大人のためのメタル話⑥ 現在(2022)のメタルシーンを見渡す75曲 ~4.(20)00年代デビュー組編~
当連載(現在のメタルシーンを見渡す75曲)も4回目、70年代からスタートして00年代に到達しました。最大のCDセールスを誇り、日本においてはHR/HM系ミュージシャンが最も売れた90年代を経て00年代へ。この時代のアーティストから、今度はUSと欧州だけでなく欧州と日本でも乖離が生まれている印象も受けます。欧州の人気度・知名度に比べて日本での評価がまだおいついていないアーティストが多い印象を受ける世代。欧州やUSではこの時期にデビューしたバンドがだんだんとヘッドライナークラスに育っています。
1970年代にUKで生まれた音楽文化がヘヴィメタルだとして、それが80年代にUSを席巻し(大きく言えばポストパンク=ニューウェーブ勢がUSに進出した第二次ブリティッシュインベンションの一つとしてNWOBHMを中心としたUKメタル勢の進出もあったのだと思います)、グラムメタルやスラッシュメタルなど、USの中に根付きます。そして90年代になるとグランジブームが起き、だんだんとUKメタルの影響は消失、ヘヴィメタルは欧州メタルとUSメタルに大きく分派します(もちろん、アーティスト単位で見れば例外はある)。90年代初頭から少しづつスタートしたメタルフェスが00年代になると欧州で巨大化・活性化し、USの市場がなくてもメタルバンドが成功できる土壌が欧州内に確立。さらに欧州市場に特化したバンド群が現れてくるようになります。
日本においてはやはりUSで売れたものが日本でも売れる傾向が強い。「ビッグインジャパン」と呼ばれる独自のアーティスト群もありますが、基本的にはUS市場に連動していて80年代、90年代がHR/HM人気のピーク。それ以降の人気は下降線を辿ります。それは日本最大のメタルメディアであるBurrn!誌の表紙アーティストを見ても明らかで、ほとんどが90年代以前デビューのアーティスト。00年代以降デビュー組で表紙を飾ったアーティストは数えるほどしかいません(というか、Avenged SevenfoldとBullet For My Valentineのダブル表紙だった2008年12月号だけなんじゃないだろうか)。
Burrn!誌が総てというわけではもちろんないし、影響力は下降していると思いますがではそれに代わるメディアが出てきたかと言うと出てきていないのが現状。同じシンコーミュージックのヘドバン誌やBurrn!別冊では00年代以降のアーティストを積極的に取り上げるようになっているので、そのあたりから日本のメタルが再び(昔に比べると未だ小規模ながら)盛り上がりつつあるかな、という認識です。
状況をまとめてしまえば、日本では80年代~90年代までが「メタルブーム」であり、00年代からはメタルはいわゆる「洋楽」のサブジャンルになった。洋楽離れ(≒邦楽の隆興)も進み、00年代以降のアーティストたちはいわゆる現在の日本の「メタラー」、ひいては「洋楽リスナー」の多数派であろうと思われるミドル層(80年代~90年代に思春期を過ごした人たち)の知名度がない、と言うべきかもしれません。もちろん、00年代以降にデビューしたアーティスト達にも若者を中心に一定数のファンはいますが、80年代、90年代のような「メタルブーム」ではない分絶対数が少ない。そもそもこの「大人のためのメタル話」シリーズは、現在日本最大のリスナー人口クラスターであるミドル層に向けて書いていますから、00年代以降のアーティストを紹介していくというのはいよいよ本題というところですね。
世界的に見れば、00年代デビュー組が今一番勢いがあるアーティスト達と言っていいかもしれません。まだまだ挑戦的な新作を出しているし、メタルの王道を切り開いている世代。70年代デビュー組はもちろん、80年代デビュー組も伝説化しており、90年代デビュー組も大物となってそれぞれ独自の音楽性が固まっています。00年代デビュー組が今のメタルの最前線であり、現役感と大物感(ライブへの集客力とセールスチャート等)のバランスが取れている世代だと思います。この記事で気に入ったバンドが見つかれば音楽ブロガー冥利に尽きます。
それでは00年代デビュー組、20曲。行ってみましょう!
2000年代デビュー組 ~現代メタルシーンのフロンティアーズ~
46.Disturbed(2000年デビュー、US)/Hey You(2022)
デビュー時、オジーオズボーンから「メタルの未来」と称されたディスターブドもデビュー20周年を越え、現在も活発に活躍中。こちらは2年ぶりに発表された新曲です。90年代のところで紹介したGodsmack、Slipknotに並び、USメタル界で最大の成功を収めているアーティスト。1990年代後半、つまりポストグランジの中で盛り上がっていったNuMetal(メタルを他のムーブメントと組み合わせたアーティスト達)の中でもかなり成功したバンドです。このムーブメントは別名NWOAHMとも言いますが、NuMetalの方が一般的な印象。
また、NuMetalの起点はPanteraの俗悪(1992)だと思います。このアルバムはUSメタルの方向性を変えました。そこから約10年、Linkin Parkの「Hybrid Theory(2000)」と「Meteora(2003)」で商業的なピークを迎え、ピークアウトしていきます。
47.Heaven Shall Burn(2000年デビュー、ドイツ)/Übermacht(2020)
NuMetalに代わってUSメタルのメインストリームになっていったのがメタルコア。メタルコアはもともとは1980年代にNYのAgonistic FrontやUKのDischargeなど、メタリックな質感を持ったハードコアバンドが現れます。その後、Suicidal TendenciesなどUSのクロスオーバースラッシュを経てメタルコアシーンが脈々とアンダーグラウンドで熟成され、2000年代になると商業的成功を収めるようになっていきます。そうした「00年代以降、メインストリームへ浮上していくメタルコアバンド達」の中でもかなり早い時期にデビューしたのがドイツのヘブンシャルバーン。基本的にメタルコアは欧州よりUSの方が人気が高い印象もありますが、欧州でも不人気なわけではありません。欧州の方がよりさまざまなメタルのサブジャンルがそれぞれ人気、というところですね。ヘブンシャルバーンは欧州圏のメタルコアバンドの代表格という印象です。
以前も書きましたが、もともとメタルというのはそこまで政治的な主張はしない、より抽象的なテーマ(ホラー、神話、ファンタジーなど)、または普遍的な人間ドラマである戦争、恋愛といったテーマを扱うバンドが多い印象ですが、ハードコアバンドはより明確な政治的、社会的な主張を持っていることが多い印象です。メタルコアバンドはハードコア由来の明確な主張を持っているバンドも多いですね。ヘブンシャルバーンは動物愛護、捕鯨反対など動物に関すること、また、ナチズム(白人至上主義)の明確な否定などをテーマにしています。全員ヴィーガン、菜食主義者であり、この辺りはハードコアのストレートエッジ的な思想を感じます。
なお「○○コア」とつく場合は、ボーカルスタイルが叫び声、ハードコアスタイルであることが特徴ですね。で、「メタル」とつくとギターリフがある、ギターパートがきちんと構築されているという印象です。で、「デスコア」や「グラインドコア」になると、ドラムの手数がどんどん増えていく、BPMが上がっていって音の塊感が増していく、という感じです。この辺りはサブジャンル名が明確に音の特長を表していると思います。
48.Avenged Sevenfold(2001年デビュー、US)/Mad Hatter(2018)
この年代のバンドの中でUSで最も人気があるバンドの一つがアヴェンジドセブンフォールド。略して書く時はA7X。デビュー当時はメタルコア、デスコア的な要素も持っていましたがだんだんとメロディアスなギターパートなど伝統的な欧州メタルを取り入れていき、ボーカルもハードコア的なスクリームはほぼ封印。一時期はドリームシアターを抜けた後のマイクポートノイをメンバーに迎えてプログレッシブメタル色を強めたり、新世代のUSメタルの中ではかなり面白い立ち位置にいるバンドです。新曲を2018年以降(この曲はゲームCall Of Duty4のために書き下ろされた曲)出していませんが2022年に新譜を出す計画があるらしく、間もなく新曲が出てくるでしょう。アルバムごとにけっこう色が変わるバンドなので、次はどんな音像になってくるのかも楽しみです。
49.Gojira(2001年デビュー、フランス)/Amazonia(2021)
フランスを代表するメタルバンド、ゴジラ。初期はデスメタルでしたがだんだんと音楽性を拡張し、他にないプログレッシブでユニークな音像に変化しています。フランス音楽のイメージとしてメロディが抒情的で独特のセンスがあるというか、やはりどこか洗練されていてオシャレですよね。80年代に「ヘヴィメタル」の音楽的様式が確立した後、90年代以降のメタルというのは他のジャンルの要素を何等かで取り入れるミクスチャーが主体になっているわけですが、フランスのアーティストはその取り入れる要素が芸術的、アートな要素が強い気がします。他にはブラックメタルに根差しながらも独自の音世界を築いているAlcestなどが著名。
ゴジラの特長はSF的な要素を取り入れているところ。最近、コズミックなテーマを取り入れるデスメタル由来のバンドが一定数いますね。宇宙の中の地球、といった視点も持っているからか環境問題に対する問題提起が多く、こちらの曲はアマゾンの環境破壊をやめるよう訴える曲です。
50.Mastodon(2002年デビュー、US)/Teardrinker(2021)
スラッジメタル、ストーナーメタルシーンから現れたマストドン。ブラックサバス直系のヘヴィかつ奇想天外な曲構成(急にテンポチェンジするとか)を持つものをドゥームメタルと言いますが、そのドゥームメタルにハードコアパンク的な要素を組み合わせたのがスラッジメタル。酩酊感を強めたものがストーナーメタルです。このストーナーメタルはUSメタルシーンの一大勢力で、他にはQueens Of Stone Ageが著名。ザックワイルドのBlack Label Societyも近い音楽性ですね。MetallicaもLoadやReload以降はストーナーロックの影響を取り入れています。USならではの広大な大陸を思わせる広々した音像が特徴。なかなか言葉で説明が難しいんですが、こういう音像って欧州にはほとんどないですね。この曲だけだとちょっとフィンランドのAmorphisにも近い、哀愁のメロディが耳に残る感じですが、アルバム全体を聴くとなんだかアメリカな感じ、荒野感があります。
51.Coheed And Cambria(2002年デビュー、US)/The Liar Club(2022)
コヒードアンドカンブリアは面白いバンドで、プログレッシブロックとメロコア(ポップパンク)を掛け合わせたような音楽性を持っています。カナダのRushと90年代以降のUSメロコアを混ぜたような。ボーカリストはハイトーン系で曲構成もカッチリしていますが歌メロがポップ。いわゆるプログレッシブロックに分類されますが娯楽性が高くて聞いていて楽しい。
とはいえアルバム自体は王道のコンセプトアルバムでとにかく壮大。今まで10枚のアルバムをリリースしていますが、そのうち9枚が「アモリーウォーズ」と呼ばれる一つの世界を描いており、SF的な設定を持った一つの世界の中でのいくつかのエピソードを描いています。コミック化もされており、世界観の作りこみは深く広い。
52.Ghost(2002年、Repugnantとしてデビュー)/Call Me Little Sunshine(2022)
今は北欧メタル勢の中でUSにおける最大の成功を収めつつあるゴースト。中心人物のトビアスフォージはもともとはリパグナントというデスメタルバンドで2002年にデビューしました。いくつかのバンドを経て2010年にゴーストとしてデビュー。独特なホラー風味あふれるメロディアスなロックで支持層を増やしてきました。
このバンドは音楽的な完成度の高さもさることながら、ビジュアルも良い。一つ一つのビジュアルやマーチャンダイズが作りこまれていてデザインとしてインパクトがあります。僕が個人的に最初に認知したのが人間椅子の鈴木研一がゴーストのTシャツを着ていて「なんだろうこのカッコいいデザインのバンドは」と思ったのがきっかけ。その後バンドを追っていたらダウンロードジャパンで来日し、その後USでも更なる大成功を収めました。80年代のメタル、ハードロック周辺の空気感や編曲を前面に出しながら北欧らしい流麗なメロディを持った曲が特徴。
53.Shinedown(2003年デビュー、US)/Planet Zero(2022)
グランジの正統な後継者というか、シアトルのグランジバンド達(特にPearl Jamとその前身のMother Love Bone)もそもそもUSハードロックの中から出てきた流れでした。そのUSハードロックの流れを2000年代に入って受け継ぎ、アップデートしたのがシャインダウン。いわゆるNuMetal的なミクスチャー要素、さまざまな他ジャンルの要素(ヒップホップ的なグルーブ感とか)も取り入れつつ、「現代のUSハードロック」を提示し続けているバンドです。ボーカルが上手い。
54.Evanescence(2003年デビュー、US)/Use My Voice(2020)
デビュー曲がリンキンパークに似ていたことから「リンキンパークの妹分」みたいな扱いもされたエヴァネッセンス。ただ、バンド全体の音楽性としてはあまりリンキンパークっぽさはありません。欧州的なゴシックやシンフォニックメタルの要素を取り入れたUSハードロックであり、ボーカルのエイミーリーは00年代のハードロックシーンにおける象徴的な歌姫。彼女の米国での大ヒットによって欧州のシンフォニックバンドたち(NightwishやWithin Temptation)がUSでも評価されるようになった側面があるかもしれません。今も最前線で活躍中。
55.Trivium(2003年デビュー、US)/The Phalanx(2021)
広島生まれの日系人、マシューキイチヒーフィーが率いるトリヴィウム。メタルコアバンドとしてデビューしながらもどんどん正統派というか欧州ヘヴィメタルの影響を取り入れ、重厚感を増しています。A7Xにも近い変化を辿っているバンド。ただ、より正統派HM色が強いバンドです。日本での知名度も高めな印象。80年代メタルから連綿と続く「しっかりとしたリフやギターワーク」に加えて、90年代のグランジとメロコアを通過したメタルコアならではの明快でアグレッションがある歌メロが乗り、そこにプログレッシブメタル的なテクニカルかつ複雑な曲展開が加わるという聴き処満載のバンド。
56.Epica(2003年デビュー、オランダ)/The Skelton Key(2021)
オランダメタルシーンの雄、エピカ。もともとゴシック要素のあるシンフォニックメタルバンドとしてデビューし、その後デスメタルやブラックメタルの影響を取り入れ、アラビックな要素も導入。音楽性を拡張していきます。フィンランドのNightwishとAmorphisを(1曲の中で)組み合わせたようなバンドとも言える。当然ながら非常にユニークな音像となり、デスメタル由来のグロウルボイスとシンフォニックなソプラノボイスによる美醜の対立、明確な場面展開が成されカタルシスをもたらします。
進撃の巨人は欧州でも人気で、どうもメタラーには特に親和性が高い様子。先日ロンドンで出会った南米から来たメタラーも進撃の巨人と鬼滅の刃が好きだと言っていました。日本漫画の世界観はメタラーを引き付けるものがあるのでしょう。このエピカも進撃の巨人のアニメ劇中歌をカバーしたアルバムを出しており、日本でもそれで知名度が上がったかも。メンバーが進撃の巨人ファンのようです。
57.Bullet For My Valentine(2005年デビュー、UK)/Knives(2021)
2005年はメタルバンドの当たり年です。新世代を牽引するバンドが次々と現れた1年。まず最初はこちら。ヘヴィメタル発祥の地ながら90年代後半以降なかなか新しいムーブメントが起きていなかったUKから現れた新星がバレットフォーマイバレンタインです。略称はBFMV。いわゆるメタルコアを中心としたサウンドですが、そこにメロディアスな歌メロのパートが差し込まれる、USのNuMetalに対するUKからの回答というか、さらに要素を抽出して別の音楽に変えたような音像。やっぱり曲調の展開の仕方、情報量の詰め込み方、歌メロのセンスがUSとは違います。もっと一つ一つが細かいというか、舞台劇のように目まぐるしく展開していく感じ。00年代のUKメタルコアシーンの幕を明けたバンドです。
58.Sabaton(2005年デビュー、スウェーデン)/Christmas Truce(2021)
2005年デビュー組第二弾。スウェーデンから現れ「ウォーメタル」というジャンルを確立したサバトン。スウェーデンのメタルシーンにおいて最も成功したバンドの一つであり、現在の北欧メタルシーンを牽引するバンドの一つ。自らの名を冠したSabaton Open Airというフェスも開催しています。音楽性的には従来のパワーメタル(Helloween、Blind Guardian、Dragonforceと並んでパワーメタル四天王とも言われている様子)をさらにコンパクトにし、3分~4分の中で強烈なドラマ性を提示することが特徴。プログレッシブメタルの要素も取り込みながら長大化しがちな傾向にあったパワーメタルに「コンパクト化」の流れという発想の転換を持ち込んだバンドです。この曲は彼らにしては珍しく8分を超える長大な曲。
59.Volbeat(2005年デビュー、デンマーク)/Shotgun Blues(2021)
「北欧メタル」の中ではかなり歴史があるデンマーク。Mercyful FateやPretty Maidsといった大御所はいましたが、久しぶりに表れた新世代を牽引するバンドがこのヴォルビートです。正統派HMにロカビリーのビートを取り入れ、50年代的なロックンロールのノリを取り入れたのが特異性。その要素を「曲中にちょっと取り入れる」だけでなく、バンド全体のノリとして取り入れているところがユニークです。借り物ではなく、完全に血肉となって取り込まれている。また、歌メロもやはり北欧的というか、欧州らしいきちんと作曲された流れるようなメロディを持っています。北欧メタルとロカビリーの融合という離れ業をやってのけたバンド。ちなみにデンマークもメタル大国であり、2010年からは大規模メタルフェスであるCopenhellも開催されています。欧州大規模メタルフェスだとWacken(ドイツ)、Graspop(ベルギー)、Copenhell(デンマーク)、Hellfest(フランス)、Download(UK)あたりが著名かつメタル色強め。
60.Powerwolf(2005年デビュー、ドイツ)/Dancing With The Dead(2021)
2005年デビュー組、最後はドイツのパワーウルフ。メイキャップをしたキャラクター性の強いビジュアルとドイツらしいメロディアスなパワーメタル。バンドメンバーは全員狼男の吸血鬼です。日本にもマンウィズアミッションというオオカミ男バンドがいますね。狼男界はバンドブームなのだろうか。Sabatonと同様にコンパクト化されたパワーメタルであり、ドラマが短時間に濃縮されています。Sabatonに比べるとメイクや世界観も相まってよりシンフォニックでゴシックな音像になっているのが特徴。欧州で大人気のバンド。Download UK 2022でもメインステージを張っていました。
61.Eluveitie(2006年デビュー、スイス)/Aidus(2022)
欧州フォークメタルシーンの中で大きな存在感を持っているのがスイスのエルヴェイティ。Epicaに近い男女ボーカル(グロウルとソプラノ)の対比スタイルですが、こちらは伝統楽器を用いていて、楽団構成としては伝統楽器の楽団に電化楽器を加えた構成なのが特徴。フォークメタルと言えば日本だとフィンランドのコルピクラーニの知名度が高いですが、欧州ではエルヴェイティの方が人気が高い印象です。コルピクラーニにせよフィントロールにせよ、ちょっとフィンランドのフォークメタルは独特な立ち位置・音像なんですよね。最初は選んでいたのですが「現代メタル史を代表するバンド」に入れるのは特異性が高すぎたので最終的にエルヴェイティをフォークメタルの代表として残しました。
こうした欧州の伝説と共に欧州伝統音楽を取り入れるバンド群は増えており、「フォークメタル」と括るにはあまりに多様化しています。たとえばメディーバルメタルというサブジャンルがあり、代表的なバンドはドイツのインエクストリーモ。メディーバルというのは中世という意味で、中世欧州音楽を伝統楽器で演奏するバンド。いわゆるオーケストラが演奏するクラシックよりも少し前の時代、ルネッサンス期より前の音楽です。バグパイプ、ハープ、ハーディガーディなど、大衆音楽であり舞踊音楽。そうしたものを現代にリバイバルするニューメディーバルミュージックと呼ばれるバンド群が欧州では一定の人気があり、たとえばリッチーブラックモアが率いているブラックモアズナイトもその系統ですね。ドイツでは他にファウン(Faun)も人気。いわゆる伝統音楽をメタルと組み合わせるフォークメタルの中でも、より伝統色が強いというか欧州で人気なのでメディーバルメタルと呼ばれます。このジャンルは日本ではあまり知名度がありませんが欧州では大人気で、これらのバンドは欧州メタルフェスではメインステージの常連。
後は、メタル色が薄いのと90年代バンドが多くなりすぎるので今回は割愛したのですが、ケルト音楽色が強いバンド、ケルティックパンクと呼ばれるジャンルも一定の人気を誇ります。USのフロッギングモリーやドロップキック・マーフィーズはよくメタルフェスで名前を見かけます。こういう欧州伝統音楽に根差したバンドたちがメタルフェスに出るのは欧州ならではですね。
62.Bring Me The Horizon(2006年デビュー、UK)/sTraNgeRs(2022)
BMFVの翌年、UKからデビューしたのがブリングミーザホライゾン。略称はBMTH。メタルコア、そしてメタルコアをより過激かつドラムの手数を増やしてBPMを速めたデスコア、グラインドコアと呼ばれる音楽性からスタートし、急激に音楽性を拡張。ニューウェーブ的な要素も取り入れています。このあたりの音楽性の変化はリンキンパークにも近いですね。2000年代中盤から盛り上がってきたUKメタルコアシーンがUSのNuMetalに呼応し、UKの感覚で進化させたものだとすれば、BMTHはシーンにおけるリンキンパーク的な立ち位置と言えるでしょう。ただ、音楽性の変化によって商業的な評価が上がっているのはリンキンと異なるところ。リンキンパークは最初の2枚が最も評価されましたが、BMTHは変化が市場に受け入れられリリースごとに評価が上がっています。次にどう変化するのか予測できず、変化するたびに新しいカッコよさを表現してくるので、今のUKで一番面白いバンドかも。
他にUKメタルコアシーンだとアーキテクツもトップバンドですが、彼らはハードコア要素が強いのと、このシーンから3バンド選ぶのは多すぎるので今回は割愛。00年代にデビューしたUKメタルコアバンド達が次世代のUKハードロックシーンを牽引していくでしょう。
63.Five Finger Death Punch(2007年デビュー、US)/Afterlife(2022)
いわゆるUSのNuMetalの中ではけっこう後発組ながら商業的には成功しているのがファイブフィンガーデスパンチ。略称はFFDP。音楽性的には今まで紹介してきたGodsmack、Disturbed、A7X、Triviumなどに近いですが、あまり欧州的な要素は感じずひたすらUS感があります。単純に曲がいい、歌メロが覚えやすくてカッコいい、つまりバンドとしての完成度が高いから人気があるのでしょう。UKでも人気のようで、Download UK 2022では出演しないにも関わらずFFDPのTシャツを着ている人をちらほら見かけました。正直、僕は最近人気のUSメタルバンドの一つで特別なバンドという印象はなかったのですが、Tシャツを着ている人たちを見て「(人気が)頭が一つ抜けたバンドなんだな」という印象に変わりました。聴きなおしてみると確かに完成度が高いバンドです。一聴して分かる明らかな新規性はないものの、90年代以降のアメリカのハードロック、NuMetal的なバンド群の要素を血肉としてうまくミックスしています。
64.Alestorm(2008年デビュー、UK:スコットランド)/P.A.R.T.Y.(2022)
UK、スコットランドが生んだパーティーメタルの雄、エイルストーム。いわゆるバイキングメタルなんですが、とにかく歌詞がひどい。酒を飲んで管を巻き、下卑た冗談を言う。その冗談をそのまま歌にしたようなものがほとんど。酒飲みメタルの系譜(たとえばドイツのTankardとか)とバイキングメタルの系譜を混ぜ合わせ、これ以上ないほどパーティー感あふれるサウンドに仕立てたのがエイルストームです。ナパームレコードがなんとなく「笑えるメタルレーベル」の印象があるのもエイルストーム(とNanowar Of Steel)の力が大きい。
ボーカルがまた下手というか、そこらへんの兄ちゃんが酔っぱらって歌っている感じなんですよ。もちろん下手ではないんですが、メタル界ってハイパーボーカリストが多い中で言えばいたった普通。特にハイトーンなわけでもグロールなわけでもありません。だけれど、彼が歌う歌に合わせてみんなが合唱するんですね。歌詞の浸透率がとにかく高い。フェス御用達の盛り上げ名人。
ちなみに中心人物(キーボード兼ボーカル)Christopher Bowesの作曲能力の高さは折り紙付きで、「歌が上手い人に歌わせてみた」サイドプロジェクトGloryhammerも同時並行で活動中。こちらはハイトーンボーカリストを擁した完成度の高いパワーメタル(だけどどこかパロディ感はある)を演奏していて人気を博しています。
65.Halestorm(2009年デビュー、US)/Back From The Dead(2021)
女性ボーカリストを擁するUSハードロック界の新星、ヘイルストーム。ちなみにエイルストームと1文字違いですが、まったく、なんの関係もありません。ボーカルのリジーヘイルはUSメタル界の歌姫でありアイコンの一人。ちょっとブルージーなボーカルスタイルで(80年代の)ホワイトスネイクに近いものを感じる場面も。彼女たちもホワイトスネイクのカバーを披露したりしています。欧州ではシンフォニック系を中心に女性ボーカルが増えていますが、USメタル界では女性ボーカルはまだ少なめ。こうした女性ボーカルのバンドだと先に紹介したエヴァネッセンスの他にはプリティレックレスもUSで人気があります。メタルからは外れますが(ギターリフがない!)、USの市場的にはアヴリルラヴィーンも同系統に入るのかも。
以上、00年代デビュー組20曲、20アーティストでした。00年代前半はUSでのNuMetalの隆盛、Linkin Parkによるピークが目立ちます。そしてUSではNuMetalの失速の後、メタルコアが主流になるものの商業的には一気に失速していく。それまで1000万枚規模で売れていたメガヒットが数十万枚で大ヒットとされるようになります。これはNapsterやMyspaceによって海賊版が普及し、CDの売上が減速していく時代背景もある。ストリーミングによる音楽業界の復調は2010年代なので、2000年代は音楽業界的には衰退し続けた10年です。
その中で、欧州では90年代に存在感を失いつつあったUKが復活の兆しを見せます。UKならではのメタルコアサウンドをのちに生み出すことになるBFMVやBMTHがデビュー、新世代のUKメタルサウンドを提示します。これによって欧州とUSで分断されつつあったメタル界が一つの接点を持った印象。メタルコア的な要素を取り入れる欧州バンドも増えていきます。
同時に、欧州ならではのメタルをより深化させ、欧州伝統音楽と結びつける、「自国(の音楽文化)ならでは」のアイデンティティを持ったバンド群も増えていきます。メタルの市場規模的には巨大且つ中心地であるUK、ドイツだけでなくスウェーデンを中心に北欧からもスターが次々と生まれシーンが活性化。オランダやスイスといった周辺国からもスターが生まれてきます。欧州には各国にメタルバンドが群雄割拠する状況に。
あと、NuMetalを一言で総括すると「ミクスチャー」と言うことになると思うのですが、ミクスチャーの特長って「既存のジャンルをリスペクトすること」なんですよね。これはそれまでのロック史は既存のものの否定というか、影響は受けているものの音楽スタイル的にはそのルールを壊す、違うものを産みだすことが多かった。一番分かりやすいのはパンクです。ところがミクスチャーはそうではなく、既存の音楽やアーティストをリスペクトしながら自分たちの音像を作り上げていく性質がある。だから(ミクスチャーの元ネタとなった)ベテラン勢の再評価、復権に繋がり、メタル/ハードロック界隈のベテランたちが今でもトップに君臨する、いわば伝統芸能的なピラミッド構造を築いた大きな要因なのだと思います。
さて次回はいよいよ最後の年代、10年代デビュー組です。こちらはまだヘッドライナークラスが少ないので10曲・10組の予定ですが、さらなるメタルの進化を感じる10組。お楽しみに!
それでは良いミュージックライフを。
おまけ
00年代のメタル以外のロックシーンの動き、また、音楽業界の動きについては下記の記事もどうぞ。
スターが続々と生まれ、頭角を現してきた北欧メタルシーン。こちらについてそれぞれの国別にまとめた記事はこちら。デンマーク以外の主要3国をまとめています。