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連載:メタル史 1985年①Anthrax / Spreading the Disease 情報編
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Thrash Metal四天王の一角、Anthraxの2nd。Anthraxは1981年にNYで結成されたバンドです。Metallica、Slayerは西海岸(LA周辺)で結成されたのに対して東海岸。東海岸スラッシュだとAnthraxを筆頭にOverkill、Nuclear Assultらがこの頃生まれていました。
結成時のメンバーはギターのスコット・イアンとベースのダン・リルカー。ダン・リルカーはNuclear Assultの創設メンバーでもあります。1983年、「Fistful of Metal」でデビュー。デビュー時からツインギター体制で、この時のラインナップはスコット・イアン(Gt)、ダン・リルカー(Ba)、ニール・タービン(Vo)、チャーリー・ベナンテ(Dr)、ダン・スピッツ(Gt)。スピッツはOverkillの初期メンバーでもありました。1980年代初頭からNYでThrash Metalをやっていたバンド達はだいたいつながっていたわけですね。
「Fistful of Metal」はまだ粗削りの作品ですが、このデビューアルバムに収められた「Metal Thrashing Mad」が「Thrash Metal」の語源となったのは前に触れた通り。
このアルバムリリース後、タービンとリルカーが解雇され、新ボーカルとしてマット・ファロンが加入するも本作レコーディング前に脱退(なお、ファロンはその後Skid Rowに参加しますが、こちらもデビュー前に脱退して後任がセバスチャン・バック)、新ボーカルとしてジョーイ・ベラドナが加入して本作が制作・リリースされます。
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左から二人目がイアン、まだ髪がフサフサ
イアンがスキンになるのは1990年頃ですね
Anthraxってけっこうメンバーの入れ替わりが激しいバンドで、脱退もだいたい解雇という形が多い。けっこうスコットイアンの力が強いというか、しっかりマネージされたバンドです。全員アメリカ人のバンドですが、イアンはユダヤ人、ベラドナはネイティブアメリカンとイタリア系のハーフです。ユダヤ系ってビジネスにしっかりしている印象がありますが、まさにイアンはそのイメージ通りなのでしょう。
幾多のメンバーチェンジの中で基本的にイアン、ベナンテ、ベロのリズム隊(イアンはリズムギター担当)は不変。ボーカリストとリードギターは何人か変わっています。ただ、Anthraxのボーカリストとしてもっとも知名度が高いのはベラドナでしょう(一度脱退したものの現在は復帰)。1984年から1992年まで続いたこのラインナップで、Thrash Metalの四天王と呼ばれることになる名作群を生み出していきます。本作はベラドナのレコードデビュー作。
なお、少し面白いのがベラドナのレコードデビュー作は本作なのですが、Anthraxに加入前にBible Blackというバンドに在籍していました。このバンドは1981年のデビューしていたので、プロとしての活動はBible Blackが初。ただ、Bible Blackではアルバムを残していないのでレコードデビューとしては本作となります。で、Bible Blackって元ELF~Rainbowのメンバー二人がくんだバンドなんですよね。Rainbowの1stはリッチーブラックモアがディオがいたElfをバックバンドにして作られましたが、2ndではディオ以外のメンバーはいなくなった。何をしているかと思ったらNYに戻っていたのか(ElfはもともとNY近辺で活動していたバンド)。そして、ベラドナが加入する前にはManowar加入前のエリック・アダムスも一時期在籍したいたそう。ManowarもNY近郊のバンドですから。みんなこの辺りつながっているんですね。音源は当時はリリースされていなかったのですが、2022年に「Complete Recordings 1981-1983」というコンピレーションが出まして、そこにはベラドナの曲が2曲、アダムスの曲が3曲(当時は本名のLou Marulloで参加)収録されています。貴重なAnthrax加入前のベラドナのボーカルはこちら。
さて、本作はベラドナの加入により一気にスケールアップ。ベラドナは当時のスラッシュメタルシーンの中では頭一つ抜けてしっかりしたボーカリストでした。きちんとハイトーンも出る。そのため、N.W.O.B.H.M.により接近した正統派ヘヴィメタルの構築美とThrash Metalらしい攻撃性を両方持ち合わせた作品。後にAnthraxのトレードマークとなるミクスチャー感覚はここではそこまで発揮されていません。完成度の高いヘヴィメタル作品を作り出した。こういう音楽がやりたかったのでしょう。本作はビルボード113位まで上昇、まだ商業的成功を収めたとは言えない規模ですが、MetallicaのRide The Lightningもリリース当時(1984年)では100位程度ですから、十分健闘したと言えるでしょう。1984年、MTVの隆盛の時代らしく、この頃のThrash Metalバンドにしては珍しくきちんとMVも作られています。この辺りのマーケティングもしっかりやる感覚はイアンの性格なのか。ただ、ここで作られたMadhouseのMVが「精神病棟を愚弄している」とクレームがつきあまり放映されず。今となっては貴重な当時の雰囲気を伝える映像。
1985年、西海岸LAで盛り上がっていたGlam Metalに接近しようという色気は感じますが、メイクアップはなく音作りがソリッドですね。
本作リリース後、Black Sabbathのツアーサポートに抜擢されるもグレンヒューズ(当時のボーカルはヒューズだった)の不調により4公演でキャンセルに。その後1986年、Overkill、Agent Steelとヨーロッパツアーを敢行し、チェルノブイリ原発直後のウクライナ近郊でも演奏しています。また、1986年後半にはMetallicaともヨーロッパツアーを開催。着実にメタル界での地歩を固めていきます。
本作のレコーディングはNY州のピラミッドサウンドスタジオ、プロデューサーはカール・キャナディとバンドとジョン・ザズーラ。キャナディはこの後OverkillやExiter、Possessedなどに関わり、NYのスラッシュメタルシーンを盛り上げていくこととなります。ジョン・ザズーラはメガフォースレコードの創設者で、Metallicaのデビューに関わった人ですね(Metallicaの初期二枚はメガフォースからのリリース)。Metal Bladeのブライアン・シーゲルとテープトレード仲間だったらしい。この頃のメタラーはほとんどメディアの情報などはなく、マニア同士がテープ交換してネットワークを作っていったんですね。MetallicaのRide The Lightningの記事でプロデューサーとして名前が出てきたマーク・ウィテカーもこのネットワークの仲間。
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手前はMetallicaメンバーと、ジェームスに抱きよられているスコットイアン
また、ピラミッドサウンドスタジオはのちにTestamentがデビュー作「The Legacy(1987)」をレコーディングすることになります。Testamentは西海岸(カリフォルニア)のバンドですが、NYっぽいサウンドにしたかったんですかね。興味深いです。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
次回はレビュー編です。
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