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2.Peter Gabriel / Growing Up

今回はPeter Gabrielの「Growing Up」を訳してみましょう。2002年リリースの7thアルバム「Up」からシングルカットされた曲で、彼のオリジナル・アルバムとしては今のところ最新作です。ライブ活動は継続してますが、作品としては寡作な人です。1990年まではややビジュアル系的な、痩せた色男といった風貌でしたが2002年、10年ぶりのこのアルバムを出す時は禿げ頭に長い髭で恰幅もよくなり仙人のような風貌に変異しており、その点でも衝撃を与えたアルバムです。今ではこの姿をすっかり見慣れましたけれどね。

それでは、まずは訳していきましょう。

Growing Up / Peter Gabriel

Folded in your fleshy purse
I am floating once again
While the muted sounds are pumping rhythm
All the walls close in on me
Pressure's building wave on wave
Until the water breaks and outside I go, oh

君の肉感的な女性用財布に折りたたまれている
僕はもう一度浮かび上がる
抑えられた音がリズムを吸い上げる間に
すべての壁が僕に迫ってくる
重ねるごとにどんどん波が大きくなってくる
破水して僕が外に出るまで続く

One dot, that's on or off
Defines what is and what is not, one dot
Two dot, a pair of eyes, a voice
A touch, complete surprise, two dot

一つの点(=小さな存在)、それはオンとオフだ
何がそうで何がそうでないかを決めている、一つの点
二つの点、一対の目、一つの声
触り、完全に驚く、二つの点


Growing up, growing up
Looking for a place to live
Growing up, growing up
Looking for a place to live
Growing up, growing up
Looking for a place to live

育つ、育つ
生きる場所を探す (繰り返し)


My ghost likes to travel so far in the unknown
My ghost likes to travel so deep into your space

僕の魂はまだ知らないところを旅するのが好きだ
僕の魂はもっと君の宇宙の深くへ旅するのが好きだ

Three dot, a trinity
A way to map the universe, three dot
Four dot, is what will make a square
A bed to build on, it's all there, four dot

3つの点、三位一体※
宇宙の地図を描く方法だ、3つの点
4つの点、それで正方形を作ることができる
土台の上に築き上げる、全てそこにある、4つの点

※三位一体=父なる絶対神・子たるキリスト・聖霊の3つは同一の唯一神であるというキリスト教の教え

●繰り返し

All the slow clouds pass us by
Make the empire state look high
As you take me in your sea-stained sweetness
It spills, it tingles and it stings
All the pleasure that it brings
Until the door has let the outside inside here

全ての緩やかな雲が僕たちを通り過ぎていくにつれて
エンパイア州(ニューヨーク)はもっと天高く伸びていく
あなたが僕を甘さに染まったあなたの海に連れていく時
それはこぼれ、ぞくぞくし、そして刺す
それは多くの喜びをもたらす
扉がここの外側を内側にするまで

(My ghost likes to travel)
Well on the floor there's a long wooden table
(My ghost likes to travel)
On the table there's an open book
(My ghost likes to travel)
On the page there's a detailed drawing
(My ghost likes to travel)
And on the drawing is the name I took

(僕の魂は旅が好きだ)
床には長い木製の机がある
(僕の魂は旅が好きだ)
机の上には開いた本がある
(僕の魂は旅が好きだ)
そのページには細密画が描かれている
(僕の魂は旅が好きだ)
そしてその絵に僕がつけた名前がある

●■繰り返し

My ghost likes to travel
(Moving inside of your space)
My ghost likes to travel
(Moving inside) 繰り返し

僕の魂は旅が好きだ
(君の宇宙の中を移動していく)
僕の魂は旅が好きだ
(内側を移動していく)

The breathing stops, I don't know when
In transition once again
Such a struggle getting through these changes
And it all seems so absurd
To be flying like a bird
When I do not feel I've really landed here

呼吸が止まる(死ぬ)のは、いつになるか僕には分からない
今はもう一度移り変わっていく最中
これらの変化を通り抜けようとさまざまにあがいた
そして、それはすべてばかげていたようだ
僕が本当にここに上陸したと感じられない時
鳥のように飛ぶ

■解説

誕生と成長、そして死についての歌です。ピーターの身近に事故死した人がいたらしく、アルバムの何曲かは死についての歌だそう。最初の歌いだしは生まれる瞬間ですね。「Folded in your fleshy purse」とありますが、これは胎内にいる描写でしょう。最初のヴァースの最後で「the water breaks and outside I go」、つまり、破水して誕生します。

その後1から4まで増えていく「dot」。直訳すると「点」や「信号」ですが、「存在」とか、「(点=ちっぽけな)存在」といった解釈でとらえるといいのかなと思いました。「One dot, that's on or off」一つの点がオンとオフ、つまり、無事に生まれたことによってオンになる。最初は周りの世界を図っている。点が2つになる。母親でしょう。「a pair of eyes, a voice A touch, complete surprise,」母親が子供の目を見て、声(産声?)を聞き、触り、完全に驚く(喜ぶ)というシーン。

次の3つの点がやや難しい。「Three dot, a trinity」と来ます。3つの点は三位一体。三位というのは父・子・聖霊なのですね。母がいない。聖母マリアは神としては扱われない。まぁ、じゃあ「聖霊」はなんなのか、説明はされないわけですが、一般的に三位一体には母がいないので、ここで父と子が対面し、それを聖霊が見守る、とも取れます。次の「4つの点」で

Four dot, is what will make a square
A bed to build on, it's all there, four dot

と続く。要は「4つの点が揃うことで正方形になる(バランスが取れる)」「ベッド(土台、基礎)の上に何かを作り上げるために必要なすべてが揃った」的な内容になるので、家族=父・母・子・聖霊(より大きなもの)という構成単位なのかもしれません。いずれにせよ、家族という土台には成長していくために必要なすべてがある。

次のヴァースは風景が変わり、時代が変わって成長し、社会も発展していく(エンパイアステートがより高くなっていく)。そこで恋に落ちて次の世代につないでいく描写が出てきます。

As you take me in your sea-stained sweetness
It spills, it tingles and it stings

「あなたの甘さの染み付いた海に僕を連れていく、こぼれ、ぞくぞくし、刺す」とエロティックな描写。ここから次の誕生につながっていく。「Until the door has let the outside inside here」というのは難しい表現です。直訳すると「扉がここの内側を外側にしていくまで」といった内容ですが、心の扉を開いて二人が溶け合う、みたいな意味なのでしょうか。あるいは、次の世代が生まれる比喩かも。内側(胎内)が扉を通じて外の世界になる、誕生する。

そしてしばらく曲が展開していきます。成長し続け、探求し続ける。長机には本があり細密画、詳細な設計図があり、それに自分で名付ける。人生設計や夢。

最後のヴァースでは「いつ死ぬか分からない、それを通り抜けようとしても無駄だ」。といったフレーズ。もう一度移り変わる(transition)の途中、と触れています。これは生から死に向けて変化していく、生から解き放たれ旅立つ姿が鳥に喩えられています。この曲も生誕、成長というテーマでスタートしながら、最後は死によって着地(曲内の描写では死へ飛翔)します。力強い曲ながらどこかもの悲しさ、終着感があります。

ピーターガブリエルはもともとジェネシスというバンドでデビューし、長年に渡り英国ロックシーンの重鎮として活躍しています。さまざまなテーマを描いてきたアーティストですが、このアルバム「UP」は死を見据えたような曲が多かった。今思えばリリース当時は52歳と意外と若い。今はそこから20年近くが経過しましたが、「UP」以降、新曲によるアルバムを出していません。過去の曲をオーケストラと共演してカバーしたりしていますが、新曲によるアルバムがない。ライブは熱心に活動し続けていますが、「死」をテーマにしたことで次のコンセプトがなくなったのかもしれません。一度「死(終着)」をテーマにしたアルバムの後、過去のカタログを再構築する方に力を向けているのはミュージシャンとしての総決算を図っているのでしょうか。人は赤ん坊で生まれ、成長し、最後はまだ赤ん坊のように戻っていくという話もあります。次にピーターガブリエルがアルバムを出してくれたらどんなアルバムになるのか、ずっと楽しみに待っています。ピンクフロイドの「Endless River」のような、死後の世界のようなアルバムになるかもしれませんが、もともと強靭なリズム(ワールドミュージックの要素を西洋ロックにかなり大胆に取り入れたパイオニアの一人)がウリの人なので、死からの再生、転生といった起死回生のアルバムをもう1枚出してほしいものです。

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