メタルと伝統音楽、フォークメタルは進化している: THY CATAFALQUE / XII: A GYONYORU ALMOK EZUTAN JONNEK
Thy Catafalque(ザイ・カタファルク:意味は”汝の棺”)は、ハンガリーのマコーで結成された前衛的なメタルバンド。以前も取り上げたことがあります。
創作意欲が衰えないアーティストで、本作は12作目。2015年以降ほぼ1ー2年おきにアルバムを出しています。ディスクユニオンではアバンギャルドメタル(前衛的なメタル)とジャンル分けされているようですが、本作はかなり分かりやすい出来。聴きやすいし耳に馴染みます。過去作よりも分かりやすさを感じて、一皮剥けた印象。
各地の伝統音楽とメタル的なエクストリームな音楽表現を混ぜたものをフォークメタル※と呼ぶことがありますが、本作はハンガリー=東欧的な伝統音楽とエクストリームメタルの絶妙な融合。伝統音楽って基本的に分かりやすいんですよ。大衆音楽だし、ダンス音楽とか祭りの音楽ですからね。シンプルで耳に馴染みやすい。キャッチー、と言うのが「一度聞くと耳に残る印象的なフレーズ」だとすれば、伝統音楽はキャッチーさの宝庫だと思います。
本作はそんな「伝統音楽のキャッチーさ」がいい感じに出ていて、耳馴染みが良い。そこにしっかりエクストリームメタル的なエッジを加えつつ、過去作よりもメタルとしても伝統音楽としても強靭さが増したように思います。前半はプログレメタル的な激しい表現、隙間のない音圧が見られますが、今回個人的に気に入ったのは後半。かなり伝統音楽色が強い6曲目とか、アルバムの流れて聴いていくとハッとする面白さ。そこからちょっとデジタルっぽい7曲目への流れがいいですね。また、ちょっとラムシュタインっぽい10曲目もいい曲。この曲はMVもありますね。
激しいところはかなりエクストリームな音像なのでメタル系のリスナーが主に聞くアルバムだと思いますが、ワールドミュージック愛好者にもアピールするものがあると思います。当ブログはメタルとワールドミュージックを中心に聴いているブログなのでまさにツボ。
アーティストの試行錯誤、進化を感じられる素晴らしい芸術作品。メタルって基本的にそれほど商業的にも大規模なバントは少ないし、このアーティストはユニット名こそありますが実際はTamás Kátaiという人のソロプロジェクトなので、言ってみればシンガーソングライターでもある。1人の芸術家の作品という印象が強いです。快作。メタラーも東欧伝統音楽に興味がある方もぜひ聴いてみてください。各種ストリーミングサービスにありますし、Bandcampでも聴けます。静と動、伝統と先鋭の相互移動が醍醐味なので曲単位ではなく、52分42秒の体験として味わいたい作品。
余談。本作からはトルコの音楽にも近いものを感じます。歌詞はハンガリー語ですが、言葉の響きとかも似ているし。あと、ハンガリー語って日本語にも近い。語順が同じだし。後置詞や格語尾が名詞の後ろに置かれる後置詞型言語であり、日本語の格助詞(てにをは)と似ています。名前も苗字→名前なんですよね。語族としてはフィンランド語やエストニア語に近いようです。
ハンガリーの「ハン」ってフン族から来ているそう。フン族とはアッティラ大王(ゲルマン民族大移動の原因)で有名な遊牧民で、その末裔の一つがハンガリー(諸説あり)。ちなみにフィンランドの「フィン」もフン族から来ているという説もあるとか。
モンゴル帝国とフン族は文化的に近く(モンゴル語とハンガリー語は語族が違いますが)、これらの国はなんとなく日本にも近いものがあります。ハンガリーと言うと遠い気がしますが、実は日本と文化的類似性がけっこうある。個人的にフィンランドやモンゴルの音楽にどことなく馴染みを覚えるのですが、同じ感覚をハンガリー音楽に対しても覚えるので音程の好みとか音への感性に類似性があるのかも。
それでは良いミュージックライフを。
※なお、キャプテンによるとフォークメタルを笛メタル、蛇腹メタルと言うとも。分かりやすいネーミング(笑)