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56.オリエンタルメタルの先駆者 = Pentagram(Mezarkabul)

Pentagramは1986年にトルコ北西部の都市ブルサで結成され、1990年にデビューしました。1st「Pentagram(1990)」、2nd「TRAIL BRAZER(1992)」までは比較的欧米のスラッシュメタル/ハードコアバンドに近い音楽を奏でていましたがデビュー当時から演奏能力が高く、世界に通用するクオリティのアルバムを自主制作カセットとしてリリース。メタルバンドがほぼいなかった当時のトルコの中でメタルシーンと呼べるものを切り開いていきます。当時の音源も少しご紹介しましょう。まずは1990年リリースの1stアルバム「Pentagram」から、「Metal Not Dead」。ハードコア調に始まりながら、開放感がありやや中東的なメロディアスなパートへと変化する2分台の曲で、独自性を感じます。

続いて2nd「TRAIL BLAZER」から「Living on Lies」。トルコならではの独自性はまだ薄く欧米スラッシュの語法をなぞっていますが、音階に中東バンドとしての特異性の萌芽が見られます。このアルバムまでは全英語詩です。ちなみに「TRAIL BLAZER」というのは「通った道に目印をつける人、先駆者」という意味で、まさにトルコメタルシーンの先駆者たる矜持が伺えます。

ここから3rdアルバムリリースまで5年の月日が流れます。その間に自分たちの音楽を磨き直したのでしょう。3rdアルバム「ANATOLIA(1997)」では大胆にトルコ音階を取り入れ、初のトルコ語曲「gündüz gece」を収録するなど、「トルコのメタルバンド」としての音楽性を確立します。「ANATOLIA(アナトリア)」はトルコが位置するアナトリア半島のこと。タイトルからもトルコ色を感じます。「ANATOLIA」から2曲目の「 1000 in the Eastland」を。それまでの疾走感重視の楽曲ではなくAcceptなどの堂々たるパワーメタルを連想させるミドルテンポの楽曲で、トルコ音階をメタルに見事に融合させています。

少し話は脱線しますが、こうしたオリエンタルメタル(中近東メロディとメタルの融合)の成立過程において重要なバンドは2つあると思っています。一つはPentagram、もう一つは以前に取り上げたイスラエルのOrphand Landです。Orphand Landは1994年デビュー。デビュー作「SAHARA(1994)」と2ndアルバム「El Norra Alila(1996)」では、中近東音楽パートとメタルパート(初期はドゥーム色が強いメロディックデスメタル)がやや分離気味ではありましたが、伝統音階とメタルの融合を前面に打ち出した初のバンドでした。それらのアルバムが中近東メロディとメタルの融合の可能性を感じ、Pentagramにも影響と閃きを与えたのではないでしょうか。Orphand Landはミドルテンポの曲が多いですが、ミドルテンポでじっくり聞かせる曲と中東メロディは相性が良いことに気付く。それまで疾走系でスラッシュ/ハードコアからの影響が強かったPentagramも、重心が低いミドルテンポのパワーメタル的手法を取り入れ、楽曲に大胆にトルコ風のメロディを聴かせる方向性を模索し、それが3rdアルバム「ANATOLIA」での大幅な変身につながった気がします。

逆に、Orphand Landは1996年の2ndアルバムリリース後沈黙し、8年後にリリースした3rdアルバム「Mabool」では大きく音楽性を変え、中東メロディとメタルの融合度が高まり音楽的にも完成度が上がっています。前2作は「中近東伝統音楽パート」と「メタルパート」がけっこうはっきり分かれていて、メタルパートはそれほど特徴がありませんでしたが、「Mabool」からはボーカルラインにも中東メロディーが導入され、メタルパートに伝統音楽や伝統楽器が溶け込み、現在のOrphand Landに通じる洗練された音楽性となりました。これはその間にリリースされたPentagramの3枚のアルバム「ANATOLIA(1997)」、「Unspoken(2001)」「Bir(2002)」の影響を受けているように思います。この3枚でPentagramは中東音階とメタルならではのアグレッションをうまく融合させ、新たな音楽ジャンルとして昇華しました。オリエンタルメタルの歴史は、PentagramとOrphand Landの2バンドが相互に影響を与えあうことでリードし、開拓してきたと言えるでしょう。

この2バンドは古くから交流があり、カップリングツアーなども行っています。2013年のアルバム「All is One」リリース時にOrphand LandのボーカルKobi Fahriのインタビューがこちら(ドイツ語ですがご興味ある方はgoogle翻訳などを活用してお読みください)。Pentagramと関係ある箇所を抜き出すと、「All is One」はイスラエルのテルアビブとトルコのイスタンブールで録音され、トルコではPentagramと共にリリースライブを行ったそうです。「PENTAGRAM / MEZARKABULは(彼らのアルバム名)の通り、まさにトルコメタル界の先駆者(TRAIL BRAZER)だ」「彼らとOrphand Landは長年の交流がある精神の兄弟のような関係のバンドだ。彼らとトルコをツアーできることは本当に光栄だ」と語っています。また、「トルコは唯一メタルの演奏が許可されたイスラム圏の国だ」とも述べていますね。Orphand Landの記事でも取り上げた通り、イスラム圏ではメタル音楽は悪魔の音楽とされ、聞いているだけで罰せられることさえあります。そうした国でメタルバンドを結成する、メタル音楽に従事するというのはかなりの覚悟が必要です。トルコはトルコ革命による脱イスラム化政策で、メタル音楽に対する法的制約まではないものの元々はイスラム国なので社会的禁忌感、逆風は多分にあったことでしょう。PentagramとOrphand Landはそうした中東世界の中で、相互に影響を与えながら信念を持ってメタル音楽を広めた功労者でもあります。

話をPentagramに戻しましょう。3rdアルバム「ANATOLIA」で確かな手ごたえを感じたPentagramは勢いに乗って2枚分のマテリアルを録音。英語盤とトルコ語盤の2枚に分けてリリースします。それが「Unspoken(2001):英語盤」と「Bir(2002):トルコ語盤」です。「Unspoken」も歌詞は英語ですが「ANATOLIA」の延長上にあるトルコ音楽とメタル音楽を融合させる路線はさらに進化。音階だけでなく伝統楽器の音色も取り入れて新境地を魅せています。「Unspoken」の冒頭を飾る曲のライブ版をご紹介しましょう。

続いての「Bir」のタイトルトラックは冒頭で紹介しました。こちらは本来の魅力であるスラッシーな疾走感を持ちながらトルコ語、トルコ音階が自然に溶け込んだ佳曲です。印象的なギターリフはさまざまな若手ミュージシャンが「弾いてみた」動画をYouTubeにアップしています。

その後、2010年にボーカルが脱退するも新ボーカルを迎えて英語曲とトルコ語曲が混在するプログレ色強めの「MMXII(2012)」をリリース。2017年には過去の曲をアコースティックカバーした「Akustik(2017)」をリリースするなど、トルコメタルシーンのパイオニアとして順調な活動を続けています。ライブ映像やライブアルバムの歓声を聞くとライブの動員数は数千人規模で、フェスなどでは数万人の前で演奏するクラスのバンドです。最後に最新作「Akustik」から、3rdアルバム「ANATOLIA」に収められた彼らの最初のトルコ語曲「gündüz gece(昼と夜)」をお届けしましょう。

なお、Pentagramというメタルバンドは2つあり、一つは1970年代から活動するアメリカのドゥームメタルバンド。ロゴが違います。アメリカ版Pentagramのロゴはこちら。日本だとこちらのバンドの方が知名度が高いでしょう。

トルコのPentagramのロゴはこちら。また、バンド名の混在があるので、トルコ国内ではPentagramですが、国外リリース時はMezarkabulの名前を使っています。これはトルコ語で「死地を受け入れる(Accept Grave)」という意味だそう。この2つは別バンドで、音楽性も全然違うのでロゴで見分けると良いでしょう。

折角なので他にもトルコのメタルバンドをいくつか紹介しましょう。まずは先日のトルコ音楽の記事でも最後に取り上げたPitch Black Process。ゲストボーカルとしてHayko Cepkin(ハイコ・ジェプキン)をフューチャーしています。ジェプキンは1990年代から活動するベテランミュージシャンで、オルタナティブロック寄りの音楽を奏でています。アルバムや曲によってかなり音楽性に幅があり、伝統音楽からハードコアまでカバーしています。いわゆるメタルミュージシャンではありませんがテレビ出演なども多数あるトルコのロックミュージック界の顔役の一人です。

続いてはKara Han。まだ活動を始めたばかりの新しいバンドで、2019年にアルバム「At Avart Metal!」をリリース。おそらく1stアルバムと思われます。トルコ音楽よりはモンゴル音楽、中央アジア音楽の影響を強く感じる音楽性で、馬が駆けるリズムの曲も多く見られます。モンゴリアンメタルでもミッドテンポ主体のThe HUよりは馬駆けリズムの九宝などに近しいものを感じます。トルコはアジアと西洋がぶつかる場所でもあるので、中央アジア圏の音楽からも影響を受けていることが分かります。

maNgaは日本の「マンガ」がバンド名の由来。2001年結成で2004年デビュー。ゴリゴリのピュアメタルではなくオルタナティブロックやニューメタルに分類される音楽性で国民的人気を得て、2010年のユーロビジョンソングコンテストにトルコ代表として出場し、見事2位を獲得しています。欧州のフェスなどにも出場し、トルコのみならずヨーロッパ圏での人気も獲得しているバンドです。

Almoraはシンフォニックなフォークメタルバンドで、2001年から2008年まで活動。ここ10年ほどは活動の情報がありません。実質的にリーダー(ギター・キーボード・男声ボーカル)のSoner Canözerの一人プロジェクトで、2002年から2008年まで活発に活動し5枚のアルバムをリリース。質の高い音楽を聴かせてくれました。この曲は迫力があります。2003年のアルバム「Kalihora's Song」収録曲で、こちらは2007年の再録版です。

オリエンタルメタルシーンはPentgramとOrphand Landが先陣を切り、それに続くようにチュニジアのMyrathなど洗練された世界に通用するバンドが出始めています。中東音階そのものはLed Zeppelinによって70年代からロック音楽に取り入れられてきましたし、メタル界でもIRON MAIDENが6作目POWERSLAVE(1984)でエジプト音階を取り入れています。



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