連載:メタル史 1980年⑤Motörhead / Ace of Spades
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暴走のイメージが強いMotörhead。パンク的な荒々しさとヘヴィ・メタル的な構築美を持ち合わせたバンドと言われ、パンクスからもメタルヘッドからも愛されたバンドです。結成は1975年。麻薬所持でライブ前に逮捕され、ライブに参加できなかったことでHawkwind(1970年代から2020年代まで活動し続けるUKのサイケデリック/ハードロックバンドでSF的な要素を含むスペースロックの先駆者とされる)を解雇されたレミーキルミスターが自らボーカルとベースを兼任する形で立ち上げたバンドです。
ベースボーカルのレミーとベース、ギターのトリオ編成。レミー以外のメンバーは流動的ですが、このアルバムのリリース時はギターが”ファスト”エディクラーク、ドラマーがフィル”アニマル”テイラー。黄金期と言われるメンバーです。
なお、レミーの自伝によるとこのジャケット撮影時、レミーは一番高いところに立っていますが、ズボンについている金属の鋲の数が少なくて物足りなかったので逆側の足の鋲を急遽移し替えたそう。だからズボンの鋲が一番多くて派手ですが、反対側には何もついていなかったそうです。このジャケットを見るたびに思い出す逸話。
レミーキルミスターと言う人はこうした「記憶に残るエピソード」を語るのが上手く、UKではけっこうテレビにも出ていたようです。トークが上手いミュージシャン、的な。一度体調を崩したことがあり「もっと野菜を食べるように」と言われて、手にしたポテトチップスを指さし「食べてるじゃねーか」と返したとか。そんな縁からかポテトチップスのCMにも出たりしています。日本風に言えば「コワモテだけどお茶の間の人気者」的な存在だったのでしょう。
レミーのベースは独特で、ベースというよりリズムギターを兼ねるような、コードストロークやリフの感覚もあるものでした。これは「弾きながら歌う」というスタイル故でしょうが、それゆえトリオとは思えない分厚い音圧を手に入れます。
残念ながらレミーは2015年に鬼籍に入ってしまいましたが、ヨーロッパ最大規模のメタルフェスであるHellfestでレミーの功績をたたえる像がつくられたり、メタルヘッドの心に生き続けています。
なお、MetallicaのラーズウルリッヒもMotörheadの熱狂的なファンであり、ファンクラブの会長を務めたとも言われていました(のちに本人が会長だったことは否定していますが、ファンクラブには入っていたそう)。後に大喜びで共演したりしています。
本作はそんな彼らが初めて本格的な商業的成功を手にしたスタジオ盤の最高峰とされる作品。この後、翌1981年に本作リリースに伴うツアーの様子を収録したライブ盤「No Sleep 'til Hammersmith」が全英1位を獲得し、N.W.O.B.H.M.の高まりの象徴的な出来事の一つとみなされています。このスタジオ盤でも同時代としてはかなり荒々しいですが、ライブ盤だとさらに荒々しく、これが全英1位を取った、商業的成功を収めたということがロックの境界を広げ、メタルという音楽の裾野を広げたことには異論がないでしょう。いわゆる「美声」や「うまいとされてきたボーカリスト」とは異なるしわがれた声、荒々しくも勢いのある音像、後のスラッシュメタル~デスメタル~エクストリームメタルの萌芽が見られます。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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