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連載:メタル史 1984年③Judas Priest / Defenders of the Faith

Metal GodことJudas Priestの1984年作。前作「Screaming For Vengence(1982)」から2年ぶり、9作目のアルバムです。前作で初の全米トップ20入り(最高位17位)を果たし、UKだけでなくUSでも一定の成功を収めることができたJudas Priest。本作はジャケットデザインも前作と同じダグ・ジョンソンが担当。前作からの連続性を強く感じさせるジャケットとなりました。

前作アートワーク全景
LP見開きで横長に
本作
前作と対になったデザイン
ちなみに次作「Turbo」もダグジョンソンのアートワーク

N.W.O.B.H.M.がUKにおいて終焉し、数多のバンドが解散したり活動規模を縮小していく中、USで起きつつあったLA、西海岸を中心としたメタルブーームの波にうまく乗ったバンド。もともと70年代から活動しているものの、初期は今一つ中堅バンドを抜け出せなかったPriestですが、N.W.O.B.H.M.の波に乗ったBritish Steel(1980)を皮切りに名実ともに大物バンドの仲間入りを果たし、前作、本作と続けてヒットしたことでUSにおいても確固たる成功をつかみます。Metal GodとはBritish Steelに収められた曲名で、彼らが自分自身のことを「我々がメタルゴッドだ」と言ったわけではないのですが、この曲があたかもJudas Priestのテーマソングのようになり、彼ら自身がMetal Godと呼ばれていく。それは80年代の活躍があってのことでしょう。特に、彼らがヘヴィ・メタルの体現者、鋼鉄神と呼ばれるようになったのは前作・本作の影響が大きい気がします。新世代のヘヴィ・メタル像を定義してみせた。エクストリームすぎず、大衆的すぎず、独自の抒情性や70年代から続くバンドの歴史、職人芸を見せながらも新世代の音像を生み出した、という点で特異。

アンダーグラウンド感が抜けない

Judas Priestの魅力って、どことないアンダーグラウンド感があるんですよね。どれだけポップな歌メロになっても暗黒さ、闇を感じさせるものがある。それもいわゆる黒魔術的な、ファンタジー的な闇というよりはロンドンの路地裏であったり、もっと人間の等身大の感情。それはロブ・ハルフォードの性的マイノリティであるが故の葛藤かもしれないし、そもそもの英国人気質かのかもしれない。USでヒットし、それなりにキャッチーなヒットソングを持ちながらも(Living After MidnightとかYou've Got Another Thing Comin'とか)、どこか翳りがあるのがこのバンドの最大の魅力だと思います。

レイザーラモンHGのインスピレーション源みたいなルックス

ロブってハイパーボーカリストだけれど、最盛期のロバートプラントやイアンギランのようなカリスマ的なロックシンガーと違い、歌い方やステージアクションに昔からちょっと道化っぽいところもあって、それが愛嬌と悲哀、人生の深みを感じさせる。カッコいいんだけれどちょっと気持ち悪い動きとか。異物感こそがJudas Priestの魅力だと僕は感じています。翳りと攻撃性、そして能天気なポップさが混在したアルバムが彼らの真骨頂で、前作・本作はそうしたものが見事に結実した作品として評価されています。完成度がどれだけ高くても人間臭さ、脇の甘さがある。

本作も録音はイビザのイビザサウンドスタジオ。1981年のポイントオブエントリーから3作続けて使っているスタジオですね。プロデューサーも変わらずトム・アロム。

PMRCの抗議

ただ、もともとSM的な歌詞(ロブはどちらかといえばゲイ文化のつもりで書いていたようですが)を売りにしたバンドで、過去の各アルバムにもそっち系を連想させる曲が入っていたのですが、本作収録のEat Me Aliveはかなり直截的な歌詞。で、これがティッパー・ゴア(クリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴアの奥さん)たちのPMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)に目を付けられ(銃を頭につきつけられて行うオーラルセックスの曲だとされた)、Filthy Fifteen=「もっとも不快な15曲リスト」に入ってしまいます。これに対する回答として次作Turboで「ペアレンタル・ガイダンス」という皮肉めいた曲を書くのですが、UKのバンドなのでこうした皮肉や過激な表現についての考えが甘かった部分もあるのでしょう。

ネバダ州の法廷に出廷するバンドメンバー

古くはジョンレノンの「ビートルズはキリストより偉大(曲解したらそうとれる発言)」がアメリカで炎上したように、UKの感覚でOKなブラックジョークやきわどい表現が、USだと不買運動や裁判までつながったりする。本作でPMRCに目をつけられたJudas Priestはのちに「Priestの曲を聴いて若者が自殺した、彼らは若者を自殺に追いやるサブリミナルメッセージを入れている」という裁判に巻き込まれます。権力者の関係者をあまりおちょくると怖いですね。メタル史などでは「とんでも事例」みたいな感じで取り上げられるし、後年のインタビューではメンバー自身も「今となってはお笑い種」みたいなニュアンスで話をしてくれますが、こうした抗議活動がピークを迎え、裁判にまで巻き込まれた80年代後半には外を歩くのも身の危険を感じるほどだったそう。80年代メタルシーンの光が商業的成功だったとすれば、影の部分はPMRCを筆頭とする「世間の良識」との闘い、差別がその一つだったと言えるでしょう。メタルは若者を堕落させる悪魔の音楽と見做された。事件について詳細を知りたい方はこちらの動画をどうぞ。Metal Injectionの「メタル史において最も物議を醸した出来事」6位にチャートイン。

なお、この「自殺を促すメッセージをサブリミナルで入れただろう」という問いかけに対してPrisetのマネージャーであったビル・カービシュリーは「サブリミナル効果なんてないよ、もしそんなものがあって人を動かせるなら、クレイジーな若者に”死ね”なんて言わず、”このアルバムを7枚買え”と吹き込むね」とのこと。さすが。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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