連載:メタル史 1983年⑦Satan / Court in the Act
N.W.O.B.H.M.に乗り遅れたバンド、UKのSATAN。日本語表記は「サタン」と「セイタン」が混在していますが、「セイタン」の方が主流の様子。1979年に結成されたものの1980年のN.W.O.B.H.M.の隆興にはリアルタイムで乗れず、デビューアルバムである本作をリリースしたのは1983年、N.W.O.B.H.M.がピークアウトしたタイミングでした。むしろギリギリ間に合った、と表現するべきなのかもしれませんが。
N.W.O.B.H.M.の名盤と言われるものは数多あります。その中で当連載では序文に書いた通り、英語圏での評価を参考に取り上げるアルバムを決めています。本作はRYMで評価が高い。レビュー数2500弱、点数3.83と非常に多くの人がとても高い評価をしています。本稿執筆時点でのRYMの「NWOBHM」カテゴリのベスト10はこちら(出典)。
1.The Number of the Beast / Iron Maiden 3.92(23,269)
2.Iron Maiden / Iron Maiden 3.81(16,867)
3.Piece of Mind / Iron Maiden 3.81(15,400)
4.Lightning to the Nations / Diamond Head 3.85(3,896)
5.Court in the Act / Satan 3.83(2,417)
6.Pagan Altar / Pagan Altar 3.74(2,469)
7.Angel Witch/Angel Witch 3.74(3,476)
8.Killers / Iron Maiden 3.69(14,087)
9.Strong Arm of the Law / Saxon 3.71(2,426)
10.Welcome to Hell / Venom 3.64(5,618)
この10枚はすべて当連載で取り上げてきました。本作がN.W.O.B.H.M.ベスト10最後の1枚。この10枚のうちでもPagan Altarと並んで日本では知名度が低いアルバムでしょう。N.W.O.B.H.M.を掘っていってB級メタルマニアになってたどり着く名盤、的な。ただ、日本盤も何度か再発のタイミングで出ているので、それなりに愛されているアルバムではあります。
セイタンは1980年代にはまったく商業的には成功しませんでしたが、才能あるメンバーが集まっており、その後さまざまなバンドに移籍したり、セイタンを再始動させたりしながら活動を続けています。ボーカルのブライアン・ロスは同じくN.W.O.B.H.M.のBlitzkriegのメンバーでもあり、Blitzkriegはバンド名を冠したトラックをMetallicaがカバーしたことで一躍有名に。Creeping DeathのB面曲として披露され、最近でもライブで演奏しています。
また、ツインギターの片割れ、スティーブ・ラムゼイとベースのグレアム・イングリッシュはフォークメタル(各国の伝統音楽とメタルを融合させたサブジャンル)の先駆けと言われるSkycladを後に創設しますし、もう一人のギタリスト、ラス・ティッピンスは2010年代後半に「タイムスリップしたかのようなバンド」Tanithを結成し、マニアの喝さいを浴びます。SATAN本体としても活動を続けており、最新作「Songs in Crimson」が2024年9月にリリース予定。また、これだけ長いキャリアを持ちながら基本的にメンバーが同じなんですよね。途中何度か離散したり入れ替わりはあったものの、2010年代になってからは本作をリリースした1983年当時のラインナップで活動中。息が長いバンドです。その後のメンバーの活躍で本体の再評価が高まっていったバンド。
本作はオランダのロードランナーと契約され、UKではニートレコードからリリース。プロデューサーはYusman Osman "Stosh"で、SATANのアルバムプロデュース以外だとWARRIORというバンドを手掛けているようです。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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