
エッセイ「消えた指の跡」(2025)

僕は2021年から4年間、プログラミング教室を運営している。
2025年2月15日(土)の夜、バレンタインデーの翌日。仕事の最中に、愛用していたメカニカルキーボードが壊れた。リチウムイオンバッテリーの消耗が原因だろう。何時間も充電してみたが、まったく反応しない。
あの音、あの手触りが、もう二度と戻らないと思うと、胸の奥がぽっかりと空いたような気がした。 それからしばらく、キーボードなしでプログラミング教室を運営していた。少し不便だったが、仕方がない。
しかし、ある日、自宅のデスクに折りたたみキーボードがあることを思い出した。急いで取り出し、教室で使い始める。頼りない道具だったが、不思議と問題なく機能している。まるで、ただ何かを繋ぎとめるための手段のように。

今、僕はおそらく日本で一番小さなキーボードでプログラミング教室を運営している。キーボードひとつで、教室の空気が変わることを実感する。

白いメカニカルキーボードが壊れたのは、ただの故障にすぎないのかもしれない。けれど、それがどれほど大切だったのか、失って初めて気づいた。