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連載:メタル史 1984年⑨Trouble / Psalm 9 情報編

Back to 1984。メタル史を見ていきます。なお、一日で書ききるには時間がかかるので二日に分けて投稿。今日は前半部分(そのアルバムやアーティストの情報)です。後半部分(アルバムレビュー)は明日。今日は全体が無料公開範囲。

US、イリノイ州オーロラで結成されたTrouble。1979年に結成され、ドゥームメタルの始祖の一つとされます。ドゥームメタル、暗鬱な暗さ、重さを表現するヘヴィロックの系譜はその発火点はBlack Sabbathのバンド名を冠した曲でしょう。以前書いた(→記事)ように1970年がヘヴィメタルの萌芽であり、1970年代後半から「ヘヴィメタルらしさ」が形成されてきて、1980年(当連載の起点)でN.W.O.B.H.M.が世の中に出てきた。その「ヘヴィメタル」がさらに細かく分化していったのは1983~4年ごろからです。代表的なものが「スラッシュメタル」であり、「ヘヴィメタルバンド」の母数が増えるにしたがって「スピードメタル」や「パワーメタル」など特徴ごとにアーティストが分けられるようになった。そうしたサブジャンルの中に「ドゥームメタル」もあります。

「ドゥームメタル」というサブジャンルがいつごろ確立したのかは定かではありません。どこかのメディアか評論家が言い出したのだと思いますが、現在では一定のジャンルとして定着しています。本作はその最初期の作品の一つ。ルーツがBlack Sabbathだとして、その後BudgieBlue Cheerといったバンド群、あるいはメタルではないもののThe Doorsの暗黒性などが70年代に原型として提示され、USとUKにおいてそれぞれ暗黒性を追求するバンドが現れます。ただ、やはり80年代になって花開いたのはN.W.O.B.H.M.の影響、つまりパンクを経由した荒々しさやパワーコードのリフが現れたところですね。70年代のダークなヘヴィロックとはそこが違います。あと、スピード感もある。

ドゥームメタル四天王と呼ばれるバンドがいて、今回のTroubleの他、CandlemassSaint VitusPentgramPentagramCandlemassは当連載で後日取り上げます。Saint Vitusもデビューアルバム「Saint Vitus」も本作と同じ1984年にリリース。この2枚がドゥームメタルの先駆け的な作品とされています。両方取り上げたかったのですが10枚の中で選んだので本作のみを選択。CandlemassPentgramについては後日取り上げるのでここで深堀しませんが、一つ注目すべきはCandlemass(スウェーデン)以外の3バンドはアメリカのバンドなのですよね。ドゥームメタルの祖、Black SabbathはUKのバンドですが、それ以降のドゥームメタルはUSからスタートしたムーブメントである。スラッシュメタルが1983年にUSで生まれ、ドゥームメタルが1984年にUSで生まれた。メタルの震源地がUKからUSに移っています。

デビュー当時のTrouble

本作について。Troubleは1979年の結成以降すぐにデモテープを作り始め、デビューアルバムである本作をリリースする前にいくつかのデモをリリースしました。1983年にライブテープをリリースし、そこには本作(8曲収録)の中の7曲がすでに収録されています。本作に収められた曲はデビュー前からライブ等で練り上げられてきた曲だということ。本作はレコーディング~ミックスまで含めて1週間で終わったそうで、かなりライブ感のあるレコーディングだったことが伺えます。このスケジュールで作りきれたのは以前から演奏し続けてきた曲だったからでしょう。

なお、本作のタイトルおよびタイトルトラック(8曲目)「Psalm 9」は聖書の詩編第九章のこと。歌詞の内容も聖書から取られており、聖書の一節が引用されています。他にも1曲目「The Tempter」はマタイによる福音書第4章3節、6.「The Fall of Lucifer」は主に黙示録第12章7-9節の出来事について、「Revelation (Life or Death):黙示録(生か死か)」はタイトルと歌詞の両方で黙示録の出来事に言及するなどかなり聖書に触れた内容。なので、本作はドゥームメタルであるとともにクリスチャンメタルの作品としてもとらえることができます。悪魔崇拝、反キリストではなく聖書のシーンを描いた音楽。当時のボーカリストであり作詞の中心人物でもあったエリック・ワグナーは「俺は敬虔なキリスト教徒として育てられた、悪魔崇拝するのがブラックメタルなら、俺たちはホワイトメタルだぜ」的なことを言っていたりします。この辺りは(UKに比べて)キリスト信仰の真剣度が高いUSならではな気もします。USはあまり明確な反キリストを打ち出すバンドってないですね。ジョンレノンの「ビートルズはキリストより偉大」発言がUKではスルーされていたのにUSでは炎上したように、USではキリスト教批判はタブー度合が高いようです。

後のエリックワグナー
還暦を過ぎても活発に活動を続けていましたが
COVID-19の合併症で2021年に62歳の若さで鬼籍に入ってしまいました
R.I.P.

ちなみに、Black Sabbathもデビュー当時は実は反キリスト、悪魔崇拝といった考えはなく、彼らの音楽のイメージだけで勝手にそうしたレッテルが張られていたそう。トニーアイオミは「俺はミサだって行くし、もともとキリスト教徒なんだよ、だからああいう扱いには正直当惑した」みたいなことをインタビューで語っていたと記憶しています。英国人だとそれがキャラクター、エンターテイメントの色付けとして理解されて受け入れられたけれど、USだとどうも真剣に受け止められたようですね。この辺りの差異は面白い。

本作のレコーディングはLAのトラックレコードスタジオ。後にMegadethの「Peace Sells…But Who's Buying?」やRed Hot Chilli Peppersの「Mother's Milk」、Aerosmithの「Nine Lives」なども録音される由緒あるスタジオです。プロデューサーはバンド自身とビル・メトイヤー、ブライアン・スレイゲル。スレイゲルはメタルブレイドレコードの創設者。SlayerShow No Mercyでもエクゼクティブプロデューサーとして名を連ねていました。メトイヤーはメタルブレイドのハウスプロデューサーです。彼もShow No Mercyに(プロデューサーではなく)エンジニアとして参加。メタルブレイド作品ではよく見かける顔ぶれです。

真ん中の髪の毛のない人がスレイゲル、1980年代の写真
Crith Ungolのメンバーとの記念撮影
Crith UngolはUSパワーメタルの初期から活動するバンドで
メタルブレイドからアルバムを出しています
Crith Ungolのセカンドアルバム「King Of The Dead(1984)」もドゥームメタル初期の作品とされることもあります

本作は全曲バンドによる作詞作曲。8曲目の「Pslam9」のみ、作詞がエリックワグナー単独。あと、再発時にボーナストラックとして9曲目「Tales of Brave Ulysses」が追加。もともとシングルのB面曲だったもので、UKのCream(エリッククラプトンがいたバンド)のカバー。SabbathではなくCreamのカバーを入れたところが面白いですね。悪魔的なものとは距離を取りたかったのかな。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

レビュー編は次回



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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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