![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169986052/rectangle_large_type_2_27bc66196a9f61f5f01d1a2e0f588054.jpg?width=1200)
メタルは「男性的」なのか? Judas Priestのメタル史における立ち位置とロブハルフォードのセクシャリティ
炎 Vol.6はJP(Judas Priest)特集です。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169991322/picture_pc_9413c7120bb99b5c23e3ac9f5f5b9475.jpg?width=1200)
入手したので読みながらJP50年の歴史に思いを馳せていました。
2021年に、ロブハルフォードの自伝の日本語訳が出たんですよね。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169991735/picture_pc_d5dbb0078202e71a19f39f056c1ee4cc.jpg?width=1200)
この内容もなかなか衝撃的でした。いかにJudas Priestの歌詞世界(基本的に作詞とボーカルメロディはロブハルフォードが担当)がゲイ文化、自分自身のセクシャリティに関することをテーマにしていたかを赤裸々に語っている。
ロブハルフォードがゲイであることを告白したのが1998年、MTVのインタビューの中で。
この時のことについて炎 Vol.6で増田勇一さんと伊藤正則さんが触れていて。
「この時の告白はMTVとしても意図したものではなかった、セクシャリティの話になったら突然ロブが”ほとんどの人は俺がゲイだと言うことを知っていると思う”と告白し、驚いたディレクターがフリップを落としている」(増田氏)
「(まだロブがJPに戻る前のタイミングで)スウェーデンでグレンにインタビューしたとき、”なんであんなことを言ったんだろう、彼なりのプロモーションだと思う?”と聞いたら”そうなんだろうけど、なんでここにきてみんなわかってることを公表するんだろう”と言った」(伊藤氏)
みたいなことが書かれていました。なお、ロブ本人の自伝によると「ある時期まではばれていないと思っていた、隠さなければいけないと思っていた」様子。ただ、伊藤氏のロブ自伝の後書きなんかを読んでも「周りのメンバーには昔からバレバレだった」ということが分かるし、多分身近な人は知っていたと思うんですが、公的な事実としてゲイということが知られるのは98年。
これ、考えるとけっこうおもしろいなと思っていて、メタルは男性的な音楽だとされています。一般的なイメージとしてもそうだし、「男性ホルモン(テストステロン)値の高い人はハードロックやメタルを好む」という研究もあり。
これ、英語の論文の要約を日本語で書いたもののようですが、ちょっと訳は変ですね。「ソフトロックとメタル」ではなく「ハードロックとメタル」です。原文はこちら(ただ、一般公開されているのは一部)。
ここで大事なことは、「テストステロン値が高い(=男性的)男性は”荒々しい、反抗的な”音楽を好む」ということ。なので、かつて(1950年代以前)はジャズはクラシックに比べれば荒々しい音楽とされていたので「JAZZ=反抗的な男が聞くもの」だった、とか。それがある時期からハードロックやメタルなわけです。いずれにせよ、「男性的な、力を誇示するもの」として「強さ」「荒々しさ」「反抗心」を象徴する音楽がメタルである。
で、Netflixでメタルを扱ったコメディ映画、「目指せメタルロード」なる番組があります。
これはメタラーがオタクの男子を誘いメタルバンドを始めようとして、ベースメンバーが集まらないからチェロをやっている女子をオタクが誘う。でも、メタラーは「メタルバンドに女なんて! ゲイみたいだ!(←これが悪口として口癖)」と嫌がる。ただ、これは現代の話なので、そこで女子がメタラー男子の部屋に貼られているロブハルフォードのポスターを指さす、という風刺が効いてくるわけです。
いずれにせよ、マッチョが好まれた。ゲイが嫌われたというのはナヨナヨしているイメージがあるからでしょう(実際のゲイはマッチョもいればナヨナヨしている人もいる、性嗜好と体型は関係ないので「めちゃくちゃ男らしいゲイ」だって「全く外見からは分からないゲイ」いるはずです、なのであくまでイメージとしてのゲイ)。
でも、こうしたメタルのイメージを作り上げたのって、JPの存在、ひいてはロブハルフォードの存在ってかなり大きいんですよね。今、メタル史を書いていますが、本当に1970年代から1980年代前半にかけて、Judas PriestがUKのシーンにおける「Heavy Metal」の確立に果たした役割は大きい。
1978年、初来日当時のJudas Priestの服装は70年代ハードロック直結のヒラヒラした、王子様みたいなファッションでした(Black SabbathやLed Zeppelin、Deep Purpleも70年代はこんな格好だった)。来日時に日本のTVでも放映されています。
なお、この時は中野サンプラザでの公演だったそうですが、観客の7-8割ぐらいが女性。伊藤正則氏のインタビューでも、ロブが自伝の中でもそう書いています。「70年代後半、西洋のポップとロックは日本でブレイクし始めたばかりだった。この国では、こういう音楽は女子向け専門だと認識されていたから、観客の4分の3は女性だった。そして彼女たちは絶叫していた。(ロブハルフォード自伝 140Pより)」。これを見ると「男性的」とはとても言えませんね。この頃、ちょうどHeavy Metalという音楽の勃興期。Judas Priestの「エキサイター」は、Motörheadの「Overkill(1979リリース)」と並び、「Heavy Metalという音楽そのもの」の型を定義した重要な曲です。USにおいてもVan Halenが現れますが、いずれにせよ70年代ハードロックをさらに推し進める、一つ先の激しさ、速さ、強さ(Hard)を模索・体現した存在だった1978年のJudas Priest。
でも、この時点で面白いですよね。そうした存在なのに女性ファンが多かった。なお、その時のUKでは客層はほとんど男性だったそうです。人気が出てくるといわゆるグルーピーも増えていったようですが、基本的に男子、キッズが客層では多かった。女性客が大半を占めるのはこの時の日本だけ。これは面白いですね。別に「メタル=男性的」ではなく、「メタルは男性が聞くもの」というイメージから「男性的」とされているだけなのかも。「これは女性が聞くものだ」というイメージさえあれば女性ファンが増えるのでしょう。
書いていて思い出しましたが、似た経験を実際にしたことがあります。Sex Machingunsという日本のヘヴィメタルバンドがいて、ゑびす温泉(NHK BSのバンド発掘番組)に出て「みかんの唄」を演奏した。この曲が面白くて、「正統派ヘヴィメタルにコミカルな歌詞をのせて全力で演奏する(演奏は正統実力派)」というコンセプトが気に入って一時期ライブに通っていました。
最初は学園祭とかでやっていたんですがだんだん単独公演が増え、メジャーデビュー直前に確かオンエアイースト(今の渋谷Spotify O-East)でやったんですよね。で、その時の客層はほとんど女性。最初はそんなことなかったんですが、だんだん女性が増えた。なぜなら彼らが「ビジュアル系」のくくりに入れられたから。
音楽的には正統派メタルなんだけれど、「ビジュアル系」というくくりに入ったことで女性客が大半を占めるようになった。覚えているのが、髪が長い女性が多くて、ヘドバンするとめちゃくちゃ髪がバサバサするんですよね。みんな少しかがんで頭を振る。毛の長いじゅうたんがゆれるみたいな感じ。で、前後左右を囲まれると髪が顔に当たるは口に入るは、息がしづらいわけです。うわー、すげぇなと思った記憶が。最初は面白がってる男性ファンばっかりだったんですよ。だんだん女性が増えて行って、キャーキャー言われるようになった。1997-8年ごろの話。で、今のマシンガンズのライブは男性の方が多い(当時からの女性ファンと思しき方もそれなりにいる)ので、やっぱり「メタル=男性」というより「メタルという音楽は男性が聞くものだ」という印象の方が大きいんじゃないですかね。音楽的には正統派メタルも内包していたビジュアル系がどちらかと言えば女性ファンが多かったように(だから僕は90年代はあまりビジュアル系を聞けなかった)。
で、話をプリーストに戻すと、その後プリーストは1979年にレザーファッションを確立。いわゆる「全身レザーでバイクにまたがる鋼鉄神」のイメージですね。2回目の来日の時は今現在までつながるメタルゴッドのビジュアルイメージが完成した。
これ、もともとはSMクィーンのボンテージファッションなんですよね。ゲイ界隈の文化だった。だから、同時期(1978-1979)にフレディマーキュリーもこんなビジュアルをしています。フレディはすぐSMファッションからは離れたけれど、当時はQueen全員レザーを着ていますね。The Gameのジャケットなんかこの時期の撮影。
![](https://assets.st-note.com/img/1737595554-3oegk8SLGJOHDh6NURKIwYWZ.png?width=1200)
そしてプリーストはバイクもステージに乗り込みます。レザーファッションをSMだけでなくバイクと結び付けた。実際、バイカーファッションとしてもレザージャケットは使われますからね。転倒時の防具として厚手のレザージャケットは使われた。
![](https://assets.st-note.com/img/1737595653-dTam7y2rF5LtMGeW6XVADZNj.png)
こうしたレザーファッション、ホットパンツ(ピチッとしたパンツ)、バイクなどのイメージはこの後80年代のヘヴィメタルのイメージに多大な影響を与えます。プリーストだけがこうしたイメージを打ち出したわけではない(見たようにQueenもレザーを着ていたし、バイクのイメージはUSロックは1969年の映画イージーライダーの頃からあった)けれど、こうしたイメージを定着させた、あるいは貫き通して「レザーファッションのメタルバンド」と言えば真っ先に想起されるような存在とは言えるでしょう。この辺り、最初からゲイ文化を内包していた。
もともと、David BowieとかRoxy MusicとかJapanとか、UKにはアンドロギュノス(両性具有)的な、中世的な美形ロックスターの系譜というのがあります。だからプリーストもそうした括りで(特に1970年代の日本では)扱われたのかもしれません。その流れがGlam Metal(LAメタル)やヴィジュアル系、「化粧をして中性化したルックスの男性ハードロック/メタルバンド」に受け継がれていったんじゃないでしょうか。ロブはことさら女装はしていませんが、なんというか全身から醸し出す空気、雰囲気が何かあったのでしょう。
また、後にPRMCにやり玉にあげられるプリーストの名曲「Eat Me Alive」にしても完全にゲイの性的な歌詞なんですよね。本人が自伝の中で書いているから間違いない。これはBlow Jobの歌。
Wrapped tight around me like a second flesh hot skin
Cling to my body as the ecstasy begins
俺の周りにきつく巻き付く 熱い第二の肌のように
俺の体にまとわりつく エクスタシーの始まりとともに
後半には「the rod of steel injects(鋼鉄のさおが射出する)」なんてフレーズまで出てきます。確かに教育上悪い。PRMCの有害リストに載るわけが分かります笑。
なお、英国人(というかプリーストのメンバー)的にはこれはあからさまなゲイのプレイの歌であると同時に「笑えるユーモア」だったらしい。この歌詞を録音したとき”みんな腹がよじれるほど大笑いした”と自伝にあるんですよね。今でもAlestorm(お下劣な歌詞で有名なバイキングメタルのバンド)の歌詞とか読むと、英国バンドの下ネタ系の歌詞ってどぎついんですよね。こういうのが英国的な笑いのセンスなんでしょう。
いつの間にか「テストステロン値の高い男性が好む”攻撃的で男性的な音楽”」になったヘヴィメタルですが、こと日本においてはスタート地点は女性人気の方が高かったし、世界的に見てもその文化の根幹部分にゲイの文化、ゲイ特有の欲求不満が「孤独で満たされない欲望」という形で潜んでいる。それゆえに余計に「架空の男性的なもの」「強い欲求不満」があったのかもしれませんが、「男性的であろうとした」ことの根っこには「男性に性的に惹かれる気持ち」があったのは面白いですね。
Judas Priestは1980年代には米国に進出していく。そこでロブハルフォードは解放感を味わいます。彼らはイギリス、バーミンガム近辺の片田舎で生まれ育ったし、1951年生まれなのでかなり保守的な社会の中で過ごしていた。ゲイに対する風当たりというより「存在自体が可視化されていない、どう接したらいいかわからない、身近にもちろんカミングアウトしたゲイはいない」という中で育った。ロンドンに出てきても、やはり当時だとそこまでオープンではなかったようです。それがUSツアーするようになり、ゲイバーなど、「オープンなゲイの空間」があることに強い解放感を覚える。同時に、テキサスなど南部の保守的な地域ではゲイだというだけで猛烈に嫌悪感を抱かれる場合があることも理解していく。アメリカという国は広大で多様な分、さまざまな地域があるのですね。そうした中で、ロブハルフォードは自分がゲイであることをにおわせながらもアンドロギュノス、ロックスターの中性的なポーズなのか、あるいは本当のゲイなのか、そのあたりを曖昧なまま「ゲイとばれたらメタルコミュニティからはじき出されるのではないか」という恐怖とともに過ごす。
そして1998年、冒頭の告白に至るわけです。当時のロブハルフォードはJudas Priestを抜け、Fightも尻切れになったころ、何か「もう疲れた」のかもしれないし、「何か話題を作ってもう一度注目を集めたかった」のかもしれません。本人も「それが自然なことだと思った」としか書いていませんが、グランジムーブメントが終わり、ヘヴィメタルを過去のものにしたグランジすら過去のものになった時期です。様々なタイミングがあったのでしょう。
関連性はわかりませんが、1998年、ロブハルフォードがゲイであったと告白したあたりからメタル界に女性ボーカリストが増えたんですよね。この頃のロブはそこまで注目されていなかったというか、「過去の伝説の人」みたいな扱いではあったのでどこまで影響力があったのかわかりませんが(少なくともB!誌ではそれほどリアルタイムでは大きな扱いではなかった気がします、どう扱っていい話題なのかわからなかったのかもしれないけれど)、何かしら潮目が変わった気はする。KISSが素顔を出したように、ロブハルフォードというアンドロギュノスが初めて(より深い)パーソナルをさらした瞬間であり、それは彼が一つのアイコンであった「ヘヴィメタルという文化」に何らかの影響を与えた、というのはロマンティックな空想かもしれませんが、でも実際、Netflixの映画でも「ゲイみたいだ!」という悪口に対するカウンターとしてロブハルフォードが出てくる。「性別とか性嗜好なんて別にいいじゃん」という当たり前のことをヘヴィメタル界に再度もたらしたのはロブの告白だったのかもしれません。
1998年、Nightwishはセカンドアルバム「Oceanborn」で欧州で成功を収めます。
2000年にはArch Enemyがアンジェラ・ゴソウをボーカルに迎えます(これ、映像を見るまで新ボーカルは男性だと思われていた)。
僕は思い込みや偏見が嫌いです。「思い込みや偏見を持っている人」ではなく「思い込みや偏見そのもの」が嫌。自分自身、多くの思い込みや偏見を持っていて、それらに気づけないわけですね。なので、こうした「ああ、これって思い込みや偏見だったんだ」と気づかせてくれるエピソードが大好きです。
それでは良いミュージックライフを。