連載:メタル史 1984年⑦Metal Church / Metal Church
US Power Metalシーンの中で確固たる存在感を放ったMetal Churchのデビューアルバム。1980年にサンフランシスコでギタリストのカート・ヴァンダーフーフを中心に結成された彼らはあまたのメンバーチェンジを経ながらバンドを形作っていきます。一時期、Metallicaのラーズウルリッヒとセッションしていたこともあったとか。同年代を生きたアーティスト。そんな彼らが幾年にもわたる準備期間やデモテープのリリースを経て生み出したデビューアルバムが本作です。本作は最初は自主制作盤としてリリースされ、7万枚を販売。そして、Metallicaのジェームスヘットフィールドとラーズウルリッヒが所属レーベルであるElektraに「ほかのレーベルより先に契約したほうがいいぜ」と吹き込み、バンドはElektraとの契約を獲得。本作はElektraから配給されます。
1984年はThrash Metalという言葉をちょくちょく目にするようになってきた時期。その筆頭はMetallicaであり、SlayerやAnthraxも存在していた(Megadethはまだデモテープを出しただけでデビューアルバム前)。そうした新しく、活気のあるシーンの中でMetal Churchも注目を集め、レーベルとの契約を勝ち取るわけです。この当時の「未来を嘱望されるバンド」であった。本作は84年のメタルシーンに燦然とそびえたつ「新進気鋭のバンドが出した異常に完成度が高いデビューアルバム」です。
ただ、彼らはビッグ4ほどの成功を収めることは結局できませんでした。最初に「US Power Metalシーンの中で」と書いた通り、彼らの音楽性ってパワーメタル要素、ドラマティックな構成が強いんですよね。それはMetallicaにも通じるもので、だからメンバーが推薦したのでしょうけれど、残念ながら時代に受け容れられるものではなかった。Thrash Metal的な要素、荒々しさもあったけれど、いわゆるスラッシュメタルバンドとはあまり分類されない。デビューアルバムと次のアルバムで歌っていたデビッド・ヴェインというボーカリストが歌がうますぎたのもあるかもしれません。Thrash Metalっいてある程度ハードコアの影響があるんですよね。ボーカルスタイルが吐き捨て型だし、それまでのメタルボーカリストとは少し違っていた。それに比べるとヴェインはロブハルフォードタイプの王道メタルボーカリストなんですよね。だから基本がパワーメタルで、時代的にスラッシーな要素も取り入れた、というバンドです。完成度は高いけれど、「新しい音楽」感は少なかった。だから、最初からメタルマニアには高い評価を受けましたが、メタル好き以外の層にまでは浸透しなかったのでしょう。
当時のライブ。音が悪いですが、ボーカルが入ってくると轟音の中を切り裂くパワーがあります。ボーカルがうまい。今まで見てきたMetallicaやSlayerと比べると歌い方が違います。
あと、冒頭で「サンフランシスコで結成」と書きましたが、デビューする前にヴァンダーフーフが故郷であるワシントン州アバディーンに戻ってしまったんですよね。だから、ワシントン州が拠点のバンドであり、主な活動場所がシアトル(ワシントン州にある)。だから、サンフランシスコを中心とするベイエリアスラッシュシーンから物理的にも離れていた。これは彼らの独自性を高めることにつながりましたが、スラッシュメタルムーブメントに乗り切れなかった原因にもなったのでしょう。後にグランジムーブメントの一大拠点となるシアトルですが、この頃はまだまだエクストリームミュージックシーンは黎明期。後にグランジが勃興してきたときにはNirvanaやMelvins、Alice In Chains、Soundgardenといったバンドがシアトルから出てきますが、Metal Churchの音楽性はグランジとは全く違いますからね。こちらの波にも乗れず(むしろ、近隣のグランジ勢からは「古い時代のロックスター然としたバンド」と馬鹿にされていたと感じていた様子→インタビュー)。ただ、改めて考えるとAlice In ChainsやSoundgardenの初期のヘヴィな情感はMetal Churchに通じるところも感じます。
NirvanaのKurt Cobainはサインなどで自分のことを「Kurdt Kobain」と記載することがあった。初期アルバム「Bleach」でもこの名義が出てきます。これ、Reddit(→参考リンク)を見ると「KurdtはKurtのアルターエゴだ、もう一人の自我を表してるんだ」みたいな深い(?)考察がされていますが、実のところMetal ChurchのKurdtVanderhoof(カート・ヴァンダーフーフ)を仲間内でからかうためのものだった説が。というか、上記のインタビューの中でヴァンダーフーフ自身が言っています。「当時、俺たちは時代遅れのロックスターで、NirvanaとかMelvinsみたいな”クール”な奴らからすればダサい存在だったんだろう、で、あいつらは「ダサさ」の表現としてKurdtという綴りまで使ったんだ」だそう。実際、Melvinsってメンバーが当時働いていたスーパーのマネージャーがMelvinで、その人が適度にダサかったから、という理由でつけた名前だそうなので、当時のグランジ界隈のノリだったのかも。逆説的に言えば、もしこれが本当なら(茶化す対象ですが)Metal ChurchはNirvanaにも影響を与えていたことになります。レコードデビューしている偉大な地元の先輩バンドですから、茶化すべき権威、大きなものとして当時のNirvanaには見えていたのかもしれません。
話をMetal Churchに戻しましょう。バンドが商業的成功をおさめきれなかった理由としてメンバーが安定しなかったのもマイナスだった。セカンドアルバム「The Dark」をリリースした後、ハイパーボーカリストのヴェインが脱退。そして、バンドの創設者であるヴァンダーフーフも脱退(作曲や録音には参加するがツアーに参加せず)してしまいます。ヴァンダーフーフはのちに復帰し、現在に至るまで活動を続けているのですが、こうしてメンバーチェンジが多かったのも成功がつかめなかった理由でしょう。いろいろなバンドを見てきて思いますが、同じメンバーでバンドを続けていけるって稀有なことなんですよね。
本作のプロデューサーはテリー・デイトとバンド自身。デイトは80年代から活躍するメタルプロデューサーで、本作はその初期の仕事。本作を皮切りにプロデューサーとして才覚を発揮し、後にPantera、Dream Theater、Soundgarden、Deftones、Limp Bizkitなどのプロデュースを手掛けていくことになります。テリー・デイトという才能が世に出たという意味でも重要なアルバム。当初は独立系レーベルのグラウンドゼロからリリースされ、後にエレクトラから再リリース。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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