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マックの物語(2)

 マックが何のためらいもなく
慣れた手つきでヘッドフォンをかぶり、
パソコンを操作し始めたのは意外だった。

 「本当はパソコン得意なんだろう!」
「まあ・・・・」相変わらず味も素っ気もない。
しかし、今度は少し笑っていた。
何だ前向きなところもあるじゃん。

 立ち上げたあと、高速ソフトの使い方、
データーの見方など基本を教えた。マックは少し
調子にのって積極的にパソコンをいじりだしたが
何度も失敗して、また消極的になってしまった。

 調子が出てくれば勢いに乗るタイプ?
昔何かの失敗でそれがトラウマになっているのかな?
勝手にマックの中学生活を想像した。

 マックは20分程度の読書を体験した、
お母さんは「どう?楽しい?やってみる?」
と何度も聞いていた。入室させるのを
決めてここに来ているのだろう。

 読後記録は「菊次郎とさき」作者ビートたけし、
25ページ、1倍速、読書時間20分、と本人が書いた。
感想は1行でもいいからと言ったが、
結局白紙のまま机に用紙を置いた。
その間マックは終始うつむいている。

 「お母さん、これは本人がやる気にならないと
楽しくもないし。役にも立ちません。
だから、本人にその気がなければ無理には
入れないでください」半分本音、

半分は立ち直らせてみたいという想い。
でも無理して入室しても長くは続かない。

 「楽しい・・・」ポツリとマックが言った。
本当かよ?だったらもっと楽しそうに言えよ。
でも本当に楽しかったのか?!確かに集中は
していた。

 「それではお母さん本人と家に帰って
よく話し合って検討してみてください、
私としては通って欲しいですが、無理矢理
やっても長く続きませんから・・・」

 3月は20人以上の体験授業をしたが、
なぜかマックだけはとても気になった。
と言うか、絶対に入室して欲しいと思った。

 マックが少しだけ笑った時、
何だかすごく嬉しかった。きっとこの子は
変われると思った。読書がこの子を元気に
するはずだ。

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