連載:メタル史 1983年⑩Heavy Load / Stronger than Evil
今回はスウェーデン、ストックホルムのバンドHeavy Loadの3rdであるStronger Than Hell。1990年代以降、メタルの中心地のひとつとして確固たる存在感を放つようになった北欧。いわゆる「北欧メタル」の黎明期は1980年代初頭です。その黎明期から活動するバンド。
1983年という年は北欧メタルが確立した年とも言えます。デンマークのMercyful Fateのデビュー、デンマーク人のラーズウルリッヒが在籍するMetallicaのデビュー、そしてスウェーデンからは名盤とされる本作がリリースされ、Yngwie Malmsteenが単身USに渡りSteelerに加入します。厳密にいえば結成はもっと古いし、デモアルバムなどは先にリリースされていますが、広く「北欧メタル」が認識されたのは1983年と言ってしまって良いでしょう。
スウェーデンのメタルシーンは最初に出てきたのがこのHeavy Load、そしてSilver Mountainが出て、(Silver Mountainのメンバーを引き抜いて)Yngwie Malmsteenがソロデビューする。そのあと、Europeが出てきて全米で成功を手にします。これが1983年から1986年にかけて起こったこと。すごい勢いでメタルシーンが発展していったわけですね。
そんな中、このHeavy Loadはデビューアルバムを1978年に出していてスウェーデンメタルシーンではまさにパイオニア。1stはあまりメタル感が確立されていませんが次作Death or Glory (1982)ではN.W.O.B.H.M.に影響を受けたメタリックなサウンドに変化。本作で個性を確立します。本作は日本盤も発売され、「邪悪の化身」というタイトルでした(ちなみに前作「Death Or Gloryも同時に日本盤が出てそちらのタイトルは「白夜伝説」)。
いわゆる「B級メタル」と言われることが多いですが、1983年、しかも自主制作版にしてはそれなりにレベルが高い作品。というか、ここまで当連載で取り上げてきたようなさまざまな自主制作版を聞いてきている方なら余裕で許容範囲でしょう。バンド自身が「Thunderroad Studio」というスタジオ兼レーベルを運営しており、基本的にホームスタジオのようで自分たちの作品のリリースが主ですがほかにVeni Domineというメタルバンドの作品も1980年代にはリリース。そうした「スウェーデンというメタルが根付いていない土地でDIYでアルバムを作ってリリースまでこぎつける」という突破力も含め、ストックホルムのメタルシーンの土台を作ったパイオニアの一つと言えます。バンドの中心人物はStyrbjörnとRagneのWahlquist兄弟。ヴァールクイスト兄弟と発音するようです。
サンダーロードスタジオはもともと1974年に自分たちのリハーサルスタジオとして設立されたホームスタジオで、そのあと1987年にはプロ仕様の24トラックのスタジオにアップデート。ただ、残念ながら2000年代に浸水でスタジオがダメになってしまいバンドは解散状態に。しかし再び復活しスタジオを再建、2023年には40年ぶりとなる4thアルバム「Riders of the Ancient Storm」をリリースして現在も活動中です。本当にこの時期にメタルを始めた人たちは息が長いバンドが多い! まぁ、メタルを演奏する人たちって基本的に演奏技術が高いし、デビュー時からいきなり売れた一部の例外的なバンドを除くと大資本(メジャーレーベルとか)のバックアップを受けられずに活動した経験を持っているから、手に職的な感覚で小規模ビジネスとしてバンドを続けやすいのでしょうね。よほど売れているバンド以外は副業だったり、あと、ベテランバンドが再始動するのはそれぞれ定年というか、ある程度普通の仕事で成果を上げて生活基盤の確立なり子育ての終了なり、そういうタイミングで音楽活動を再開しているベテランも多いイメージ。そうして生涯メタル音楽とかかわる人生っていいですね。Life Is Metal.
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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