えていたのですが、選んでみたら各年代にバラツキがあり75曲になりました)。これによってアーティストの世代も多様化するし、音像も多様化する、且つ、メタルの歴史を振り返りつつもそれぞれの最新系を聴くことができるんじゃないか、という企画です。6回連続企画。
1.1970年代デビュー組編(当記事) 10曲
2.1980年代デビュー組編 15曲
3.1990年代デビュー組編 20曲
4.2000年代デビュー組編 20曲
5.2010年代(含2020年代)デビュー組編 10曲
6.まとめ 75曲
の予定。これ、全部のプレイリストはすでに選び終わったんですが、通して聞くと「今のメタルシーン」が良く分かるプレイリストになっていると思います。こういう視点で選んだプレイリストを寡聞にして僕は知りません。楽しんでお付き合いいただければ幸いです。選出基準は「メタル界のトップアーティストが2020年以降に出した新曲」です。ただ、どうしても入れたい(入れるべき)アーティストに関しては2018年まで遡っています。具体的にはJudas priestとWhitesnakeですね。彼らは2018年、2019年の曲。それ以外はすべて2020年以降に発表された曲です。「トップアーティスト」の定義は、ヨーロッパの中~大型フェスでヘッドライナークラス(すでに人気が確立している)、あるいはYouTubeで100万再生以上されている(リアルタイムで人気が上がっている)、といった辺りを基準にしています。この75曲で「今のメタル界のトップアーティスト(かつ、2020年から記事執筆時点までで新曲を出したアーティスト)」をほぼ網羅できていると思います。
なお「デビュー」の基準は「デビューアルバム発表年」とします。また、何度か名義が変わっている(バンド→ソロとか)アーティストもいるので、中心人物がメインメンバーとして参加した最初のアルバムが出た年を「デビュー年」とします。
それではPart1、行ってみましょう!
1970年代デビュー組 ~メタルの創生者たち~
1.Ozzy Osbourne(1970年、Black Sabbathとしてデビュー、UK)/Patient Number 9 ft. Jeff Beck(2022)
”帝王”オジーオズボーン。ヘヴィメタルの誕生は1970年、ブラックサバスのデビューアルバムによってなされたと僕は考えています。ヘヴィメタルという言葉自体、ブラックサバスの音楽を評論家が「まるで工場の金属音(Heavy Metal)だ」と酷評したことからついたと。ブラックサバスは英国の重工業都市バーミンガムの出身であり、バーミンガムはブラックカントリー(煤と煙で黒く染まっていた)とも呼ばれる一帯の中心地。彼らは「Heavy Metal」という響きを侮蔑的なものとは受け取らず、むしろ自分たちの故郷の情景を重ね、自らのジャンル名として受け入れます。こうして生み出された「Heavy Metal」のイメージを同じくブラックカントリー出身のJudas Priestが確立していくのです。
そんな「メタルのゴッドファーザー」とも言えるブラックサバスの顔、オジーオズボーンの2022年発表の新曲「Patient Number 9」からスタート。メタル界の最長老の一人であり、未だに現役で新曲を発表しています。本作はUKの誇るトップギタリストの一人、ジェフベックとの共演。前作「Ordinary Man」ではエルトンジョンとも共演しましたし、70年代を共に駆け抜けた「UKロック(メタルシーンにとどまらない)」の仲間たちとキャリアの総括を行っている印象も受けます。オジーオズボーンは時代時代で常にアップデートしてきたアーティストで、本作も新しいチャレンジがちりばめられています。ジェフベックとの共演もそうですが、もう一つ、低音の強調も特筆すべき点。実はメタルってそんなに超低音は使わないんですよね。むしろヒップホップとかブラックミュージックの低音(シンセによる超低音)の方が強い。ウーハーで体にめちゃくちゃ響く奴です。ああいうものは実はメタルは90年代からは相対的に希薄化しています。音波測定的な「重低音」で言えばドラムンベースとかの方が強かった。ただ、「”ヘヴィ”メタル」の元祖としてのオジーが今回はかなり低音を強調した音作りをしています。曲が進むにつれ、一定以上のサイズのスピーカーで聴くと低音がかなり強調されているのが分かると思います。音響的にも「2020年代のメタル」に相応しい「原点にして最先端」と言える曲です。
2.Alice Cooper(1969年デビュー、ヘヴィメタル路線は1971年から、US)/Don't Give Up(2020)
USヘヴィメタルの古参、アリスクーパー。ショックロックの先駆者でもあります。USとUKでひとくくりにされますが流行の差異と言う点では「UK」と「US」はかなり異なります。日本だと「邦楽」「洋楽」で言語の違いからきっぱり分けられますが、UKとUSも音楽性だけで見れば同様に違う。社会の成り立ちも人々の暮らす環境(景色や気候)も全然違いますからね。僕はヘヴィメタルはUK発祥の文化だと思っていますが、USメタルを中心に据えてみるとステッペンウルフの「ワイルドで行こう」やNYのブルーオイスターカルトが「ヘヴィメタル」の源流とされています。彼らと同じく黎明期から活動するのがアリスクーパー。USのトップアーティストだとKISSやAerosmithも現在活動中ですが、コンスタントに新曲を出し続けているのはアリスクーパーだけ。こちらは2020年、ロックダウンの中で応援歌として出された曲。トリックスターであるアリスクーパーがものすごくストレートなメッセージを打ち出しています。それが逆説的で沁みるんですよね。キャラクターとしてのアリスクーパーではなく、素顔の人間というか。
アリスクーパーは1969年デビューで、デビュー年で言えばブラックサバスより早いんですが最初期はまだキャラが確立していません。キャラが確立したのは1971年発表の3作目「Love It to Death」からだと僕は思います。UKで生まれた「ヘヴィメタル」のムーブメントに呼応して変化したのだと思います。USメタル界最長老の一人。
3.Scorpions(1972年デビュー、ドイツ)/Peacemaker(2021)
こちらはジャーマンメタル界の最長老、Scorpions。マイケルシェンカー、ウリジョンロートが在籍したことでも知られ、マイケルシェンカーはその後UKのUFOに加入し、名曲「Doctor Doctor」を生み出す一員となります。この曲はアイアンメイデンのライブ前に必ず流れる曲としても有名で、それはつまりメイデンの大切なルーツであるということでしょう。世界のメタルシーンに多大な影響を与えているオリジネイターの一つがスコーピオンズです。2022年の新作「Rock Believer」から、先行シングルとして2021年にリリースされた「Peacemaker」を。ドラマーが元モーターヘッドのミッキーディーに変わり、エネルギッシュかつメロディアスなスコーピオンズらしい名曲です。
メタル界の最長老はだいたい1940年代生まれで、今は70代半ば。オジーオズボーン、アリスクーパー、スコーピオンズのクラウスマイネ、エアロスミスのスティーブンタイラー、レッドツェッペリンのロバートプラントが揃って1948年生まれです。それより年上なのが1945年生まれのリッチーブラックモア、モーターヘッドのレミーキルミスター。おそらくメタル界で最長老だったのは1942年生まれのロニージェイムスディオでしょう。
ディオは2010年、67歳で亡くなってしまいましたが彼が使い始めたとされるメロイックサイン(コルナ)は世界中にメタラーのシンボルとして広まりました。死後、彼の業績をたたえて銅像がベルギーに設置され、2022年にはドキュメンタリー映画「DIO:Dreams Never Die」も公開されました。
レミーも2015年、70歳で亡くなってしまいましたが死ぬ数週間前までステージに立ち続けるという生涯現役を貫いた生き様が神格化されつつあり、フランスで行われる世界最大規模のメタルフェスHELLFESTでも銅像が作られて偲ばれています。UKのダウンロードフェスでもMotörheadのTシャツを着ている人が多数いました。
クラシック音楽界でベートーベンやモーツァルトが神格化されているように、この世を去ってしまったメタル界の長老たちもメタラーの心の中に神格化されて住み続けるのでしょう。私たちはメタルという芸術形態の創成期を体験しているのです。
4.Blue Öyster Cult(1972年デビュー、US)/The Alchemist(2020)
こちらもアリスクーパーと並ぶUSメタルの長老、ブルーオイスターカルト。NYのバンドであり、デビュー当時はNYパンクシーンとも繋がりがありました。最初期から「冷めた狂気」と評される独自の鋭利な感覚があり、独自の存在感を持つバンド。彼らの初期の代表曲である「Don’t Fear The Reaper(死神)」は1976年にUS12位までチャート上昇、USヘヴィメタルバンドとしてはほぼ最初とも言える成功を手にします。83年以降のメタルブーム以前にUSでヒットしたメタルバンドはほとんどいません。KISSやAerosmithと共にUSメタルシーンを切り開いた先駆者とも言えます。
本曲は2020年の最新作「The Symbol Remains」からのナンバー「The Alchemist」。19年ぶりの復活作でしたが過去作に勝るとも劣らない、若手新メンバーも加えてベテランの風格がありつつもリフレッシュしたサウンドを聞かせています。ちょっとBlack Sabbath的な曲展開と雰囲気を持っていますね。ここまで音楽的に復活すると思っていませんでした。驚くほどいいアルバムといい曲。
ちなみにもともとアイアンメイデンとレーベルメイト(同じサンクチュアリマネジメント所属)だったんですよね。その縁か知りませんが若手時代のメイデンがUSツアーをブルーオイスターカルトの前座で回ったことがあったらしく、「あいつらは機材を貸してくれなかったしケチだった」みたいな恨み言をブルースディッキンソンがインタビューで語っていた記憶があります。仲がいいんだか悪いんだか分かりませんが、その後サタデーナイトライブで「More Cowbell」というネタにされています。これ、面白いコメディなんですが著作権の問題でYouTubeだと定期的に削除されてしまうんですよね。リンクを貼っても消えてしまうので貼りませんが、興味のある方は探してみてください。英語のコメディですが英語が分からなくても笑えます。
5.Whitesnake(1974、Deep Purpleとしてデビュー、UK)/Shut Up & Kiss Me(2019)
Deep PurpleファミリーからはRainbowとWhitesnakeが生まれ、そしてWhitesnakeは最大の商業的成功を収めました。元Deep Purpleのボーカリスト、デヴィッドカバーデイルが結成したバンドで初期は王道のブリティッシュハードロックバンドであり、80年代のUSメタルブームに乗って音楽性をより華やかに変えて大ヒットを飛ばします。元Thin Lizzyのジョンサイクスを迎えてその知名度を世界的なものにしたり、当時新進気鋭のギターヒーローであったスティーブヴァイを迎えたりと、オジーオズボーンと並んでギターヒーローを発掘したバンドでもあります。
大ベテランながら創作意欲は活発でこちらは2019年の最新作「Flesh & Blood」からのシングルナンバー「Shut Up & Kiss Me」。ロブハルフォードと同い年なのですが、変わらず伊達男的な華やかな世界観をキープしています。2020年代に入ってからは新曲を出していないのですが、Deep Purpleファミリーを代表して2019年の曲を選びました。
なお、Deep Purple本体もそろそろ引退しそうながらも2022年現在では活発に活動しており、2020年代に入ってからアルバムもリリースしていますが、やはり「メタル以前」の音像なんですよね。良質な「ブリティッシュハードロックバンド」です。本体もメタルフェス常連なので選んでもよかったのですが、今回は音のバランスからホワイトスネイクを選びました。
6.Judas Priest(1974年デビュー、UK)/No Surrender(2018)
鋼鉄神ジューダスプリースト。「ヘヴィメタル」という音像を確立、定義したバンドであり、彼らの50年の歩みはそのままメタル史の歩みと重なります。一時期は引退を考えていたようですが若手ギタリストのリッチーフォークナーを迎えて再生、むしろ今が最盛期と呼べるような商業的成功、メタルファンからの評価を得ています。日本にもよく来日してくれていますね。2019年のダウンロードジャパン、もともとオジーオズボーンがヘッドライナー予定でしたが体調不良で急遽ジューダスプリーストがヘッドライナーとなり、直前(2018年11月)に単独来日公演を行っていたので1年以内に2回来日するという大盤振る舞い。両方観ましたがロブハルフォードがいまだにあれだけの声が出るのは凄い。流石にステージアクションは地味になりましたが、声の迫力は並のボーカリストをはるかに凌駕しています。
本作は現時点の最新作、2018年の「Firepower」から「No Surrender」。ソリッドなリフにフックのある歌メロが絡み合うジューダスプリーストならではの王道曲です。FirepowerはUSのチャート(ビルボード)で過去最高位となる5位を記録(ちなみに2位は2014年の「Reedemer Of Soul」で6位、二作連続で記録更新中)。昔に比べるとCD自体の売上が減っているのはありますが、さまざまな若手バンドが出てくる中で相対的に支持が上がっているのは凄い。まさにMetal Godに相応しい存在感を放っています。
7.AC/DC(1975年デビュー、オーストラリア)/Realize(2021)
オーストラリアから彗星のごとく現れたAC/DCもまもなくデビュー50周年。度重なるメンバーの死別を乗り越え、半世紀にわたり不動の地位を築いています。音楽性は不変と言われたりしますが、時代時代に合わせて音像は変わっているんですよね。ただ、今回取り上げた全アーティストに言えることですが、やはり70年代デビュー組は70年代の空気感というか、「そのアーティストの核となるもの」は通底しています。そういうオリジナリティがあるからこそ長年にわたり地位を築いてきた、とも言える。特に70年代デビュー組はそれぞれ「自分なりのスタイル」を築き、後続への道を開いたメタル界の創生者たちです。2021年の復活作「POWER UP」の1曲目を飾った「Realize」。このアルバムは曲によって音の厚みがだいぶ違い、全体としてはけっこう隙間が大きい(曲全体の音数が少ない)曲もありますが、この曲はリフやコーラスが多重に重なり重厚感があります。ただ、冒頭のオジーオズボーンと聞き比べてもらうとこちらは中音域に音が固まっているのが分かると思います。むしろ「中音域に音を固める」のがAC/DCスタイル。音の塊、一体感を出し、体が動き出すグルーヴ感を生み出しています。
8.U.D.O. & Das Musikkorps der Bundeswehr(1979年、Acceptとしてデビュー、ドイツ)/Neon Diamond(2020)
いわゆる「ジャーマンメタル」の祖とも言えるAcceptがデビューしたのが1979年。看板ボーカリストであり創設者であったウドダークシュナイダーがバンドを追われ、結成したバンドが自分の名前を冠したU.D.O.です。Acceptは90年代にウドも含めた黄金期のメンバーで再結集するも再び瓦解し、現在はアメリカ人ボーカリストを迎えて新生Acceptとして活動中。ただ、なんだかだんだん特色が薄まってきていて、逆にU.D.O.の方はどんどん風格が出てきています。新生Acceptは商業的には成功していて、アルバムを出すたびにドイツのナショナルチャート10位以内に入る人気があるのですが、U.D.O.も2018年の「Steel Factory」で初の10位以内にランクイン。その勢いを駆り、地元のオーケストラDas Musikkorps der Bundeswehrと共演した企画アルバムが2020年「We Are One」で、この曲「Neon Diamond」はそのアルバムからのナンバー。多少マンネリ化しがちなウドの楽曲に管楽器隊が彩りを添えています。
新生Acceptには黄金期のメンバーとしてギタリストのウルフホフマン、ベーシストのピーターバルテスが在籍していたのですが、ピーターバルテスが脱退し、ウドと共に「Dirkshneider & The Old Gang」というユニットを2021年に結成してEPを発表。新生Accept以上に往年のAcceptらしい荘厳さと風格を感じました。期待が高まった中でアルバムを出すかと思いきや、その期待を裏切って初めてのソロ名義(ウド・ダークシュナイダー名義)でカバーアルバム(しかも「My Way」とか「We Will Rock You」をノリノリでカバー)を出してみる、など独特のユーモアセンスで味のあるいいキャラクターに。ひたすら正統派メタルをやり続けていたウドですが、肩の力を抜いてメタル界の大御所、オリジネイターとして自分のキャリアの集大成を楽しんでいる時期のように見えます。最近のUDOは面白いですよ。
なお、ネットフリックスでアニメ化されてちょっと話題になっている「Bastard!ー暗黒の破壊神ー」の主人公「ダーク・シュナイダー」の名前の元はこの人。あの漫画の登場人物は基本的に全部メタルアーティストの名前です。
9.Accept(1979年デビュー、ドイツ)/The Undertaker(2020)
そして本家アクセプト。こちらも新ボーカリストを迎えて活動は順調、というか、80年代以上の人気を欧州では誇ります。1996年に解散した後、2010年にUS生まれのボーカリスト、マーク・トーニロを迎えて再始動してから5枚のアルバムを出していますがすべてドイツのナショナルチャートでは10位以内にランクイン。2021年の最新作「Too Mean To Die」もドイツ2位、フィンランド4位、スウェーデン7位、スイス4位と欧州では不動の人気を誇ります。この曲はそのアルバムからの先行シングルで2020年にリリースされた「The Undertaker」。アクセプトらしいぐいぐい来るリズム、行進曲のように正確なミドルテンポは変わりませんが、旧来の重戦車のような重厚感よりはやや軽やかな感じを受けます。
今や残る創立メンバーはギタリストのウルフホフマンだけ。しかし残ったギタリストがバンドの名義を持ち、創設者のボーカリストは自分の名前で活動している、というのはPink Floydみたいですね。どういう経緯でこうなったのだろう。ウドダークシュナイダーはアクセプト再結成よりU.D.O.を続けることを選んだのかもしれません。アクセプト本体とウドの両者とも良質な作品を届けてくれるのでリスナーとしては嬉しいのですけれどね。双方、ライバルがいることで創作意欲が保たれているのかもしれません。
10.Saxon(1979年デビュー、UK)/The Pilgrimage(2022)
N.W.O.B.H.M.の兄貴分、Saxon。1979年にデビューアルバムをリリースしており、アイアンメイデンやデフレパードより1年早くデビュー。NWOBHM組で1979年にアルバムをリリースしているのはSaxonとSamoson(ブルースディッキンソンが在籍していたバンド)ぐらいですね。他のNWOBHMの主要バンドはだいたい1980年のデビューです。彼らの2022年のアルバム「Carpe Diem」から「The Pilgrimage」、重厚な大曲です。
Saxonは年齢的にも一回り上で、ボーカルのビフバイフォードは1951年生まれでジューダスプリーストのロブハルフォードやホワイトスネイクのデヴィッドカバーデイルと同い年。アイアンメイデンのブルースディッキンソンが1958年生まれ、デフレパードのジョーエリオットが1959年生まれなので、彼らよりもオジーオズボーンやロブハルフォードの世代に近いアーティストです。
NWOBHMって、大きく言えばポストパンクなんですよね。UKでは1976年から1978年まで、パンクムーブメントの嵐が吹き荒れます。その急激なムーブメントの後、ポストパンクとしてシンセサウンドを用いたニューウェーブが出てきた。ただ、「ニューウェーブ」というのは今はジャンル名のようになっていますが当時は本当に「新しい波」という意味、新しいムーブメントを表した言葉でしたから。で、ヘヴィメタル界における「ニューウェーブ」がNWOBHM。だから、ポストパンクムーブメントの一つであり、実際NWOBHMの代表的なバンド、たとえば初期アイアンメイデン(ポールディアノがボーカルの時代)はパンキッシュな側面がありました。NWOBHM爆発の契機となったのはモーターヘッドのライブ盤、ノースリープティルハマースミスがUKで1位を獲得したことであることからもうかがえます。モーターヘッドはメタルとパンクの垣根を超えるバンドであり、しかもライブ盤は相当にパンキッシュというか荒々しいですからね。Saxonもポストパンクの中で出てきたのでリフのソリッドさなどは時代を感じさせますが、70年代と80年代のUKメタルシーンを繋ぐ立ち位置にいるバンドだと思います。未だに現役バリバリでコンスタントに良作を発表しつづけている凄いバンド。
さて、1970年代デビュー組は以上。これ以降の年代に比べるとやや少なめの10曲です。他に現役バリバリのアーティストはUKだとUriah HeepやDeep Purple、Nazarethがいますが彼らはメタル以前のアーティストなので割愛しました(これらのバンドの1970年当時のライブ映像を見てもらうと良く分かりますが、ブラックサバスの世界観は独特だったんですよ)。USでは新曲を出さないけれど活動しているヘッドライナークラスのバンドとしてはKISSとAerosmithがいますね。彼らもメタルの創生者たちです。
次回は80年代、お楽しみに。それでは良いミュージックライフを。
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