連載:メタル史 1982年④Kiss / Creatures of the Night
前作「Unmasked(1980、邦題=仮面の正体)」で「マスク(=メイク)」を取るぞと匂わせつつ結局メイクを取らなかったKISS。未公開映画のサントラ「The Elder(1981)」を挟みリリースされた1982年の本作が結果として最初のメイクアップ時代の最後のアルバムとなりました。1983年には素顔を出し、1983-1996は素顔のままで活動していくことになります。いわば「地獄、悪魔時代の最後のアルバム」が本作。
KISSはUSメタルの祖とも呼べるバンドで、Blue Öyster Cult、Alice Cooperらと共に70年代のUSの暗黒音楽、ホラーで地獄・悪魔的なイメージを作り上げてきたバンドです。彼らが商業的に成功を収めたのはライブ盤「Alive!(1975)」からで、スタジオ盤の代表作は「Destroyer(1976)」とされていますが、70年代後半にはだいぶ迷走。ディスコ調(結果として最大のヒットとはなったが)の「I Was Made for Lovin' You」などがメタル、ハードロックファンから不評で、続くUnmaskedもポップ路線で不評。本作は「今までで一番ヘヴィなKISSのレコードになる」という触れ込みでリリースされた作品です。
いろいろと逆風の中で作られたアルバムであり、当時のバンドを取り巻く環境は以下の通り。
・ずっと所属していたカサブランカレコードの創業者が亡くなり、KISSも自らの意思でレーベルを離れてフリーエージェントに
・前作でオリジナルドラマーのピータークリスが脱退し、次いで本作ではオリジナルギタリストのエースフレーリーが脱退(代わりにブルースキューリックがレコーディング終了後に加入)、フレーリーのクレジットはあるものの実質的にスタンレー、シモンズ、カーの3人で作った作品
・KISS自体がディスコやポップへの傾倒から「時代遅れのバンド」とみなされつつあり、起死回生の必要があった
・N.W.O.B.H.M.に端を発する「ヘヴィメタルブーム」に乗り損ねていて、ここでキャッチアップしたかった
こんな状況から、マネジメントやメンバーが減りつつも「最もヘヴィなアルバム」を作るというプレッシャーの中で生み出されたのが本作です。実はこのアルバム、RYMでは一番評価が高いんですよね。また、批評的にもかなり評価が高い。上述したような「ヘヴィメタルブーム」が起きつつあった時代の作品であり、「もっともヘヴィなアルバム」を作ろうという意識で作られたことが再評価の機運に繋がっているのかもしれません。KISSのラストツアーでも本作からの曲が多く演奏されていました。基本的にKISSのライブは70年代の曲がほとんどなのですが、80年代のアルバムの中では本作が一番ライブ演奏曲が多い。それはバンドメンバー自身本作を高く評価しているからだし、改めて聞くと名曲が多いアルバムだからでしょう。2022年に40周年を迎え、大規模なリイシューも行われました。
なお、本作は1985年に再発されており、その当時はノーメイク時代だったのでノーメイクの写真に差し替えられています。
現在、ストリーミング等ではオリジナルジャケットに戻っていますね。
KISSというバンドは大ヒットを多く持つバンドではなく、息が長いバンドなんですよね。30枚のゴールドディスクを持ち、これは米国のバンドの中でも最多の部類。ゴールドディスクは50万枚で認定されるので、たとえばエアロスミスとかボンジョビ、メタリカみたいな1000万枚超売れたモンスターアルバムは持っていません。けれど、コンスタントにずっと売れている。つまり、コアな一定のファン層をずっと抱えてきたバンド。コアなファン層はKISS ARMYと呼ばれ、コスプレをしてライブ会場に来るなど独自の文化を形成。なので、ディスコ調とかポップ調で一時的にヒットしても、旧来からのARMYに受け入れられないとバンド活動自体が厳しくなります。本作は決して一般的な大ヒットアルバムではないけれど、ARMYからは「KISSの復活」として好意的に受け止められた作品。
この後、(オリジナルメンバー4名のうち2名が脱退したことも影響して)素顔になり80年代、90年代を過ごしていくわけですが、96年にMTVアンプラグドへの出演をきっかけにオリジナルメンバーの4人が再結集。再びメイクアップし、地獄の軍団として再臨します。ここからはスタジオよりライブに活動の主軸が移りライブバンド、ヘヴィメタルサーカスとしてワールドツアーを回り続けたのがKISSというバンドでした。2023年をもってツアーからは引退。
2022年のDownload UKでKISSのライブを観たんですが、その前のBury TommorowというUSの若手メタルコアバンドがMCで「KISSがいなければ俺たちもいなかった、偉大なるルーツに敬意を!」と言っていたのが印象的でした。USメタル史における大いなるパイオニアであり、ヘヴィメタルライブを完成されたエンターテイメントに昇華して見せた偉大なエンターテイナーでした。
本作のプロデューサーはマイケル・ジェームス・ジャクソンとポール・スタンレー、ジーン・シモンズ。ジャクソンは80年代のKISSとの仕事が代表作で、次作Lick It Up(1983)も担当しています。レコーディングはLAとNYで行われました。KISSはNYのバンドなので、基本的に西海岸でのレコーディングが多く東海岸でのレコーディングは本作が初。1983年ごろから表に出てきますが、1982年はいわゆるLAメタルと呼ばれる「USの新世代Heavy Metal」がマグマのように地下に溜まっていた時期であり、そのLAの新しい活気、トレンドを取り入れようとしたのかもしれません。そういう意味では振り返ってみれば「LAメタルの先駆け」的な位置づけともとれる作品。録音中はその街で生活するわけなので、録音場所の影響って音にある程度出ますからね。
KISSはハードロック/メタル系ではデズモンドチャイルドを初めて起用して大ヒットを飛ばしたアーティストでもあり、こうした「トレンドを掴む力」は超一流です。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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