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2022年耳を惹かれた日本の音楽アルバム :1月~4月まで「世界の音楽の中で日本の音楽の特異性って何だろう」

日本の音楽、いわゆる「邦楽」で2022年にリリース作品から「おっ、これは!」と思ったアルバムをシェアします。日本の音楽シーンの面白さ、特異性に触れることができると感じた12枚です。どこで見つけているかというとnoteで誰かが書かれた記事を読んだか、RYMからが主。RYMも踏まえているので「海外(のマニア)に受けている日本の音楽」という視点もあるはずです。

日本は世界第二位の規模を持つ音楽マーケットですが非英語圏のため日本国外ではほとんど聞かれていません。かなり独自の進化を遂げていますが、それがたぶん新鮮に聞こえるんだと思うんですよね。僕の視点としてはグローバルミュージックの一つ、非英語圏(≒その国独自の文化に根差し、主に地産地消される)音楽として「日本の音楽」を見ています。今回紹介するのは12枚。この12枚は大きく4つのジャンルに分けられます。

系統①.けっこうエクストリームな表現(ポストハードコアやハードテクノ)まで取り入れたハイパーポップ的なもの:英語圏のハイパーポップはここまで極端なミクスチャーサウンドは少ないかも、むしろアジア圏は音楽ジャンルのミックスが極端

系統②.なんとなく侘び寂びを感じるもの:USのインディーフォークとかにも近いかもしれないけれど、日本独自の空気感

系統③.ガールズバンド:日本になぜか多い

系統④.天才系(単純にすごい才能を感じるもの)

これを聴くと日本の音楽の特異性が分かる、かも。順不同、それでは12枚どうぞ。

優河 / 言葉のない夜に

系統②、優河ゆうがのアルバム。女性SSWですが、バックバンドが「魔法バンド」という名前で固定メンバー。ギタリストが元「森は生きている」の岡田拓郎です。Cero森は生きているには何か音楽の魔法を感じることがあるんです。小沢健二の1stアルバムのような。何が凄いわけではない、突出したものがあるわけじゃないんだけれど、聞いていて心地よいし「ああ、いい音楽だなぁ」と感じる説得力があります。同じ空気感を感じたアルバム。


春ねむり / 春火燎原

系統①、素晴らしいアルバム、素晴らしいアーティスト。いろいろな断片は感じさせる(大森靖子、ヤプーズ、ノイズ系、水曜日のカンパネラ他)けれど、全体としてすごくオリジナルというか、きちんと存在感があります。自分の存在をどうすれば全部使いきれるか、できることの中で何を表現するか。インタビューを読んだら「歌があまりうまくもないし、できることを探っていたら今のスタイルにたどり着いた。自分の弱点を武器に変えるのがパンクだと思うから」みたいなことを話していて、おお、それがパンクなのかと思いました。確かにDo It Yourself(DIY)というのは突き詰めればそういうことなのかもしれない。できることはやればいいし、できないことはそれをどうすればいいか考える。制約のない創作なんてない(から感動を生む)。


Awich / Queendom

このアルバムはあまり「邦楽らしさ」はないですね。洋楽のサウンドに近いというか、敢えて言えば海外の「強い女性(Riot Girrrlとはまた違う、ビヨンセやシャキーラの発信内容、存在感に近いかも)」と「人種(BLMや、アジア人としての人種意識)」を発信しているように感じます。日本語で日本市場に対してのメッセージなので自分の所信表明と、女性解放的な内容が主。ただ、完成度が高い。自分の波乱万丈の人生と生き抜いていく強い意志が感じられて、心を鼓舞されます。


宇多田ヒカル / Badモード

系統④、好き放題やっているというか、初めて今までと違う(海外の)プロデューサーチームと組んで編曲をゆだねた作品。風通しが良くなっています。閉じ込められた生活でかえって音は制約から解き放たれているのが面白い。けっこう力技でねじ伏せているというか、セオリーに沿っていない曲が多いのに自然なポップスとして聞かせてしまうのが凄い。実験的なのに「宇多田ヒカルの音楽」というだけでリスナーが受け入れる。歌と声の力が強いからでしょう。


JYOCHO / しあわせになるから、なろうよ

JYOCHOじょうちょ、うーん、敢えて言えばこれは系統②ですかね。マスロック、プログレッシブロック的な「けっこうな技術力を必要とする音楽」なのですが聴いた感じはかなりポップ。プログ的に言えばシンフォ系とかポンプロックになるのかな。Moon Safariとかにも近いですが、なんとなくそこに侘び寂び、力強さではなく繊細さと翳りを感じさせるのが日本の風土に合っています。歌メロだけで言えば遊佐未森とかにも近い世界観かも。


稲葉曇 / ウェザーステーション

ボカロ文脈、①かな。けっこう攻めたアレンジですが、「ボカロ」と言われなければ普通にポップスとして聞けます。「人間が歌えないメロディ」ではない。YOASOBIを筆頭に人の声がボカロに寄っているのもありますが、今のJ-POPのメインストリームに近い。機械音声という冷たさや距離感を感じさせない曲作りの妙を感じます。初期の相対性理論のような感じも受けますが、職人芸的な繊細な作りこみを感じさせ独自性を確立した音。


mizuirono_inu / TOKYO VIRUS LOVE STORY.

系統①、これは衝撃作。音MADやナードコア的な「音をぶった切ってハイテンションでつなげまくった」感もあり、舞台演劇、古くは天井桟敷、最近だとエヴァンゲリオン的(というか庵野監督的というべきか)なサウンドコラージュ、声のカットアウトで一つのドラマを作っていく感覚。アンダーグラウンドで狂った感覚がしびれます。これ、ライブだとまんま舞台演劇なのかなぁ。まだ情報量が多すぎてちょっと伝わってこないのが玉に疵な感じもしますが、春ねむりと同じような「足りない・できないことを逆手に取った」イノベーションを感じます。じゃあどうすればいいんだ、という問いに向き合いこの表現手法、作曲手法を確立したのは凄い、可能性しかない。聴くと疲れるのだけれど気が付くとまた聴きたくなる濃すぎる中毒性。ベストトラックは3曲目。


藤井風 / Love All Serve All

④、天才型。宇多田ヒカルに近い「歌の力で曲の奇妙さをねじ伏せてしまう」感覚。どこか軽やかな、つかみどころのない飄々とした感覚があり(それがかえって隠されている闇を想像もさせるのだけれど)、浮遊感があるのが特徴的。ポピュラー音楽としての強度が強い。何より歌が上手い、肉体的な(声帯の)強さを感じるのが好みです。なぜかちょっと(声と節回しに)オリエンタルなものを感じるんですよね。トルコとかイェメンとかあっちの方の。


MONDO GROSSO / BIG WORLD

多彩なゲストを迎えて制作されたMONDO GROSSOの新作。相変わらず完成度が高い職人的ポップスを作りつつ、音響も「日本的な最先端」を提示しています。そういう意味では主役はゲストボーカルにゆだねて裏方に徹しているけれど④の天才型タイプかなぁ。それぞれのゲストの魅力と色を引き出しつつ名曲感があるものを作り上げ、かつ一つのアルバムにまとめるという離れ業を具現化。CHAIの参加曲とかCHAI以上にCHAIだし(本人たちも作曲に参加しているけれど)。音の切れ味が凄い。


羊文学 / Our Hope

各所で絶賛されている羊文学のニューアルバム。系統は②(と③)、侘び寂びがある、優河と似たような静謐な世界観からスタートするもののアルバム後半になるにつれてバンドサウンド、躍動感が出てきます。静かなだけで終わらずロックバンドのダイナミズムが出てくるのがいいアルバムですね。とはいえあまり過剰に感情を叩きつける感じはなく、統制が取れている。HAIMとかにも近いのかも。日本だとくるりか。歌メロのセンスとか抒情性はやはり日本人好みで来てほしいところに手が届く感じがします。


おとぼけビーバー / スーパーチャンポン

系統③、やってくれました。京都発世界へ、ガールズバンドおとぼけビーバーのニューアルバム。ガーリックボーイズを彷彿させる「ちょっとコミカルなんだけどけっこうシビアなシチュエーション」を歌った歌。18曲で21分と駆け抜ける感じ。スターリンの「虫」も思い出しました(あれよりは複雑だけど)。どの曲も短さの中にしっかりドラマ(というかネタ)が仕込まれており、すごい密度。



代代代 / Maybe Perfect

系統①、RYMで知ったアーティスト。いわゆる地下アイドルみたいですが音源はかなり攻めています。面白いのがこのアルバム、ミニアルバム(6曲入り)の2枚組で、曲順がそれぞれ逆で甲盤、乙盤と名付けられている。どちらかがオリジナルで片方がリミックスというよりはどちらもオリジナルっぽくて「甲乙つけがたい」という感じを狙ったのかと。「何が違うんだろう」と聞き比べているうちにその曲に入り込んでしまう、という見事な罠。分かりやすく違わないんですよ。だけど長さも違うし、しっかり聞いていると編曲の少なくともコンセプトが違う。これは新しい聞かせ方。通常のストリーミングだと甲盤だけが配信されているようですがBandcampでは両方配信中、聞き比べるのも面白いです。ミクスチャーでゴッタ煮のいわゆるハイパーポップ。グリッチポップ。


以上、耳を惹かれた12枚のアルバムでした。何か新しい発見があれば幸いです。

なお、まとめて聞きたい方(主に自分用)のためにApple Musicで全部のアルバムを並べたプレイリストを作りました。Apple Musicってアルバム単位でプレイリストに追加すると曲順がランダムになるんですよね。アルバムを続けて聴きたいだけなのでやめてほしい。ランダムにしたいときはシャッフルで聴けるのだから。不思議な設計だなぁと思います。こちらのプレイリストは手動でアルバム順に並べなおしてあります。よろしければどうぞ。

それでは良いミュージックライフを。

ヘッダーフォト:クレジット





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