連載:メタル史 1983年①Accept / Balls to the Wall
前作「Restless & Wild(1982)」が一定の商業的成功をおさめ(UKで98位にチャートイン)、波に乗っていたドイツのAcceptがリリースした作品。同郷の先輩であるScorpionsがBlackout(1982)でついに米国での本格的な成功をおさめたのも意識したのでしょう。前作からいろいろな点で変化が見られます。
まずはタイトルとジャケット。これ「Balls To The Wall」と言うと「ベルリンの壁を打ち砕く(大きな鉄の玉で壁を破壊する)」みたいなイメージを後年だと持ちがちですが、リリース当時はベルリンの壁は健在。このジャケットとタイトルはどちらかといえばゲイ文化ですね。「壁に(金)玉を打ち付ける」。Ballsというのはそういう意味もあります。他にも収録曲に「London Leatheboys」とか「Love Child」と言った曲があり、同性愛者を扱った内容とも取れる。この辺りもUSで話題になったようです。
Scorpionsって、後にベルリンの壁崩壊を歌った名バラード「Winds Of Change」の大ヒットによってドイツ音楽親善大使になり大人のバンドに成熟していきますが、少なくとも80年代はかなりお下劣というか性的なテーマが多いバンドでした。ジャケットは毎回物議を醸しだすものであり「Virgin Killer(1976)」なんかは発禁に。In Trance(1975)、Lovedrive(1979)、Animal Magnetism(1980)も性的なものを連想させるジャケットです。歌詞もラブソングやセクシャルなものが多い。メンバーの語学力の問題(全員ドイツ人で英語は母語ではない)もあったのか、平易な言い回しのものが多かった。
Acceptも歌詞を読んでみたら前作まで基本的に同じような内容だったのですが、本作で大きな変化が生まれたのは作詞にDeaffyことGaby Haukeが参加したこと。彼女はAcceptのマネージャーであり、前作から一部参加はしていたものの本作では全曲に参加しています。全曲、AcceptとDeaffyの合作。おそらく、Deaffyは英語が他のメンバーより堪能だったのでしょう。仕事で海外とのツアーの手配や契約を英語でしていたわけですから。歌詞はバンドやアルバムのコンセプト、イメージに関わります。本作で一気に洗練の度合いを高めたのは歌詞の内容が複雑さを増し、イメージが豊富になったことも一因です。
ゲイ文化っぽいものをジャケットに取り入れたのはJudas Priestの影響もあったでしょう。Acceptがそもそもメタル界で成功していったきっかけの一つに、1981年、 Judas PriestのPoint of Entry(1981)リリース時のツアー「World Wide Blitz Tour」の欧州でのサポートを行ったことが挙げられます(他にもSaxon、Def Leppard、Iron Maiden、Whitesnake、Joe Perryなどもサポートした豪華なツアー)。それもあってかAcceptはJudas Priestオマージュが多い。スピードメタルの元祖とも言える「Fast As A Shark」だって「Exciter」を更に推し進めたものとも言えるし、90年代の話ですがPainkillerが出たら、U.D.O.で「Timebomb」とまんまリスペクトした作品を出していましたからね。ずっとJudas Priestの変化を横目に自分たちの方向を決めていたバンド(特にウド・ダークシュナイダーがそうだったのかも)。
ゲイというかSM、ボンテージファッションのイメージはJudas Priestが強く打ち出していたものでした。当時、ロブハルフォードはゲイであることを公言はしていませんでしたが、アンドロギュノス的なイメージや同性愛的な歌詞、また、実際にツアーでサポートをすることで「同性愛的なイメージ」を打ち出していることは肌で感じ取れたのでしょう。そうした歌詞、コンセプトに至る要素までも(彼らの考える)Judas Priest的なものをついに歌詞やジャケットの面でも表現できたアルバム、と言えるかもしれません。
「Balls To The Wall」って、別にゲイ的な隠語だけでなく、「全力を出す」という意味もあるそう。パイロット用語で、エンジンレバーについた球(Balls)をめいっぱい押し込んで(To The Wall)最高速度を出す、というのが語源だそう。1982年当時からこうした意味で使われていたのかは分かりませんが、いずれにせよいくつもの意味に捉えられる複雑な言い回しです。直截的な言い回しが目立った前作までと比べて飛躍的な向上。
本作のプロデューサーも前作と引き続きバンド自身。古いつきあいであるマイケル・ワグナーはミキシングを担当しています。本作はUSで50万枚以上を売り上げ、Scorpionsに次いでUSで成功したドイツのバンドになることに。結果として本作がAcceptの最も売れたアルバムとなります。本作はAcceptにとって「USでの本格的な成功を掴みに行った勝負作」であり、その勝負に見事に勝った名作。作曲は全曲バンド名義で、前作レコーディング中に加入したハーマンフランク(リズムギター)も作曲面でもしっかり参加しています。
ちなみに最近はウドがBallsみたいな外見になってます。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
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