連載:メタル史 1983⑥Mercyful Fate / Melissa
連載再開します、お待たせしました。
Metallicaのラーズウルリッヒと同郷、デンマークから現れたMercyful Fate。考えてみると北欧メタルの走りとも言えますね。区分的にデンマークも北欧です。
Mercyful Fateは後にコープスメイクとして知られる奇抜なメイクをほどこしたVoのキング・ダイアモンドとギタリストのハンク・シャーマンを核としたバンドです。この二人はもともとBratsという別のPunk/Metalバンドで活動を共にしており、解散後にそのままMercyful Fateを結成。1983年の時点ではダイアモンドは常にコープスメイクをしてはいなかったようで、Mellisa向けのプロモーション写真では素顔のものも見られます。KISSと違い、素顔を隠していたわけではないようですね。
デビューアルバムである本作はエクストリームメタルの萌芽とも言われており、Venom、Bathoryらと並んでBlack Metalの1st Waveに数えられることもありますし、Metallica、Slayer、Exodusらへ多大な影響を与えたためThrash Metalの源流の一つとも言われます。Death Metalの確立にも影響を与えた。なので、これらをまとめてエクストリームメタルへの影響が大きい作品です。同時代的に非常に特異な音楽性であったことは確か。特にボーカルスタイルが奇抜です。Diamond Headなどに近い、ブルースに基調を置くハードロックとは一線を画した曲構成、よりプログレッシブロックにルーツを持っていると言えるかもしれません。そこに乗るシアトリカルな歌唱。
また、実はこのアルバムをリリース時にカバー曲も録音してみたらしく、それがLed Zeppelinの移民の歌(Immigrant Song)だったそう。それを歌うキングダイアモンドの声がロバートプラントそっくりで驚いた、というハンクシャーマンのコメントが残っています。結局アルバムに収録されず、今に至るまで未発表ですが、「ああ、キングダイモンドの高音はロバートプラント的なのか」と言われると納得感もあります。
余談ですが、MetallicaとMercyful Fateってアルバムデビューは同年なんですね。ラーズウルリッヒが「Mercyful Fateに影響を受けた」とよく語っているから先輩なのかと思っていました。年齢的にはキングダイアモンドはラーズの8歳年上ですが、バンドとしてのデビューアルバムの発売年は同じ。なお、1982年にデビューEPはリリースしていて、ラーズはそれを聞いてMetallicaのデビューアルバム、Kill ’Em Allに影響を受けたとのこと。
ダイアモンドは悪魔主義者であり、本作の歌詞も悪魔的なもの、神秘的なものが多く見られます。それが(同時代のUKのバンドに多かったような)ギミック的なものではなく、本格的な哲学、思想を伴ったものだった。ダイアモンド自身は「悪魔崇拝」ではなく「無神教」に近い立場のようで、宗教戦争などによって既存宗教が争いを生んできた歴史から特定の宗教(特に一神教)に対する信仰心に懐疑的、という立場のようです。80年代のメタルシーンにおいてギミック、あるいは文学的な題材としてではなく自らの哲学として反キリスト、反宗教的なものを持っていたアーティストはかなり希少。当連載で取り上げてきたアーティストの中では初です。彼のこうした考えがノルウェジアンブラックメタルの論理や哲学の構築に大きな影響を与えたと思われます。同じ北欧の中で受け継がれていく。
プロデューサーはヘンリック・ランド。本作をレコーディングしたコペンハーゲンのイージーサウンドスタジオの共同創業者ですね。Mercyful Fateとの仕事で一番よく知られています。
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