連載:メタル史 1983年③Iron Maiden / Piece of Mind
前作をもって名実ともにN.W.O.B.H.M.の旗手となったIRON MAIDENの4作目。前作からボーカル、ブルースディッキンソンを迎えての2作目となりますが、本作からはドラムがクライブ・バーからニコ・マクブレインに変化。現在まで続く「黄金の80年代」のラインナップが完成します。
クライブ・バーからニコ・マクブレインへの交代劇は1982年、前作「The Number Of The Beast」リリース後のツアー中に起こりました。ニコ・マクブレイン(1952年生まれ)はクライブ・バー(1957年生まれ)の5歳上。他のメンバーはだいたい1956-58生まれなので一人だけ少し年上です。加入時30歳。14歳からドラムを人前で演奏し、21歳の時にはプロデビュー。さまざまなアーティストのバックを務めてきたプロフッショナルなドラマーでした。一説によるとクライブバーの脱退は、ツアー当時ハリスとよく口論になり、人間的に衝突したからだ、とも。若い同世代のミュージシャン同士で、さまざまなトラブル(若くして成功やプレッシャーに晒されるといろいろなことが起きます)もあったのでしょう。そんな中でキャリアも長く、少し年上のマクブレインが入ってくれたことはメイデンを安定させる役割を果たしたのかもしれません。
クライブ・バーはいかにもN.W.O.B.H.M.的なスタイルを持ったドラマーでした。スティーブ・ハリスの特異なベースプレイに引っ張られて独自なスタイルに至った、とも言える。もともとメイデン加入前はSamsonにいましたが(サムソンとメイデンは人事交流が非常に盛んです)、かなり若い頃(22歳)からメイデンにいるので、そのプレイスタイルはメイデンで培われた部分が大きい。独学で独自の路線を築いたドラマーであり、バーの特徴的なドラミングが「The Number Of The Beast」の特異性にも寄与しています。たとえばタイトルトラックとか、ドラムパターンもかなり特異。弦楽器隊のリフとユニゾンしているというか、弦楽器隊のフレーズに合わせてやたらキメやタメが多い。あれがバンドサウンドの一体感を出しています。ちょっと拍も変なんですよね。他の曲もベースに合わせてかなり独特なドラミングをしています。
比べるとニコ・マクブレインはメイデン加入時点でしっかり自分のプレイスタイルを持っていたドラマーであり、より安定したドラミングを披露しています。これによってメイデンはさらに普遍的、洗練されたサウンドを手に入れたと言えるでしょう。1983年はUSでヘヴィメタルが売れ始めた年。自分たちと同様にN.W.O.B.H.M.バンドとしてくくられていたDef Leppardが全米での成功を収めつつありました。メイデンとしてもより一層のUSへの進出を目指したかったのでしょう。
本作は初のUK外、カリブ海のバハマ、ナッソーでの録音が行われています。前3作はロンドン。「ある程度成功したバンドが観光地的なところで静養も兼ねてアルバム制作する」のはこの当時のバンドにはよく見られたことですが(SaxonもJudas Priestも行っている)、メイデンの場合はUSに近いカリブ海、バハマを選んだところもUS市場を意識していたのかもしれません。バハマはアメリカ人が多く訪れる観光地でしたからね。
本作に収められた「イカロスの飛翔(Flight Of Icarus)」はUS市場(ラジオオンエア)を意識したミドルテンポの曲。ディッキンソンの自伝によればハリスはこの曲をシャッフル調のアップテンポな曲にしたかったそうですが、ディッキンソンが反対し「もっとミドルテンポで行くべきだ」と主張。結果、収録されたテンポに落ち着くわけですが、それがハリスは癪だったのかその後30年間ライブで演奏されない憂き目にあいます。いい曲なのに。なお、最近のライブでは解禁されていますが、スタジオ盤よりは早いテンポで演奏されています。このテンポで折り合いがついたのでしょう。
プロデューサーは前作から引き続きマーティン・バーチ。タイトルの「ピース オブ マインド」は「平和の精神」ではなく「精神の欠片(Piece)」の方。邦題は「頭脳改革」でした。開頭手術を受けたような拘束具に捕らわれたエディがジャケットであり、インナージャケットは脳を皆で食べているかのようなメンバー写真が。
本作はUK3位、US14位と商業的にも好成績を収め、USでは最高位を更新。N.W.O.B.H.M.の精神を受け継ぐ「Heavy Metalらしさ」と「商業的成功」の両立を果たす稀有なバンドとして存在感を更に高めていきます。
なお、このツアーの時のエディは拘束衣で縛られ、ステージ上で開頭されるというひどい扱いを受けます。下記のビデオの3:37あたりから。ディッキンソンがノリノリですね。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
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