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連載:メタル史 1985年③Pentagram / Pentagram (Relentless) 情報編

ドゥームメタル四天王の1角、US、バージニア州出身のPentagram。実は四天王の中で一番古いバンドで、最初の結成は1971年。まだ「Heavy Metal」という単語が出るか出ないかぐらいの頃で、当然音楽ジャンルとしては確立していません。当時は「Heavy Rock」とか「Hard Rock」ですね。そんな時代から活動しています。当時はBlack SabbathLed Zeppelin等UKハードロック勢が悪魔的、黒魔術的なイメージを打ち出していたころ。KISS以前です(KISSの結成は1973年)。Alice Cooperはすでに活動していますね。

その頃に悪魔的、黒魔術的、後に「Heavy Metal」と呼ばれる音楽のイメージをコンセプトに掲げて「Pentagram(五芒星)」というバンド名に。その後いくつもバンド名は変遷しますが("Macabre"、"Virgin Death"、"Wicked Angel"など、どれもそれっぽい)、結局Pentagramに落ち着きます。

1971-1974のころのPentagram

「ペンタグラム」という言葉について。よく聴く言葉ですが古代ギリシャ語の「pente(五)」と「gramma(文字、線)」に由来。 元々は五角形の星を描いた形を指し、古代エジプトやギリシャでは魔法や霊的な力を持つシンボルとして使われていました。 この形は、バランスや調和を象徴し、また強い防御力を表すとしても広く知られています。普通の☆は神を表しますが、逆五芒星は悪魔を表す。このジャケットは逆五芒星、つまり悪魔のシンボルですね。

バンドの結成当時から現在まで変わらぬボーカリストであり中心人物がボビー・リーブリングです。結局、本作がデビューアルバムであり結成から14年たってようやくデビューにこぎつけるのですが、活動期間が長い分それまでのバンドメンバーはそうそうたる面々。1970年代初頭から活動しているUSのヘヴィロックバンド自体が貴重で、ワシントンDCのロックジャーナリストたちが大勢マネージャーとして関わったり、、1975年にはサンディ・パールマンとマレー・クルーグマン(ブルー・オイスター・カルトのプロデューサー兼マネージャー)がリハーサルに訪れ、その後録音まで進んでいます。この頃、レーベルの重役やKISSのメンバーの前でも演奏したらしい。この時にデビューの話が進んでいたと思われますが、リーブリングが逮捕(麻薬関連らしい)。Pentagramのバンド名の権利をリーブリングが持っていたため結局話が立ち消えになります。リーブリングは10代のころからプロとして活動し、ある意味界隈では有名人というか、世代的に「元祖ヒッピー」的な人。まさにSex Drug & Rock’nRollを体現していたような存在でした。

VoのBobby Liebling
濃い

初期Pentagramのもう一人の中心人物がギタリストのVictor Griffin。グリフィンは脱退と参加を繰り返しながらずっとPentagramに関わっています。

リーブリング(左)とグリフィン(右)

リーブリングはずっと変わらぬ「ロックスター」な存在で、2011年には彼の半生を描いた映画「Last Days Here」が公開されます。

この映画は数年にわたって撮影されたのですが、撮影開始当時、リーブリングはある意味忘れ去られた存在でした。Pentagramは続けていたもののパッとしない。Anvilの映画も話題になりましたが、同じ感じ。Pentagramは基本的にずっとアンダーグラウンドな存在です。1970年代、数々のロックの伝説と同じ時代から活動しながらスポットライトを浴びることなかったリーブリング。しかし、この映画撮影中にPentagramは地下室のテープから再発見され、少しづつ再評価の機運が高まっていきます。そしてリーブリングはドラッグをやめて更生を目指す。数年間にわたるドキュメンタリーです。そして50代後半の時、20代の女性と結婚し、父になる(妊娠する)ところで映画が終わる。あるロックスターを目指した若者の半生を描いた物語。この映画によってもPentagramは新たなファン層を獲得します。ちなみにこの後、2017年に今度はDVで逮捕されるのでリーブリングはつくづく変わらない人なんだと思いますが。

なお、Pentgramは再度の逮捕も乗り越えて2019年に再始動。2025年、つまり今年にはいって10年ぶりの新譜を出しています。不死鳥。

2025年のPentagram、中心の白髪がリーブリング
リーブリング以外のメンバーはすべて2024年に加入

本作は彼らのデビューアルバムで、最初は「Pentagram」というバンド名と同名のアルバムとして、自分たちのレーベルから自主制作盤としてリリースされました。

オリジナルジャケット

アルバムはもともと1981年と1982年に2回の別々のレコーディングセッションで録音され、1982年にDeath Rowというバンド名(当時はそう名乗っていた)で「All Your Sinsデモテープ」としてリリースされました。バンドは1984年に一部のボーカルとギターパートを再録音することを決定し、自主リリースのデビューアルバム用に完全に新しいミックスを作成。それが本作の元「Pentagram」です。

その後、 1993年にPeaceville Recordsによって新しいタイトルと並べ替えられたトラックリストで再発行されました。この時のタイトルが「Relentless」です。現在では「Relentless」と呼ばれることの方が多い様子。なお、この再発時にオリジナルの1982ミックスに差し戻されています。基本的に、今ストリーミングなどで聞けるのはこちらのバージョンですね。今回レビューするのもこちら。「Pentagram」とは曲順とミックスが異なります。そんなわけで本作のレコーディングは1981,1982,1984の3つのタイミングにまたがり、現在聞けるバージョンは1981,1982に基づいたものですね。

プロデューサーはリーブリング、グリフィンとTim Kidwellという人。この人はPentagramの初期2枚でしか名前を見ないので、バンドの知人か、ローカルなスタジオのエンジニアでしょう。1970年代からUSのロックシーンの中で生きてきた彼らが、10年以上のライブ活動で培ったレパートリーを収めたデビュー作。それが本作です。

なお、トルコのメタルシーンのパイオニアもPentagramという名前ですが同名なだけで関係はありません。彼らはバンド名が被らないようトルコ以外では「Mezarkabul(トルコ語で墓掘り人)」という名前で活動していましたが、今のストリーミングサービスだとPentagramで検索するとどちらも出てきますね。少し紛らわしい。ロゴが違います。トルコの方のロゴは下記。

トルコのPentagram

今回取り上げたUSのPentagramも複数ロゴがあるので紛らわしいのですが、基本的には下記です。

USのPentagram

ストリーミング、検索等で両方出てきたらロゴで見分けましょう。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。



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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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