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WIPE OUT TOKYO(とがる、GOMESS、mizuirono_inu)@Spotify O-nest 2022/9/10

音源を聞いて気になっていたmizuirono_inuを観に行ってきました。渋谷Spotify O-nest。久しぶりに来た会場です。5階が受付で、そこから1階降りて4階が会場。こんな作りだったかなぁ。久しぶりすぎて思い出せない。

今日は3アーティスト、とがるGOMESSmizuirono_inuが出演します。mizuirono_inuの主催イベント。全部初見のアーティストです。

19時半、定刻を少し過ぎて1組目の”とがる”がスタート。

轟音シューゲイズバンドですね。シューゲイズというのはシュー(靴)を観ながら、つまり足元を見ながら演奏するから。大量のエフェクターを並べてギターノイズの壁、轟音のハーモニーを作るのがこのジャンルの特徴。大量のエフェクターを並べて足元を見ながら演奏する姿はまさにシューゲイズ。ボーカルはけっこうスクリームもはいっていてエモーショナルな感じ。歌メロはBump Of Chiken以降のJ-ROCKの文法も感じました。歌い方やたたずまいに藤原基央感があるのかな。MCや盛り上げ方はたどたどしい(というか、そういうのをやらないスタンスっぽい)ものの楽曲が良くて、後半2曲は聞き惚れました。スタンディングのライブって、だんだん足が疲れてくるじゃないですか。でも、いい曲を聞くとそういう身体的な欲求を忘れるんですよね。そういう瞬間が何曲もありました。そういう曲があるバンドはいいバンドだと僕は思っています。2022年7月22日にセカンドアルバム「これで最期」をリリースしたばかりだそう。ボーカルギター、ギター、ベース(女性)、ドラムの4人組。愛知出身のボーカルギター横山のソロプロジェクトで、ほかのメンバーはサポートメンバーのようです。


2組目はGOMESS。フリースタイルラッパー。曲の中で決まっている部分とフリースタイルで言葉を紡いでいく部分がある様子。

格好良くて存在感がありました。「10年、フリースタイルでやってきた」みたいなMCもあったのでけっこうベテランの様子。調べたら2012年、18歳(高校生)の時に「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」で準優勝して世に出たようです。高機能自閉症を公言しており、引きこもっていた子供時代にRAPを通じて再び社会との接点を持った様子。けっこう暗い曲の中にも明るさが合ったり、MCでコミカルな面があったり、ちょっとした危うさと明るさみたいなものがあったのはそういう背景を感じたのかもしれません。

ラップのスキルは高く、存在感もあったのだけれど少し惜しかったのはボーカルが小さいところ。今一つ何を言っているか、言葉が聞き取れなかったんですよね。ビートが強調されたアンビエント的なトラックに埋もれてしまうところがあった。言葉をもっとクリアに聞きたかったんですが、MVを観てもそんなに印象が変わらないので訥々とつぶやくような歌い方がスタイルなのかも。それでも最後の曲は心を持っていかれました。存在感の力。


そしていよいよトリ、mizuirono_inu。正直、アルバムを聞いても今一つよくわからないアーティストでした。ただ、とにかく衝撃を受けた。日本のアンダーグラウンドなハードコアテクノや音MAD、ナードコアと呼ばれるジャンルを人力でやってしまったような。大人数で女性コーラスがいる編成からはJAGATARAや面影ラッキーホール的な雰囲気も感じたり。でも、メッセージの方向性が違うというか、正直よく分からない。内面に閉じているような、一周して凄く外に対して(無防備に)開かれているような不思議な音楽。「これはライブを観てみないと分らんな」と思って見に来ました。

ライブ、すごかった。まずアルバムより洗練されていました。アルバム「TOKYO VIRUS LOVE STORY」はものすごく衝撃的だけれど、「衝撃を与えること」自体が目的化しているようなところがあって「ギョッとする言葉」が「ギョッとする音響」とともに出てきたりするんですね。日本語がわかるからよりダイレクトに刺さってくるんだと思うんですけど、そもそも音としてもびっくり箱みたいな、「驚かす音」が多い。なので、BGMに向かないし、ヘッドフォンなりスピーカーから大音量で流して向かい合う、的な、けっこう体力がいる録音物だという印象です。僕はそういう音楽が好きなんですけれど、そうそう気軽に聞けないアルバムというか。かといって、すべて破綻しているわけではなく(単に音響がめちゃくちゃなアルバムというだけならインディーズならたくさんある)、音楽的にはきちんと構築されていて聞き疲れるだけでなく感動する場面がある。だから「また聞きたくなる中毒性」がある。強烈な印象が残ったアルバムでした。

このジャケット通りの音、マジで

で、今回ライブを観た印象は思ったよりハードコアというか、ベースはハードコアやポストパンクサウンドなんだなと。激しいバンドサウンドにサンプリングの音やシンセが乗っている。ハードコアテクノ的な要素もあります。そのうえで寸劇的なボーカルパートと、感動的な合唱パートが交互に繰り返される。轟音なんですが、むしろ音響が一定化されていてライブの方が聞きやすい、より普遍性があると感じました。

あとは、バンドメンバーが7人。O-nestってそんなにステージが広くないので、その上に7人もいるとめちゃくちゃ情報量が多いんですね。本来は8人いるようですが女性コーラスがソロアルバム制作(出産のことをそう言っているらしい)のため一時休暇中。本来はもっと情報量が多いステージのようですが7人でもすでに過剰。また、一人一人のキャラが濃いんですよ。ボーカルの男性2人のルックスもキャラも声も濃いし。轟音のドラマ。

だけれど、そのドラマで描かれるシーンがよくわかりません。「ハイネケンあげゆ」みたいな寸劇が唐突に入るし、なんとなく闇を感じる、生きていく上のどうしようもないことの塊みたいなものを感じるのですが、歌詞を追って行っても抽象的というか思考がぶった切られる、安易な共感とかを寄せ付けない。いわば電気グルーヴのピエール瀧みたいな不条理性があるんですね。今回のイベントは3組とも多分孤独、自分の内面というか日々との闘いみたいなものを感じさせるという共通項があったんですが、mizuirono_inuの表現の仕方はすごく不思議。ハードコアのバンドって社会に対してわかりやすく訴えたりする印象もありますが、そういうストレートな表現ではないんですよね。そのあたりが音MAD感というか、「まったく違うものを無理やりくっつけた」ような感覚、古くはザッパであったり、言葉ならバロウズのカットアップみたいなコラージュ的な要素を感じます。すごく多重かつ多層で読み取ることを求められる、聞いていると混乱する音像。とにかく強烈。あと、全員かっこいい靴を履いていた。かっこいいって大事ですよね。

ライブに非日常や刺激そして伝説(へ…)を求める方にとって、東京で今観るべきライブアクトはmizuirono_inuと春ねむりだと思います。10年後には伝説になっていると思う。

今日のヘッダー画像は「都会の夜に酒を飲む水色の犬」というテーマで生成しました。今日はいいライブだった。セットリストをまとめたプレイリストがありました。Spotifyこういうことやってくれるんだ。ハコ持った意味を感じられていいですね。

それでは良いミュージックライフを。


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