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57.夏の終わりのサイケデリック = Khruangbin

Khruangbin(クルアンビン)はタイ語で「飛行機」を意味するバンド名を持つ2009年結成、2014年デビューのアメリカ・テキサス州のスリーピースバンドです。METALLICAのカーク・ハメットや、バラク・オバマ前大統領がお気に入りバンドとしてインタビューやプレイリストで名前を挙げています。2019年3月には初来日公演も実現。2019年のフジロックにも出演するなど日本でも注目を集めています。彼らも日本を気に入ったらしく、このビデオは栃木県烏山で撮影されています。

この曲は2020年6月リリースの3rdアルバム「Mordechai(モルデカイ = 旧約聖書の登場人物でユダヤ人の指導者の名前であり、ベース/ボーカルのローラの友人の名前でもあるそう)」からの2枚目のシングル・カット。アルバムはUSビルボードで31位、UKナショナルチャートで7位にチャートインしました。この曲はFlaming Lips的なドリーミーなポップスですが、基本はインストのバンドで、曲によって表情を変えるバンドです。同系統のサウンドはアメリカには少なく、非英語圏に多い印象。アジアや中近東など欧米圏以外の民族音楽が西洋音楽と融合した非英語圏の大衆歌謡を逆輸入し、今のアメリカの若者の感性で調理したサウンドだと思います。ライブ映像の方がバンドの音楽性がわかりやすいかもしれません。

クルアンビンはバンド名がタイ語なこともありタイ・ファンクなどと呼ばれてもいますが、本人たちはその呼び名はあまり気に入っていない様子。確かにタイの大衆歌謡であるモーラム/ルークトゥンと呼ばれる音楽に似た空気感もありますが、アルバム全体を通して聴くとそこまで底抜けに明るいわけでもありません。モーラム/ルークトゥンはなんというか脱力しているんですよね。雰囲気をつかむために1曲お届けしましょう。

ライブやアルバムなどでクルアンビンの世界観にもっと浸ると、タイ大衆歌謡的な脱力メロディーも所々に出てきますが、より酩酊感が強い気がします。個人的にはトルコのサイケデリックロック、アナドル・ロックのバンド群の音像からの影響も感じます。以前、トルコ音楽の記事でも紹介したGaye Su Akyol(ガイ・ス・アクヨル)や、Altin Gün(アルタン・ギュン)など。

Altin Gün(アルタン・ギュン)はよりオリエンタル・伝統音楽色が強くなりますが、酩酊感がありつつフォーク・ロックのダイナミズムも感じられるいいバンドです。オランダ、アムステルダム出身で、ベーシストがリーダー。2018年デビューで現在2枚のアルバムをリリースしています。

もう一組、もう少しモダン、ポストロック的なアプローチをしているトルコのバンドをご紹介しましょう。islandman(アイランドマン)。2018年のモントルージャズフェスティバルでベストアクトを受賞しました。その時のライブ映像です。

islandmanは電子音もうまく取り入れたスローテクノ、ジャムバンドで、クルアンビンに似た空気を感じます。このバンドもいいですね。

タイはモーラム/ルークトゥンを大衆歌謡として紹介しましたが、もっと洗練されたアーティストも出てきています。Phum Viphurit(プム・ヴィプリット)の2018年のヒット曲、Lover Boyのエレキ弾き語りバージョンをどうぞ。

タイ音楽も新しいセンス、才能でアップデートされていることがわかります。山下達郎など日本のシティ・ポップの影響も感じることができます。

クルアンビンはこうした世界中のさまざまなアーティストたちの空気感・時代感と同調しながらうまく抽出・ミックスして自分たちの音を構築し、ミュージックシーンのメインストリームで存在感を増しつつあります。アメリカのメインストリームのミュージックシーンは洗練されすぎてなかなか新しいサウンドが出てこなくなった印象がありますが、非英語圏で消化された西洋音楽を逆輸入することで新鮮なサウンドを生み出しています。こういう新奇性が高いバンドがチャートインするところがさすが世界最大の音楽大国アメリカですね。玉手箱のような、いろいろな表情を持ったバンドで、音世界に浸っていたくなります。より聴きたい方向けに最後にやや長尺(1時間弱)のライブ映像をどうぞ。アメリカのインディーズロックメディアPitchforkの企画ライブです。

この辺りのアーティストはこれからの季節、秋の夜長に合いますね。それでは皆さん、良いミュージックライフを。

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