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連載:メタル史 1984年⑧Celtic Frost / Morbid Tales

スイスのエクストリームメタルバンド、Celtic Frost。読み方は”セルティック・フロスト”が一般的ですが、メンバーは”ケルティック・フロスト”と発音している様子。Celticって「ケルト人の」という意味で、ケルティックともセルティックとも発音するようですね。グラスゴーにセルティックFCというサッカーチームもありますし、「セルティック」の方が一般的なのかな。本稿では通例にしたがいカタカナ表記する場合は「セルティック・フロスト」で統一します。

1984年のセルティックフロスト

さて、セルティックフロストは1984年6月に結成され、本作がデビューアルバム。前身はHellhammerというバンドで、1980年代初頭から活動していました。Hellhammerに在籍していたGt兼Voのトーマス・ガブリエル・フィッシャー(このバンドではトム・ウォリアーと名乗った)とベーシストのマーティン・エリック・エインがHellhammerを解散させた後に結成。なお、ノルウェーのブラックメタルシーンで著名なドラマーHellhammer(Mayhemでの活動が特に著名)はこのバンド名から名前をとっています。

本作の裏ジャケット
各メンバーが紹介されています
ただ、本作録音時はドラマーが不在で、たたいているのはセッションドラマー

ただ、Hellhammerは決して音楽的、商業的評価を得たバンドではありませんでした。セルティックフロストの音楽的元型ではあるものの、あまりに特異な上に粗削りだった。主にメディアからは酷評されます。たとえば「ミュージシャンが録音することを許された最もひどく、忌まわしく、残酷なもの」とか。この悪評からCeltic Frostも結成後しばらくはUKの音楽シーンからは無視されます。そんな悪評だったHellhammer時代の音源が下記。

あとから振り返れば現代のエクストリームメタル、アバンギャルドメタルの萌芽を感じさせる内容ですが、このデモがリリースされた1983年当時にこれに共感した人はほとんどいなかった。単純に聞き苦しく、音楽的な評価は得られませんでした。Hellhammerの名前が歴史に出てくるようになったのは一重にCeltic Frostでその音楽性をさらに進化・深化させて提示することに成功したからでしょう。Hellhammerを聞くとセルティックフロストはその結成時から異端・異形を目指していたことが分かります。

ただ、Hellhammerはかなり悪評を得ていたお陰でCeltic Frost結成当初、本作・次作(To Mega Therion)リリース後ぐらいまでは「元Hellhammer? じゃあダメだろ」みたいな酷評をされてブッキングなどを断られることもあったそう。中心人物2名が同じなので「名前が違っても同じバンド」だとみなされた。フィッシャーが当時を振り返って言うには「ヘルハマーの音楽的質の欠如は、フロストに対して偏見のない反応を得ることをほぼ不可能にした。長い話を短くすると、ヘルハマーは私たちの仕事と夢をほぼ破壊したのだ。」とのこと。どれだけ嫌われてたんだ。その嫌われ者っぷりにのちのMayhemの「Hellhammer」は惹かれたんでしょう。初期ノルウェジアンブラックメタルは「どれだけ普通の感覚の人から嫌われるか」みたいな競い合いをしていたところがあるし。

1983年のHellhammer
ほとんどセルティックフロストと同じ笑

セルティックフロストはデスメタルやブラックメタルの萌芽に大きな影響を与えたとされています。後期はゴシック、ドゥームにも。彼ら自身のルーツはBlack SabbathJudas PriestVenomなどの初期のメタルバンドだけでなく、BauhausSiouxsie and the BansheesChristian DeathJoy Divisionなどのニューウェーブ/ゴシックロックバンドにもあり、それが彼らの特異性、実験性や耽美・暗黒感を生んだと言えるでしょう。他にはDischargeGBHなどのハードコアパンクもルーツにあります。この辺りのハードコアパンクはスラッシュメタルの大きな源流の一つでもありますね。

本作はもともと6曲入りのEPとしてヨーロッパでリリースされましたが、後にアメリカでリリースされる際に2曲追加されLPとしてリリース。バンド自身も本作を「デビューアルバム」と位置付けています。LPでは8曲の表記でしたがCD化される際に1曲目「Into the Crypts of Rays」のイントロを「Human (Intro)」として分割。現在ストリーミングなどで配信されているのはこの9曲入りのバージョンですね。プロデューサーはTom Warrior, Martin Ain, Horst Müller, Karl Walterbach。トム・ウォリアー(Tom Warriot)とマーティン・アイン(Martin Ain)はバンドメンバーですね。Horst MüllerはNoise Recordのハウスプロデューサーでセルティックフロストの次作も担当。Karl WalterbachはNoise Recordの創業者にしてプロデューサーです。本作はヨーロッパではNoise Recordからのリリース。録音はドイツ、ベルリンのスタジオで行われました。

1984年ごろのNoise Recordのスタッフ
手前で座っているのがヴァルターバッハ

Noise Recordは日本だとHelloweenなどのジャーマンメタルの宝庫として知られていますが、もともとはKarl Walterbach(カール・ヴァルターバッハ)が持っていたAggressive Rock Produktionen (AGR)というレーベルでハードコア・パンク系(Black FlagとかMisfitsとかHüsker Düとか)をリリースしていました。そこからアンダーグランドメタルとつながるようになりメタル部門としてNoise Recordを創業。最初はスラッシュ系(KreatorTankardSabbatCoronerなど)を中心としたリリースで、だんだんとスタイルを広げHelloweenRunning WildCeltic FrostGrave DiggerVoivodRageなどをリリースします。ハードコアレーベルから派生したメタルレーベルという出自は面白いですね。既存にない音楽をリリースする気概を感じます。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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