大人のためのメタル話⑤ 現在(2022)のメタルシーンを見渡す75曲 ~3.90年代デビュー組編~
さて、当連載も3回目、70年代、80年代ときて90年代デビュー組です。90年代最大の出来事は91年~94年(Nirvanaのデビューからカートコバーンの死まで)のUSのグランジムーブメント。これは76年~78年のUKのパンクロックムーブメントと同様のインパクトを持ち、ロック音楽のメインストリームを塗り替え、大物バンド達を時代遅れにし、新しいバンドたちが飛躍するきっかけとなりました。そして、UKは79年からのポストパンク時代にNWOBHMやニューウェーブが生まれたように、USもポストグランジから「グランジを通過した」多様な音楽が生まれてきます。
グランジムーブメントを一言でまとめてしまうと、ある意味でプロトパンクやガレージロックリバイバルであったと言えます。UKのパンクムーブメントに近い、US版パンクムーブメントとも言える。多大な予算をかけ精密なスタジオワークで作られたきらびやかなアリーナロックや、高度な技巧を誇るミュージシャンたちが演じる「ロックスター」ではなく、もっとストリートに根差した、「身近な若者の代弁者」たちの音楽。UKパンクムーブメントほど演奏技術が求められなかったわけではなく、成功したグランジバンド(NirvanaとかPearl Jamとか)はそれぞれ確かな演奏力があったわけですが、80年代的な「ギターヒーロー」や「超人ボーカル」はいなかった。もっと等身大のミュージシャンたちが台頭します。
グランジというのは直訳すると「薄汚れた」という意味。80年代のきらびやかなアリーナロックに比べると確かに薄汚れたイメージです。パンクが「破れた」なので、その点でも似ていますね。91年は冷戦が終結し、アメリカは一気に共通の外敵を失って世界唯一の大国として自国内の問題や内省が始まる時代でもあります。歌詞のテーマも70年代がファンタジー、80年代が社会問題や性的なものだとすれば、90年代はより内省的で自分の感情を吐露したり掘り下げるようなもの、自分と向き合うようなものが「ヘヴィミュージックのテーマ」として描かれるようになりました。「浮世離れしたロックスター」ではなく「等身大の若者たちの悩み」ですね。
メインストリームのロックシーンが大きく変化する中、メタルシーンも変化していきます。80年代的なメタルのイメージを破壊する、違うイメージを模索する。具体的にはさらなる過激化がまず進みます。スラッシュメタルはより過激なデスメタルとなり、グロウルボイス(唸り声のようなボーカルスタイル)が一般化。デスボイスや、ハードコア的なスクリームを主体とするバンドが一気に表に出てきます。この頃から(特にUSでは)ハードコアとメタルの境界線も曖昧になりはじめます。80年代までのメタルシーンにはほぼハードコアの影響は見られませんでしたが、90年代は融合する。歌詞のテーマとしてもハードコア的な身近かつシリアスな社会問題を訴えるバンドも現れてきます。80年代のメタルバンド、たとえばスラッシュメタルのバンド達も戦争や犯罪など現実社会の問題をテーマにした楽曲を出しましたが(たとえばSlayerのAngel Of Deathはナチスドイツの強制収容所だし、Iron Maidenの2 Minuets To Midnightは核戦争がテーマ)、ハードコア由来のバンドはもっと激烈な、具体的な革命や変革を訴えるテーマ(たとえばRage Against The MachineのKilling The Nameは白人警官による黒人の殺害・人種差別がテーマ)を扱います。内省を経て、目の前にある社会課題を突き付け、社会変革への具体的な行動を考えさせる/促す歌へ。
ただ、メタルシーンにおいてはすべてのバンドがハードコアを取り入れる方向に行ったわけではなく、欧州においてはむしろ違う方向、現実に反抗する過激な表現手段としてダークファンタジーの力が盛り返します。欧州はもともとUSと違い、ファンタジックなテーマを扱うバンドが受け入れられていましたが、その傾向がより一層強まったと言えます。たとえばノルウェーでは70年代的な悪魔主義(というか反キリスト)をより真剣に表現したブラックメタルが誕生、シーンの中で血生臭い事件がいくつか起き、「悪魔の音楽」としてのリアリティを持つにいたります。また、悪魔的なブラックメタルだけでなく、他の地域でもそれぞれの国の神話を扱ったシンフォニックメタル、エピックメタルと呼ばれるジャンルが確立されていきます。欧州とUSでテーマや「メタル」のイメージ、範囲が乖離していく時期とも言えます。
それでは激変の時代、「Heavy Metal2.0」とも言える90年代デビュー組の今を見ていきましょう。90年代は20曲、20バンドです。どうぞ!
1990年代デビュー組 ~USと欧州でトレンドが分かれ、メタルが多様化する時代~
26.Paradise Lost(1990年デビュー、UK)/Darker Thoughts(2020)
90年代の幕開けはUKのパラダイスロストから。デスドゥームと呼ばれるジャンルの創設者とされ、ゴシックメタルの先駆者でもある。デスメタルなどのエクストリームメタルのスタイルを取り入れつつUKらしいニューウェーブやゴシックのイメージを組み合わせて独自の美意識を感じさせる「強烈な歪みや醜さと美しさが同居する世界」を築き上げます。この世界観はUKならでは。
27.Cannibal Corpse(1990年デビュー、US)/Inhumane Harvest(2021)
スラッシュメタルがさらに過激化したデスメタルシーンから代表的なバンドを。US、フロリダで80年代前半からDeathやObituary、Morbid Angelなどのデスメタルバンドが活動を始め、フロリダデスメタルシーンとして一つのアンダーグラウンドなムーブメントになっていきます。このカニバルコープスはもともとNYのバンドでしたがそうしたフロリダデスメタルシーンの盛り上がりを見てフロリダに拠点を移し、現在ではUSデスメタルを代表する存在に。世代で言えば創設者たるDeathなどよりは少し後の世代ですが、今でも活発に活動しているバンドです。バンド名を直訳すると「人食い死体」であり、Tシャツやアルバムジャケットなども基本的にかなりひどいデザインが多い。リアル路線のスプラッター映画というか、、、。USの「デスメタル」のイメージ、「極端なメタル」のおどろおどろしいイメージを体現したような(というかむしろカニバルコープスのバンドイメージが一般化したとも言える)バンド。MVも年齢制限がかかっています。
28.Arch Enemy(1990年、Carnageとしてデビュー、スウェーデン)/Handshake With Hell(2022)
スウェーデンのメロディックデスメタルシーンを代表するバンドとしてアーチ・エネミーを。アーチエネミーの結成自体はもっと後の時代(1995年)ですが、中心人物のマイケルアモットは1990年にスウェーデンのデスメタルバンド、カーネイジのメンバーとしてデビュー。ただ、レコードデビューする前にカーネイジは解散してしまい、マイケルアモットはUKのデスメタルバンド、カーカスに参加します。カーカスの4作目「Heartwork(1993)」は後の「メロディックデスメタル」と呼ばれるスタイルの先駆けとも言われる名盤。ただ、カーカスは基本的にUKのバンドだし、もともとがハードコアを高速化したグラインドコアと呼ばれるスタイルだったので、そこにマイケルアモットが抒情的なギターフレーズを持ち込んだいわば異種格闘技の試合的な内容でした。このアーチエネミーは完全にスウェーデンのメロディックデスメタルシーンから生まれたバンド。2001年にボーカルが女性に変わり、「女性デスヴォイス」という新たなジャンルを切り開いた先駆者でもあります。
なお、カーカスも現在も活動中でメタルシーンの中では確固たる存在感を持っています。新曲も出していますが今回は90年代を20バンドに絞る都合上割愛。
29.Amorphis(1992年デビュー、フィンランド)/The Moon(2021)
北欧メロデス、というのはスウェーデンが中心だったわけですが、その創成期にフィンランドから登場したのがこのアモルフィス。デビュー当時からスウェーデンとは一味違う存在感があり、2ndアルバム「テイルズ・フロム・ザ・サウザンド・レイクス(1994)」ではアラビックな音階を取り入れたミドルテンポな独自の音像を確立。フォークメタルやオリエンタルメタルと呼ばれるジャンルの先駆け的な音を作り上げます。こうした民族伝統音楽とヘヴィメタルの融合を最初に行ったのはUKのSkycladの「The Wayward Sons of Mother Earth(1991)」の中の「The Widdershins Jig」とされていますが、フォークメタル、独特な音階を持ったエクストリームメタルの存在を知ったのはアモルフィスを通じて、という人も多かったでしょう。特に、こうしたアラビックな音階とメタルを取り入れた音像はイスラエルのOrphand Land(1994デビュー)と並んで創始者と言えます。正直、なぜフィンランドからこのような音楽が生まれてきたのか謎ですが、フィンランドは「北欧」で括られるものの文化的にはスウェーデンやノルウェーよりはロシアに近いんですよね。人種的にもスラブ人国家だし(ノルウェーやスウェーデンはゲルマン系)。言語的にもフィン語というのは独立していてウラル語族。音楽もやはり独特のメロディセンスを持っています。アモルフィスはそんな「フィンランドの特異性」をメタルシーンに最初に知らしめた偉大なバンド。なお、「フィンランド発のハードロックバンド」ならハノイロックスが先達です。
30.Tool(1993年デビュー、US)/Opiate²(2022)
オルタナティブメタルの雄、ツール。グランジ、オルタナティブムーブメントの中から生まれ、その中でもひときわ異彩を放っているバンドです。この曲は2022年のリリースですが1992年にリリースされた最初のEP(初回にも書きましたが、今回の連載ではデビューアルバム発表年=デビュー年として扱っています。デビューアルバムの1年前に発表された曲)の収録曲のリメイク。30年の間にライブ演奏で変化してきた現在のアレンジで演奏されていますが、曲の骨格は1992年のもの。当時のグランジ色を感じ取れる曲調、メロディであると同時に、現在のツールの持つ独自性、浮遊感、空間的な音響も感じられる過去と現在が出会う1曲になっています。現役で活動中ながらUSでは「伝説のバンド」扱いとなっており、アルバムは軒並み1位。13年ぶりの「Fear Inoculum(2019)」も全米1位となり話題になりました。今のUSのヘヴィロックやプログレッシブロック(「メタル」ではなく)と言えば、ツールがその頂点にいるのかもしれません。
31.Korn(1994年デビュー、US)/Worst Is On Its Way(2022)
グランジムーブメントが白熱し、ピークから終焉に向かう1994年にデビューしたコーン(KoЯn)。グランジ的、つまり静ー動ー静のダイナミクスが大きいスタイルを取り入れつつ、ヒップホップのリズムを取り入れて90年代においては「新世代」を感じさせたバンド。ボーカルスタイルとしては泣き叫ぶような感情的なスクリームがあり、ラップ的な韻を踏むなどの手法はあまりありません。アルバムごとにスタイルが変化していますが、オルタナティブメタルやNuMetalと呼ばれるバンドの先駆けとなったバンドの一つ。ダウンロードUKでライブを初めて見ましたがめちゃくちゃカッコよかった。思わず体が動く強靭なグルーヴがあり、予想よりメロディアスでメタル色も強いサウンド。
90年代はハードコアとメタルの垣根がなくなっていく、ハードコア的な激情表現が取り入れられたものが「メタル」として扱われる(特にUS)傾向がありますが、ざっくりいうとハードコアはメロディが希薄でメタルってメロディアスなんですよね。もちろん「メロディックハードコア(メロコア)」とか例外はありますが。Kornはハードコアやヒップホップの影響も受けつつ、少なくとも近作はかなりメタル的、つまりメロディアスです。
32.Marilyn Manson(1994年デビュー、US)/We Are Chaos(2020)
インダストリアルメタル、ショックロックの雄、マリリンマンソン。強烈なキャラクターと世界観を持ち、社会的に禁忌扱いされながらも知名度を上げていきます。映画やドラマにも出演しミュージシャンの枠を超えたUSの「有名人」に。ただ、アンチクライストや涜神的なイメージ(=キリスト教国たるUSにおいては反社会的なイメージ)からか、銃乱射事件の若者がマリリンマンソンの音楽に影響された、などとJudas Priestと同様の裁判に巻き込まれたりしています。ただ、JPと違ってマンソン自身は自分の音楽が原因での訴訟は起こされていませんが、私生活で過去の結婚相手に訴えられたりバンドメンバーに訴えられたりしていていて、最近はすっかりゴシップスターのイメージに。
音楽的にはエクストリームな曲も演奏しつつだんだんと普遍的なロックにも接近しており、この曲などはDavid Bowie的な感じもします。
33.In Flames(1994年デビュー、スウェーデン)/State Of Slow Decay(2022)
スウェーデンはイェテボリ周辺にメロディックデスメタルのシーンが生まれ、At The Gates、Dark Tranquillityなどと共に注目されたのがこちらのインフレイムス。その後は音楽性を変化させ、US的なオルタナティブメタルにも接近していきました。90年代の北欧のエクストリームメタルというとノルウェーのブラックメタル、スウェーデンのメロディックデスメタル、独自のメロディが特徴あるフィンランド(主にAmorphisとNightwishの活躍)とそれぞれ特色がありますが、スウェーデンはUSや欧州(特にドイツかな)のメインストリームのトレンドに敏感なところがあります。積極的に海外に出ていく姿勢があるというか。80年代にスウェーデンのヨーロッパがUSで大成功したのも影響しているのかもしれません。
インフレイムスも音楽性を変化させ、賛否両論を呼んできましたが商業的には支持層を拡げ、現在でもスウェーデンのメロデスシーンから出てきたバンドの中では最大規模で活動を続けています。
34.Cradle Of Filth(1994年デビュー、UK)/Necromantic Fantasies(2021)
UKのヴェノム、スウェーデンのバソリー、ノルウェーのメイヘムなど、少し離れた欧州各地で80年代~90年代にかけて隆興したブラックメタル。そのスタイルを発展させながら最初に商業的成功を手にしたのがUKのクレイドルオブフィルスでした。女性ボーカルを導入し、クラシカルかつシンフォニックな世界観。美醜を併せ持ちつつもメロディアスで分かりやすさがあったのが商業的成功の理由でしょう。
ノルウェジアンブラックメタルと違い、悪魔信仰や反キリスト色は薄く、あくまでキャラクターというか70年代からの「ショックロック、オカルトの一環」としての吸血鬼や悪魔のモチーフ。ダークファンタジーな世界観を持つ演劇的と言えるかもしれません。今まで見てきたようにUSではシアリスな内省や激情の吐露が1990年代前半のトレンドでしたが、欧州では異なる「ダークファンタジー」の世界が花開いていきます。
35.Rammstein(1995年デビュー、ドイツ)/Dicke Titten(2022)
さて、欧州一のメタル大国であるドイツはそのころどうだったか。90年代になっても80年代にデビューしたスラッシュメタルやパワーメタルが変わらぬ存在感を持っていましたが、90年代半ばには独自のインダストリアルメタルが生まれます。旧東ドイツの出身者たちが組んだラムシュタインがデビュー。ベルリンの壁の崩壊の1989年、東西ドイツが統一された1990年から5年、東ドイツで生まれ育った若者たちが組んだバンドがラムシュタイン。ドイツにはもともとクラフトワークなどのジャーマンテクノやクラウトロックと呼ばれる独自のジャンルがありましたが、より硬質で統制の取れた(全体主義を彷彿させる)音像、皮肉のこもったビジュアルなどを打ち出しシーンに衝撃を与えます。彼らの音楽はNeue Deutsche Härte(=new German hardness:新しいドイツの激音楽)と名付けられました。ニューウェーブのHM版であったNWOBHMみたいなもので、ドイツ版NuMetalみたいな感じ。
36.Deftones(1995年デビュー、US)/Ohms(2020)
今現在、最も現役感があるオルタナティブメタルバンドと言えばデフトーンズでしょう。グランジ・オルタナを通過しながら実験性を取り入れ、メタルの領域を拡張し、USの今の空気を切り取った「ヘヴィネス」の表現を模索し続けているバンド。ダウンロードUKでライブを観ましたがかなり不思議な世界観。音量も小さめで、音圧で攻めるというよりは「統制された狂気」というか、秘めた衝動を感じさせるライブでした。決してわかりやすくなく、ヘッドライナークラスの中では異質。この曲は比較的歌メロも分かりやすくメロディアスですが、アルバム全体としてはかなり実験的でユニークな音楽体験を追求しているバンド。アートロックやエクスペリメンタル(実験的)ロックにも分類されます。
37.Dimmu Borgir(1995年デビュー、ノルウェー)/Interdimensional Summit(2018)
アンダーグラウンドの極み、メタルシーンの「悪魔的なイメージ」を極端に具現化していたノルウェジアンブラックメタルシーンからもついに商業的な成功を収めるバンドが現れます。それが1995年デビューのディムボルギル。先に成功を収めたUKのクレイドルオブフィルス的なシンフォニックさを取り入れたブラックメタル。ディムボルギルが本格的な商業的成功を手にするのは2000年代になってからですが、デビュー当時からスケール感のあるバンドでした。
ノルウェジアンブラックメタルシーンの大物はメイヘム、エンペラー、ダークスローンなどが現在も活動中。その中で商業的には最大規模の成功を収めているのがこのディムボルギルです。欧州のメタルフェスだとヘッドライナークラスか、メインステージの常連。
後は、90年代のバンドが多くなりすぎるので割愛しましたが90年代は東欧にもこうしたエクストリームメタルが生まれ、ポーランドのヴェイダーやベヒーモスらは著名。ベヒーモスも強烈な音楽性を保ちながら商業的な成功を手にしています。
38.Limp Bizkit(1997年デビュー、US)/Dad Vibes(2021)
ラップメタルの第一人者、リンプビズキット。決して先駆者ではありませんが(ICE-T率いるボディカウントなど、先駆者は90年代前半から活動中)、商業的に最大の成功を収めたのはこのバンドでしょう。メタル一直線と言うよりは基本的にはミクスチャーバンドで、その中の一つとしてメタルもあった、と言うか。ヒップホップの感性が前面に出たサウンド。いろいろなゴタゴタがあり、ニューアルバムもリリースが遅れに遅れましたが2021年に10年ぶりのニューアルバム「Still Sucks」をリリース。この曲はそのアルバムからのリードトラック。やっぱり奇妙に耳に残るんですよね。
39.Nightwish(1997年デビュー、フィンランド)/Noise(2020)
フィンランドメタル界で最大の成功を収めているシンフォニックメタルバンド、ナイトウィッシュ。オペラティックな女性ソプラノボーカルをフューチャーしたシンフォニックメタルで独自の美意識あふれる世界観を展開しています。これぞ欧州メタル。
クラシック音楽の影響を受けたネオクラシカルメタルというジャンルがあり、その源流はディープパープルのリッチーブラックモアであり、スウェーデンのイングウェイマルムスティーンも大きな影響を与えましたが、そうした「クラシック音楽」の中でも歌曲であるオペラに注目したサウンド。それまでもオペラティックと称されるボーカリストはいましたが、本格的なソプラノ女性ボーカルを迎えたバンドは初(男性だとハードロックを歌ったミートローフがいました)。かつ、ABBA的な北欧ポップスのメロディも持ち合わせ、新世代のメロディックメタルバンドとして衝撃を与え、2000年代にはUSでもブレイク。現在の一つの大きな潮流であるシンフォニックメタルを産んだバンドです。
40.Within Temptation (feat. Annisokay)(1997年デビュー、オランダ)/Shed My Skin(2021)
そして同じ年、こちらもシンフォニックメタルの隆興に大きな影響を与えるウィズインテンプテーションがオランダからデビューします。ただ、ナイトウィッシュとの違いはボーカリストのシャロン=デン=アデルは独学でボーカルを学んだということ。ナイトウィッシュの初代ボーカルであるターヤトゥルネンは専門的にオペラを学んだソプラノボーカルでした。なので、比較するとウィズインテンプテーションの方がロック的なんですよね。オペラよりはロック寄り、ゴシックメタル的というか。
いずれにせよ、ナイトウィッシュとウィズインテンプテーションが同時期に出てきたことでメタル界の中で女性ボーカルの存在感が増し、新しい時代の幕開けを感じさせることになります。女性メタルボーカルとしては1989年にデビューしたDOROことドイツのドロペッシュが先駆者。彼女も現在もバリバリ現役で活躍中ですが、2018年以降新譜がないので今回は割愛。いずれにせよメタル界には絶対数として少なかった女性ボーカルが活躍するシーンが生まれてきます。
41.System Of A Down(1998年デビュー、US)/Protect The Land(2020)
USのNuMetalを代表するバンドの一つ、システムオブアダウン。USのバンドではありますがメンバーは全員レバノン出身のアルメニア系アメリカ人で、構成的にはレバノンのバンドと言ってもいい。そんな背景もあってかミクスチャー感覚が独特で、他のバンドとは一味違う狂気にも似た音像の坩堝でした。2005年にアルバムを出した後しばらく沈黙していましたが2010年からライブ活動を再開。こちらは2020年に14年ぶりに出た新曲です。
42.Amon Amarth(1998年デビュー、スウェーデン)/The Great Heathen Army(2022)
バイキングメタルの雄、アモンアマース。メロディックデスメタルにも分類されますが、その海賊的なイメージからバイキングメタルと呼ばれます。
バイキングメタルはその名の通り海賊をテーマにした楽曲が多い。悪魔をテーマにスタートし、そこからキリスト教だけでない欧州の神話、ギリシャ神話や北欧神話を取り入れ、そして中世やバイキングがテーマになっていきます。このバイキングメタルの祖もスウェーデンのバソリーと言われていますが、こうしたイメージで最初に商業的成功を収めたのはアモンアマースでしょう。バイキングメタルの特長は合唱できること、船を漕ぐようなリズムであること、ですね。実際にバイキングは舟をこぎながら歌を歌う習慣があったようなのでそうした文化を引き継いでいます。
43.Godsmack(1998年デビュー、US)/Under Your Scars(2018)
ポストグランジシーンから出てきたUSメタルのスター、ゴッドスマック。日本での知名度はいまひとつな気もしますが、アルバム3枚連続でビルボード1位を取るなどUSでは大スター。2020年以降の新曲がなかったので2018年のアルバム「Legends Rise」収録曲から。グランジを経て、たとえばAlice In ChainsやLoad以降のMetallicaの影響を感じる音像です。90年代以降のUSの王道の「ハードロック」と言ってもいいかもしれない。
44.Slipknot(1999年デビュー、US)/The Chapeltown Rag(2022)
USメタルの新時代を告げたバンド、スリップノット。パーカッションとDJとドラマーがいる、という多人数バンドで、とにかくリズムが強烈でした。それまでのメタルバンドは基本的にドラマーが一人でしたからね。グルーヴの強烈さ、ビートの強烈さでメタルシーンの中心楽器をギターからドラムに変化させたバンドとも言えます。現在のエクストリームメタルってドラム主体になっているところがありますからね。MetallicaのSt.Anger(2003)のドラムサウンドにも明らかな影響を与えたと思います。
彼らの魅力はそれだけ強烈な音像ながら歌メロもしっかりあること、決してポップなわけではないですが、耳に残る、口ずさめるようなフレーズが入っているんですよね。それもあってUSではメインストリームを制覇。この世代にデビューしたバンドの中では頭一つ抜けた存在感を持っています。
45.Lamb of God (1999年デビュー、US)/Nevermore(2022)
90年代最後は同じくUSからラムオブゴッド。こちらはメタルコアと呼ばれます。何が違うかって、ハードコア的で歌メロが怒号。メロディが希薄ですよね。ただ、ハードコアとは違いギターリフやリズムが複雑でカッチリしている。その部分はメタル由来、なので融合した「メタルコア」というジャンル。まぁ、この辺りは曖昧ですが。
ちなみに、狭義のメタルの定義は「ギターリフ主体の音楽」なんですよね。その定義を唱えているのはヘヴィメタル百科事典を標榜するMetallum。こちらはその定義に従い、SlipknotもLamb of Godも載っていません。僕は今回はもうちょっと広く、欧州のメタルフェスに出ているバンドは対象としています。これは現在のメタルシーンの中心地は欧州のメタルフェスだと思っているからです。
以上、90年代でした。USを中心に見ていると90年代はグランジムーブメントの影響とポストグランジの中で生まれてきたNuMetal、ということになりますが、広くメタル界を見てみると最大の出来事はデスメタルの隆興です。デスメタル的表現、世界観、それはグロウルボイス(デスボイス)であり、激烈なドラミングであり、混沌の歪んだ音の中に差し込まれる美しいギターソロやクリーンパート、つまり美醜の対比であった。グランジが静と動の対比なら、メタルシーンでは美醜の対比が主流になってきます。デスメタル的な表現をさらに過激化したブラックメタル、その中の「美」を追求し、結晶化したシンフォニックメタルの存在感が大きい。
そして、違う流れとしてはドイツ発のインダストリアルメタルや、中世やバイキングをテーマとした「欧州伝統音楽の再発見」であったり、「欧州独自の文化(東ドイツ、共産圏、というのも欧州ならではです)」をテーマにしたバンドが増えてきます。80年代は皆がUSでの成功を目指しましたが、USと欧州でメタルのトレンドが分かれたのが90年代と言えるでしょう。
また、世界的に見て音楽業界のピーク、CDの売上が最高潮だった時代でもあります。国ごとにピークの年に差がありますがだいたい世界的には1997年、1998年がピークでした。そのため、音楽業界は次々と新しいアーティストが売り出された、実験がされた成長業界であった時代、とも言えます。今振り返ってみると、90年代ってかなり実験的なバンドが多く出ているんですよね。それまでの音楽とは違う感覚というか、「よくこれで大ヒットしたな」と思うバンドが多い。それはやはり業界全体に勢いがあったからでしょう。
次回は2000年代。まだまだ新しいバンドが出てきます。次回も20バンド、20曲。お楽しみに!
それでは良いミュージックライフを。
おまけ
90年代初頭、グランジムーブメントの中で「それでもUSで成功し続けようとした」バンドたちがどんな戦略を採ったのか、記事を書きました。
そして日本のメタルシーンはどうだったのか。90年代のBurrn!誌を見ながら振り返ってみました。
90年代はグランジ、オルタナティブブームがあり、いわゆる「メタル」とは呼ばれないけれどかなり激しい表現を行うロックバンドも多く出ました。メタル界の外、「ロック史」ではどんなことが起きていたか、興味がある方は下記の記事をどうぞ。