連載:メタル史 1984年④Mercyful Fate / Don't Break the Oath
北欧、デンマークから現れたMercyful Fate。デビュー作「Mellisa(1983)」から一年過ぎて本作のリリースです。前作の記事でも触れましたが、Metallicaのラーズと同郷であり影響を与えたバンドとしても有名。彼ら自身、北欧メタルおよびBlack Metalの成立に多大な影響を与えました。本格的な悪魔崇拝、反キリストを思想的にメタル界に持ち込んだのもキングダイアモンドの功績。Judas Priestの時に触れたPMRCの「Filthy Fifteen」でも、前作収録の「Into The Coven」が「オカルト的」という理由で選ばれています。他がだいたいセックスと暴力で選ばれているのに対して、「オカルト」で選ばれたのはMercyful FateとVenomの2バンドのみ。Venomは完全にギミックでしたが、それに比べるとMercyful Fateは本気度がありました(インタビューでは「人生哲学としてラヴェイの悪魔主義に興味があるだけで、アブラハム(=キリスト教)の悪魔には興味はない」と述べていましたが、Venomは「単なるギミックだよ」と言っていたのに比べると本気度高)。
中心人物であるVoのキングダイアモンドは自分の名前でのバンド活動King Diamondの活動でも著名ですが、Mercyful FateとKing Diamondの最大の違いはメインソングライター。初期Mercyful Fateは楽曲面ではギタリストのHank Shermann(ハンクシャーマン)がメインソングライターでした(一度解散し、再結成した90年代以降はダイアモンドが作曲面でも主導権を握りますが)。前作と本作はシャーマンの色がかなり強く出ています。シャーマンはけっこう抒情的なギターを弾く人で、前作を聞く限りだとUKハードロックの影響を強く感じます。初期Judas Priestとか。リフだけに頼らず、丁寧な曲作りをする人という印象。
ただ、本作リリース後の1985年、シャーマンは「より商業的な作品を作りたい」という理由で脱退したとされています。当時のことはわかりませんが、上記したPMRCの反対運動、オカルトバンドというレッテルももしかしたらシャーマン的には嫌だったのかもしれません。黒魔術的なコープスメイクをしていたのもオカルトの世界観を作っていたのもダイアモンド主体だし、シャーマンはこの時点ではオカルト的な印象から離れたかったのかも。そのあと、PMRCの弾圧が下火になった1990年代には再結成しています。ちなみにシャーマンは、「商業的な音楽がやりたい」と言って脱退した1985年に「Fate」という名前のハードロックバンドでデビュー。確かにMercyful Fateに比べるとポップでキャッチーで、いわゆる「80年代型北欧メタル」のイメージ通りの音です。ルックスもグラムメタルっぽい。でも、バンド名を「Fate」にしたのはMercyful Fateへの未練を感じます。Fateは現在も活動中ながらシャーマンは2枚で脱退。
ただ、Mercyful Fate自体、メリッサにしても本作にしてもアメリカではほとんどヒットしていないんですよね。チャートアクションで言えばドイツで60位台に入ったぐらい。地元デンマークでは知名度はあったと思いますが、当時のUSではかなりマニアックなバンドだったと思います。PMRCはどこで知ったんだろう。やっぱりMetallicaとの交友で注目されたんですかね。当時(PMRCが発足したのは1985年)Metallicaもそこまで大スターというわけではないですが。地下で活動する前衛芸術家と考えるともっと過激な人たくさんいたと思うし。しかもデンマークのバンドだし。わざわざアメリカの団体であるPMRCがやり玉に挙げた理由が謎。実はメタルファンがいたんでしょうか。たぶん、PMRCのメンバー(基本的に政治家や実業家の妻)の息子か娘にメタラーがいたんでしょう。その子供が好きだったバンドがやり玉に挙げられた気がします。冷静に考えるとティッパーゴアがMercyful Fate知っていることがおかしい。
本作もプロデューサーは前作と同じくヘンリック・ルンド。録音はコペンハーゲンのイージーサウンドスタジオ。メンバーも前作と変わらず、制作体制は同じです。前作と本作はエクストリームメタル黎明期における金字塔とされています。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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