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【メタル入門プレイリストシリーズ】2020年代USメタルシーンを知る10+10曲 若手バンド編①コア系

先日、下記の記事を書きました。

意外とページビューがあって、「ああ、興味が持たれているテーマなんだな」と再認識。だけれど、昔の下書きだったこともあってちょっと中途半端というか、記事内でも書いた通り『今回のリストは「90年代メタル」と「現代メタル」をつなぐような10曲』だった。具体的には90年代、00年代デビュー組が大半で、メタルコア系をほとんど取り上げていなかったんですね。フレッシュさより、連続性重視。

で、それだと「2020年代のUSメタルを知る」だと片手落ちだろう、と。もっと新しいバンドを中心に取り上げようと思い、この記事を書きます。

具体的には、「2010年以降にデビューし、現在20代~30代のメンバーが中心のUSメタルバンド」を中心に選んでみます。メタルコア系10組、それ以外(ややトラディショナルなメタルバンド)10組。2回に分けてお届けします。今日はメタルコア編10組。

00年代以降って、「メタルコア」というどちらかと言えばハードコア由来の比重が高いバンドが増えているんですよね。それが今の主流。「メタル」もなくなり「デスコア」とか、そういうサブジャンル名になっています。80年代のパワーコードのギターリフ、ギターソロ、、、要はブルース起点のハードロックとは断絶し、グルーヴメタルやNu Metalをそもそもの出典としているバンド。80年代、90年代のバンドが60年代、70年代にルーツを持っていたとしたら、2020年代のバンドは90年代、00年代にルーツがある、ということですね。なので音楽的には「次世代エクストリームミュージック」と言えると思います。ちょっと音の傾向が違うので「コア系」と「それ以外」に分けています。どういうことなのか、聞いていただければわかります。

それではどうぞ!


メタルコア系

1. Lorna Shore (ローナ・ショア)

ジャンル: デスコア
デビュー: 2010年
オススメ曲: “To the Hellfire” (2021)
→ 圧倒的なボーカルスキルとオーケストラ要素を取り入れたシンフォニック・デスコア。

静謐なアルペジオからスタート、この辺りは伝統的なメタルに近いですが、ボーカルのグロウル度合がモダンです。あとはドラムの連打の速さ、矢継ぎ早さ。そしてギターはリフというよりアンビエント、音空間を作り出しています。シューゲイズからの流れ。そしてリズムチェンジし、墜落するようなブレイクダウン。ブレイクダウンによるテンポチェンジ、遅くなるのはメタルコアの様式ですね。そしてコーラス。シンガロングなコーラスがしっかりあり、メロディアスなパートがあるのはメタル由来。全体としてはメタルの進化系です。一番近いのはシンフォニックブラックメタルか。この辺りの元型はメタル側だとCradle Of FilthとかEmperorなのかなぁ。激烈な音空間の中に切り込んでくるメロディアスなギターソロ(後半)などはMorbid Angel辺りも想起します。たぶん、参照元自体もメタルコアバンドなのかもしれないけれど。メタルからの系譜もしっかり感じる音像。

2. Spiritbox (スピリットボックス)

ジャンル: プログレッシブメタル / メタルコア
デビュー: 2017年
オススメ曲: “Holy Roller” (2020)
→ 女性ボーカルのCourtney LaPlanteがクリーンとグロウルを自在に操る。モダンで美しいメロディも魅力。

ブンブンうなるベースのフレーズが耳に残る曲。強烈な女性のグロウルがモダンですが、ビートや音像的には90年代~00年代グルーヴメタル、Nu Metalの影響を強く残していますね。ちなみに主要メンバーは夫婦(2016年結婚)で、このバンドにたどり着くまでも音楽活動を共にしていたパートナー。どこかコールセンターで働いていたのかな。このバンドでついに成功をつかみ音楽専業になった、はず。曲によってはクリーントーンも使い分け、ちょっとゴシックな感じ(Evanessence的な)もあったりします。音楽的に拡張中の面白いバンド。けっこうリズムには余白があります。

3. Shadow of Intent (シャドウ・オブ・インテント)

ジャンル: シンフォニック・デスコア
デビュー: 2014年
オススメ曲: “Melancholy” (2019)
→ ヘイローのゲームストーリーをテーマにしたバンド。荘厳なオーケストラと凶悪なデスコアサウンドが特徴。

荘厳なピアノのイントロからスタート、こういう耽美な世界観の描き方はどんどん進化していますね。上記したようにもともとゲームの世界を音楽で描くスタジオプロジェクト。そこからパーマネントなバンドに発展しました。なのでドラマの作り方がゲーム的というか、ゲーム音楽ってドラマティックですからね。イントロが長くて大仰。そこからかなり強めにゆがんだグロウルヴォイスで畳みかけるようなフレーズ。この高速感、ツーバス連打感はモダンですね。ただ、ギターフレーズなどはけっこう正統派というか欧州メタルの流れを汲んだツインリード、そしてコーラスもそれを追いかけてメロディアスです。北欧メロデスからの流れ、というべきかな。初期In FlameとかDark Tranquillityとかからの連続性があるかも。ただ、ビートがもっと強化されています。あと、ギターサウンドも滑らかでカラッとしている。

4. Brand of Sacrifice (ブランド・オブ・サクリファイス)

ジャンル: デスコア
デビュー: 2018年
オススメ曲: “Lifeblood” (2021)
→ 「ベルセルク」にインスパイアされたデスコア。超絶ブルータルなサウンドと電子音を融合。

ダウンビート、グルーヴィーなスタート。「ベルセルク」にインスパイアされたバンドですが、ベルセルク人気ですね。音楽性は違いますがフィンランドのBeast In Blackもデビューアルバムはベルセルク(Berserker)でした。こちらはダウンに、沈み込むようなビート。ノシノシと歩く、ちょっとヒップホップ、ラップメタルからの影響もあるビートなのかな。途中から激走するのと、ボーカルはずっと怒号ですが。緩急がしっかりついていて聞きやすいのと、声がキンキンせず中低音主体でなじみがいいですね。ブルージーな声とも言える。グロウルも人によってだいぶ違います。こういう倍音多めでかすれ気味のグロウルは中央アジアの喉笛的な響きでもありますね。2:50ぐらいからの高音との倍音はまさにホーメイ的な発声方法。その後クラシカルでシンフォニックなパートに。こういう「欧州クラシック音楽」的なメロディが入るとメタルの様式美を感じます。あと、ビートの編集感覚というか、そこまで目立ちませんがデジタルビート感があるのも特徴。

5. Wage War (ウェイジ・ウォー)

ジャンル: メタルコア
デビュー: 2010年
オススメ曲: “Manic” (2021)
→ ブレイクダウンとエモーショナルなメロディが絶妙に組み合わさったメタルコアの新星。

このバンドはUSハードロック好きにもアピールするかもしれませんね、クリーントーンには90年代オルタナティブメタルの流れを感じる。Kornとかの系譜かな。ボーカルの怒号の激しさ、緩急のつけ方の極端さ、また、静謐(ダウン)なパートもビートと歯切れが良いのが聞きやすい。曲自体は2:47と短く、短い中でかなりしっかり緩急があります。先ほどのSpritboxの紹介曲にも近い作りですね。リズムとともに「Manic!」のフレーズが耳に残るキャッチーさがあります。

6. Tallah (タラ)

ジャンル: ニュー・メタル / メタルコア
デビュー: 2018年
オススメ曲: “The Impressionist” (2021)
→ スリップノットを彷彿とさせるカオティックなニュー・メタルを現代的にアレンジ。

Djent的なピッキングハーモニクスが入っているものの、冒頭はギターリフからスタートする意外と王道Glam Metal的な流れをくむ曲構成。ボーカルもグロウル気味ですが、プリコーラス、コーラスはメロディアス。Glam Metalというか80年代中盤のThrash Metalですね。ちょうど取り上げたばかりのAnthraxとか近いかもしれない。ボーカルはグロウルが強めだし、ギターはもっとダウナーというか暴れるような音作りですが。途中でドラムソロ的なパートがあり、いろいろな鳴り物をカンカン鳴らしています。ベースも暴れているのでこの辺りはSlipknotの影響か。DJっぽい人もいますしね。ただ、パーカッシブな強さはやはりSlipknotには劣る分(メンバー数も違う)、こちらはメロディアスさというか、Thrash Metal感がありますね。そこが魅力。新世代の中に一部先祖返り要素がある感じ。

7. Signs of the Swarm (サインズ・オブ・ザ・スワーム)

ジャンル: スラミング・デスコア
デビュー: 2014年
オススメ曲: “Tower of Torsos” (2023)
→ 超低音のヴォーカルとブルータルなブレイクダウンが魅力。極限までヘヴィなサウンド。

うごめくようなノイズから強烈なダウンビートへ、ボーカルも一気に入ってきます。リズムがとぎれとぎれになりますね。ビートを細切れにしている、人力ブレイクビート感。今まで見てきたような「型」を壊そうというか、切り刻んでやろうという気概を感じます。この辺りはどこがルーツなのかなぁ。Bolt Throwerとかは連続性があるんだろうか。メタル史で取り上げる予定なのでまだたどり着いていないんですよね。90年代後半、00年代に出てきた音像から連続している感じはする。80年代との連続性はほとんど感じません。かなり苦めで刺激的な曲。歌メロはDeftonesとかにも近い感覚なのかな、容易に理解させない、というか。一番面白いのはビートですね。

8. Enterprise Earth (エンタープライズ・アース)

ジャンル: デスコア / メタルコア
デビュー: 2014年
オススメ曲: “He Exists” (2019)
→ テクニカルなギターリフと激しさを併せ持つバンド。デスコアとメタルコアの中間のようなスタイル。

飛び跳ねるギターリフとそれに乗るグロウルだが軽やかなボーカル、テクデス系ですね。カナダのArchispire的な。蜂のようにリフが飛び回り、ボーカルも囀り続けます。ボーカルがずっと連続してい余白がないな。一定の音圧で続いていく、音圧感を楽しむバンド。ボーカルの技量はけっこう高く、喉笛的なグロウルをずっと鳴らしています。ギターソロがけっこうフューチャーされていてここは80年代Thrash Metalからの連続性。歌メロにはメロディが排除されており、グルーヴと響きだけで勝負しています。ビター。同時期に「We Are Immortal」という曲をリリースしていてこちらの方が娯楽性は高いんですが(いろんな要素が入っている)、この曲の方が極端なので今回はこちら。

9. Kardashev (カルダシェフ)

ジャンル: プログレッシブ・デス・メタル / ポストメタル
デビュー: 2012年
オススメ曲: “Snow-Sleep” (2022)
→ メロディックでアンビエントな雰囲気を持ちつつ、デスメタルの要素も強い。

ちょっと耳休め。はじめて「コア」がサブジャンル名に付かないバンドですね。「コア系以外の10組」は次回やりますが、この曲も「コア」が付かない系。特にプログレメタルの影響もあるので少し幽玄な雰囲気です。ただ、モダン。UKのSleep Tokenが2023年に大きな話題となりましたが、近いものがあります。途中からしっかりグロウルと激走になりますが、そうだなぁ、PanopticonとかAgalloch辺りのUSフォークメタルバンドにも近いのかも。「フォーク」要素は弱いですが、長尺のドラマ性、緩急のつけ方なんかは根本は近い気がします。こちらはもっと娯楽性というかキャッチーさも追及している感じ。こういう「幽玄で緩急が強いドラマティックなデスメタル」をやらせても北欧とUSのバンドだと聴いていて得られる感覚が違うのが面白い。こちらも寒々とした音像なんですが、あまり氷雪は感じません。それよりは暗闇、夜を感じる。って、それは単にMVの色使いかもしれませんが笑 曲名からすると雪、冬的なものをイメージしているのでしょう。最後は樹氷も出てくるし、USのバンドによる北欧ブラックメタルオマージュ(映像はカナダなのかな)。ちなみにアリゾナ州(南部、砂漠あり)のバンド。Deathgaze(デスメタル+シューゲイズ)ともされています。

10. Veil of Maya (ヴェイル・オブ・マヤ)

ジャンル: プログレッシブ・メタルコア
デビュー: 2004年(ただし現在のスタイルに進化したのは2010年代以降)
オススメ曲: “Mikasa” (2015)
→ ジェントやメロディアスな要素を取り入れたテクニカルなメタルコア。

最後はベテランで締めましょう。流石の演奏力。激烈さを持ちつつもDjent的なギターながら90年代プログレッシブメタル色もある。ボーカルもクリーンパートとグロウルが混在し、ドラムとベースもコア的な要素があるけれどしっかりメタルというか抑制されています。暴れつつも理性的。歌メロの感じなんかは90年代、00年代との連続性を強く感じます。モダンだけれど少し古い感じ。モダンなメタルとプログレッシブメタルをつなぐ音像ですね。さまざまな要素のミックス度合が娯楽度高い。

以上、10バンド、10曲でした。このリストは、デスコア、メタルコア、プログレッシブメタル、ニュー・メタルなど幅広いジャンルを網羅しています。どれも2010年以降に結成され、比較的若い世代のメンバーが活躍するバンドです。特に Lorna ShoreSpiritbox は現在のUSメタルシーンを代表するバンド。Veil of Maya だけは 2004年結成ですが、2010年代に現在のプログレッシブ・メタルコア的なサウンドに変化しました。


以前、下記の記事を書きました。

この中で、『エクストリームメタルやメタルコアはいわば「めちゃくちゃ辛いカレー」や「苦いビール」みたいなもので、すでに愛好している人向けであり初心者向けではない。』と書いていて、基本的にこのスタンスだったんですが「いや、やっぱり2020年代を生きているなら2020年代のバンドが刺さる人もたくさんいるだろうな」と思い直しました。そんなわけで今日の20曲、ここから好きなバンドなり、あるいはメタルの扉が開くと幸いです。今回は特に「苦め」のバンド群。一応その中でも従来のメタルとの連続性があるバンドを選んだつもりです(たとえばChat PileとかKnocked Looseとかはハードコアより、メタル要素薄めなので今回は割愛、どちらも話題のバンドですが)。

次回は「コア」とつかないUS若手バンドを選んでみようと思います。

それでは良いミュージックライフを。

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