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グレゴール・ラッシェン「自然詩 7」解説+紹介

Gregor Laschen
Naturgedicht 7

数世紀
以前に書き写され
書き上げられた六つの別々の森、
ごく幼い時からドイツ的で、
土地土地で種類が違う。自然詩は
私たちよりも以前に自然詩について
書かれた最後のテクストで、
かつて木々がまだあったときには犯罪だと
思われていた
ことの詩の中から木々を
調査
する
もの
だ。

Ab- und aus-
geschrieben epochenlang
die sechs anderen Wälder vorher, deutsche
Metapher von Kindesbeinen an, Gattung
aus Gründen. Das Naturgedicht
ist der letzte Text über die
Naturgedichte lange vor uns, hölzerne Suche
nach Bäumen in Gedichten
über was man
für ein Verbrechen hielt, als
es
noch
Bäume
gab.

◆解説
 作者のグレゴール・ラッシェンは、1941年生まれのドイツの詩人・編集者であり、2018年に亡くなっている。「自然詩7」は1983年に出版された『もう一つの雲の歴史』に収録された詩であり、おそらくラッシェンの詩で最も有名なものの一つである。とはいえ彼は詩人としてよりは、むしろ編集者として知られているという側面が強く、「芸術家の家・エーデンコーベン」と「アルプ美術館財団」が主催する「隣人の詩―詩人が詩人を翻訳する(Poesie der Nachbarn – Dichter übersetzen Dichter)」プロジェクトに携わり、長年リーダーを務めていたようである。したがってラッシェンは、ヨーロッパ各国語の詩をドイツに紹介する、という役割を果たした人物であると言えよう。
 また、Wikiには戦後ドイツを牽引した文学者集団である「47年グループ」の会合にも参加していたとあるが、手持ちの資料では確認できなかった。ともあれラッシェンが参加したのは1967年ということであるなら、それは「47年グループ」の最後の会合であり、すなわち前年にハントケがプリンストンでの会合で物議を醸した後であり、特に印象が残っていないのであろう。

ともあれ、この詩について解説しておくと、これはブレヒトの有名な「後から生まれてくるものへ」に出て来る「木々についての対話」をトリビュートした詩のうちの一つ。ブレヒトにおいては、木々についての対話は次のように語られている。

Was sind das für Zeiten, wo
Ein Gespräch über Bäume fast ein Verbrechen ist
Weil es ein Schweigen über so viele Untaten einschließt!

なんという時代だ、いま
木々についての対話がほとんど犯罪同然である
というのもそれは多くの悪行について沈黙を決め込むことだからだ!

「木々についての対話」を行うことは、最もどうでもいいことについて話すことで、現在まかり通っている悪行については話さないと決め込むことの裏返しである。それをラッシェンは、自然詩というジャンルへ読みかえるという換骨奪胎を図っている。とはいえこうした潮流自体は70年代以後の西ドイツにおいて現れ始めていたエコロジー運動と軌を一にするものであった。また他方、単語を詩行から解放し、自由に―とはいえ視覚的な効果を狙って―配列する「具体詩(コンクレート・ポエジー)」の手法もこの詩では見られる。実際、この詩は全体として見れば一本の木の半身に見える。こうした二つの流れを組み合わせた詩として、ラッシェンの「自然詩 7」は有名なのだろう。

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