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連載:メタル史 1984年⑥Scorpions / Love at First Sting
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蠍団ことドイツのScorpionsの2年ぶり、9作目のアルバム。前作「Blackout」で本格的にUSでの成功をおさめ、大物バンドの仲間入りを果たした蠍団の勢いを封じ込めることに成功したアルバムで、本作はUSで前作以上の成功を収めることになります。ビルボード最高位6位、今まで累計3プラチナム(RIAA基準で300万枚以上出荷)とバンド史上最大の成功作。なお、ビルボード最高位だけだと次作「Savege Amusument(1988)」で5位と更新しますが、累計売上だと本作がダントツ。Scorpionsが商業的にも批評的にも最高潮にあった時期の作品です。邦題は「禁断の刺青」。
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とのキャッチコピー
本作の印象的なジャケットを撮影したのはドイツ人写真家のヘルムート・ニュートン。サディズム、マゾヒズムとフェティシズムをともなったエロチックなスタイルを確立した写真家で、フランスのVogue誌などファッション誌を中心に活躍。1970年代から80年代後半にかけて挑発的な写真を生み出し、多くの物議を醸しました。女性の裸体を被写体にした写真はアートかポルノかの議論を生み、倒錯的な世界を構築。Scorpionsは毎回、物議を醸すジャケットを選びますね。
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Grace Jones and Dolph Lundgren, Los Angeles, 1985 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
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Crocodile, Wuppertal, 1983 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
過去もヒプノシス(Lovedrive、Animal Magnetism)やゴットフリート・ヘルンヴァイン(Blackout)など、著名または新進気鋭(当時)なデザイナーや写真家と組んできたScorpions。こうしたところはアート集団の色合いを感じます。不思議なバンドですよね。歌詞はシンプルというか、「いわゆるアリーナロック的な語彙」であってたとえばアイアンメイデンとかメタリカに比べると非常に直接的である意味稚拙、歌詞に深みはない。クラウスマイネが手掛けているので英語が母語出ないということもあるのかもしれないし、「ロックは小難しいことを歌うものではない」という信念があるのかもしれない(時々小難しい題材にも挑戦しますが)。そしてルックスはフロントマンであるボーカリストは小柄で薄毛だし。顔立ちはハンサムではあると思うし、カリスマ性はあるし歌手としては凄いけれど、じゃあ女性からキャーキャー言われるか、ラブソングを歌われてうれしいかと言われるとうーん、という感じ。1980年代、商業的に最盛期の頃は帽子かぶってないですからね。後に帽子をかぶってAC/DCスタイルになりますけど(Saxonのギタリストも同様→関連記事)。
ルックスだけ見ると濃いというか、、、独特。少なくとも「イケメン集団」ではないでしょう。だけれど、ライブがめっちゃタイトで「最強のライブバンド」とも呼ばれているんですよね。あれ、こうしてみるとAC/DCと共通点多いな。「ライブの評判が高い」「ボーカルが薄毛」「歌詞がシンプル」。
いや、実のところ、Scorpionsって「抒情性」とか「美しいバラード」みたいなイメージがありますけど、リズムの強靭さ、ノリがよいところが魅力の本質だと思います。AC/DCタイプのアーティスト。US、UKというロックの中心地ではなく、少し離れたドイツやオーストラリアから出てきているというのも似ている。だからちょっと「ロックスターそのもの」ではなく「ロックスターになろうとしている感」というか、少し距離を置いて「ロックスターというものを表現している」というか、そんな感じがします。特にScorpionsはこうしたジャケット面でのアーティストとのコラボが「アート集団」的な感じがして面白い。これ、Acceptも実は同様の傾向が少しあって(初期に在籍したギタリストのヤン・ケメックはのちに大学で教鞭をとり、デザイン会社を経営する)、当時のドイツというのは音楽とデザインや美術の距離が近かったのかもしれない。1980年代初頭のドイツはオイルショックのダメージもあり失業率が高く、「アートで食べていこう」という若者にはかなり厳しい社会だったと想像できます。アーティストは狭いコミュニティで、様々な才能が混交して交流していたのではないでしょうか。
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別人のようにカッコつけてます
そうしたコミュニティの中でScorpionsは別格というか、非常に巨大な存在であったことでしょう。世界的な成功を収めているアーティストはあらゆる分野で見てもドイツ国内で数えるほどしかいない。ちなみにクラウスマイネとルドルフシェンカーはともに1948年生まれなのでこの時点で36歳。商業的には遅咲きであった彼らはロック界の中でも年長の部類です。ちなみにオジーオズボーンとトニーアイオミも同い年。Black SabbathとScorpionsは同年代のバンドです。どちらもハードロックというか「メタル界」ではほぼ第一世代。最年長と思われるジョンロードが1941年、ロニージェイムスディオが1942年生まれなのでそこと比べると少し下ですが、「ハードロック/ヘヴィメタル」の黎明期である1970年の時点で22歳。すでに(デビューはしていないものの)バンド活動を始めています。デビューは1972年、24歳の時。なので、1980年代に20代でデビューするバンドに比べると経験値がかなり高い。ドイツのロック音楽シーンの中では重鎮かつ長老的な立ち位置だったでしょう。
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この親しみやすさこそスコーピオンズ
本作は最大の成功を収めたアルバムだけあり、ライブの定番曲や代表曲を多く含んだアルバム。ライブのハイライト「Rock You Like a Hurricane」、Scorpionsのバラードと言えば名前が挙がる「Still Loving You」、印象的な「Big City Nights」などを収録。プロデューサーは前作から引き続いてディーターディルクスです。1975年の「In Trance」からの付き合い。80年代Scorpions躍進の重要な役割を担ったプロデューサーです。
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別バージョン(レコード内側のアーティスト写真を転用したジャケット)もリリース
こちらはそのバージョンのジャケット
Scorpionsを当連載で取り上げるのはこれが最後なのでこの後のことも触れておきましょう。本作リリース後、大々的なワールドツアーを開催しその様子を2枚組ライブアルバム「World Wide Live」でリリース。最強のライブバンドとも言われた名に恥じないタイトなライブ盤でこちらも大ヒットを収めます。ただ、次作Savege Amusument(1988)はややマンネリとされ批評的には低評価に。ジャケットも有名アーティストとコラボしていないので、うまくいろいろなものがかみ合わなかったのでしょうか。一定の商業的評価を収めるものの評価が低かったためか長年続いたディルクスのプロデュースを解消し、USの売れっ子プロデューサーであったキース・オルセンを起用、「Crazy World(1990)」をリリースします。あと、クラウスマイネは帽子を被り始めます。このアルバムに収められたバラード、「Wind Of Change」がベルリンの壁崩壊のテーマソングのようになり、世界中で知名度を得ます。そして1991年にはゴルバチョフに会うなど、政治的にもドイツ親善大使的な役割を果たすようになり、ドイツの国民的バンドとなっていく。ハードロック界の重鎮として現在も活躍中です。
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帽子を被ったスタイルに変化
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
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メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
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