見出し画像

20.異境へ誘う砂漠のブルース = TINARIWEN

TINARIWEN(ティナリウェン)は1979年にマリで結成されたサハラ砂漠のトゥアレグ族のバンドです。トゥアレグ族はタマシェク語という独自の言語を持っており、ティナリウェンはタマシェク語とフランス語を用いて歌詞を書いています。1979年から活動する歴史の長いバンドですが、2001年に初めてのCDをリリースし、アフリカ外へと活動の幅を広げます。2018年にはグラミー賞のワールドミュージック部門を受賞しました。

トゥアレグ族はアフリカの植民地化から独立に至る歴史の中で故郷を追われた砂漠の部族の一つです。それまで自由に行き来してきた土地が国境で隔てられ、古来の伝統や文化は大きく変容しました。現在も独立運動や紛争が続いており、解決されていません。TINARIWENが歌っているのは失われた過去への郷愁であり、解放への想いです。あまり曲展開せずじっくりと熱量を上げていくスタイルで、砂漠を吹き抜ける風のような乾いた抒情性を感じる音楽です。

カナダ在住のインド人シンガー、Kiran Ahluwaliaのアルバムにも客演しており、インド的な歌唱法と砂漠のブルースを掛け合わせたコラボレーションも行っています。カッワーリ―の大物歌手Nusrat Fateh Ali KhanのMustt Musttのカバーがこちら。

他にも異境の日常を感じさせる音楽をいくつか紹介しましょう。

YEMEN BLUSはイエメン系イスラエル人シンガーRavid Kalahani(ラヴィッド・カハラーニー)を中心としたバンドで、アメリカ人プロデューサーのビル・ラズウェルがプロデュースしたアルバムを出し、来日もしています。日常生活の中に息づく歌の強さを感じます。

Neta Elkayamはイスラエルのシンガーです。こちらも日常の風景の中から歌が始まっていきます。場を作り替えていく音楽の力がうまく表現されています。こうした皆が歌いだす文化は日本でも奄美大島の唄あしび(遊び)など、一部に残っていますね。

生活の中に多くの選択肢がある現代日本の都会では音楽の持つ力や一体感というものは日常生活とはやや切り離されたところにありますが、ところ変われば今でも色濃く生活の中に残っているのでしょう。音楽を通じてそうした異境へ思いを馳せるのも味わい深いものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?