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You know me (第5回 私立古賀裕人文学祭 応募作品)

見返した日記には、一ページだけ意味のわからない箇所がある

あれ?
あ、やべ。
これ、違うやつだった。
違うの持ってきちゃった。

そうだ。
座右の銘だ。
とはいえ私、
座右の銘のない生涯を送ってきました。
これを機に心を改めて
銘ってみようかなと思う次第で御座います。
ああ、そうだ。
一つ一つ慎重にやっていくとしよう。
さしづめ
千里の道も一歩から、
百里の道も一足から、
悪事千里を走る、
箱根八里の半次郎、
北風小僧のかんたろう
という心持ちである。

それではマイルドに参る。
(ネットで座右の銘って検索して
出てきたやつを適当にみていくあたりに
マイルドさをぜひ感じていただきたい)


心頭滅却すれば火もまた涼し。
火は熱い。
これは科学だ。普遍の定理だ。
そういうのに俺は騙されない。

他山の石。
石は石だよ。
どこの山だろうと。
出自で差別するのはどうかと思うよ。
どこ出身だって構わないだろうよ。
問題はどんな石なのかってことだよ。
お前何中だよと同じレベルだよ。

情けは人の為ならず。
誰のため?
サイボーグ009のオープニング曲にある
誰が為に戦う
みたいな?
あれ、いいよね。
サイボーグ戦士、誰が為に戦う。
カッコいい。

明日は明日の風が吹く。
当たり前だ。
明日には昨日の風が吹いてたまるか
近頃、異常気象とはいえ
いくらなんでもそれはない。
あるいは地球が逆回転したら
時間も逆回転して
明日は昨日にあり、
昨日が明日になるのだろうか?
そしたら今日は?
ねえ今日はどうなるの?
今を生きろ。

石の上にも三年。
腰痛必至。
ヘルニア。
文字通りヘルがニア、
つまり地獄が近いって事。
無理。
腰は今のところ大丈夫だが
やばいってのはよく聞く。
腰はやばいらしい。
腰は。

勝って兜の緒をしめよ。
勝ったことがないんでわかりませんね。
ワンチャン、買って兜の〜かもしれないけど
兜とか買えない。
だってお高いんでしょう?
ワンチャン、カブトガニなら。
あと兜甲児のパイルダーオン。

失敗は成功の元。
おかしい。
だったらそろそろ成功してもいいはずだ。
失敗なら十分に積んできた。
死が一杯、略してしっぱい。

詩っぽい!

いや、しょっぱい。

人事を尽くして天命を待つ。
人事部の部長に尽くせって?
なんか生理的にダメなんすよね、あの人。

雨垂れ石を穿つ。
うん。
穿つ。
雨は穿つ。
穿つのは雨だ。
で?
僕は雨じゃないし、君も雨じゃない。
で?
何だ貴様、レインマン気取りか⁈

有言実行。
それ普通だから。

初心忘るべからず。
いつまでも初心(ウブ)なままじゃいられねえんだ。
夢見る少女じゃいられねえんだ。

井の中の蛙大海を知らず。
大会どころか井戸から出れないし。
出たくても出られない
蛙の気持ち、考えたことあんの?
ねえ?
一度でも蛙の気持ち考えたことあんのかよ!
なあっ!

成せばなるなさねばならぬ何事も。
とはいいますがねぇ
なかなかそうもいかないのですよ。

義を見てせざるは勇なきなり。
大いなるマンションセザール!
セ・ザーーール!!

ケセラセラ。
え?なに?
なんて言ってんだろ。
わかんね。
外国語わっかんね。
え、世良さん?


とここにきて
ふと違和感を抱く。
違和感に抱かれる。
おかしい。
何か妙だ。
なぜこうも座右の銘が決められないのだ。
ひょっとしたら
我々人類は
何かとんでもない思い違いを
しているのかもしれない。

もしかしたら古賀さんは
我々の座右の銘を知りたい訳ではないのではないか?
うん?
知りたいわけではないのではないか?
知りたいのではないのではないのではないだろうか?
あってるか?
ないが多いか?
知りたいわけではない。
知りたいのではない。
知りたくない。
知りたくなんかなかった。
知らない方がよかった。
知らないままでいたかった。
そうだ
古賀さんは知りたくなかったんだ。
例のあの事実を。

だとすると
狙いは何だろう?
座右の銘でないのであれば
別に知りたいのは何か?
他に何を知りたがっているのか?
何を欲しているのか?

そのヒントは巧妙に隠されていた。
前書きだ。
序文だ。
木を隠すなら森の中ってやつだ。
木を見て森を見ずってやつだ。

落ち着いて考えてみたら
第一座右の銘
って言葉も何かおかしい。

そして
ところどころに出てくる英語。
オールオアナッシング
マイカントリーロード
デッドオアアライブ
ロックンロールイズデッド
ラブイズオーヴァー
などなど
唐突かつ頻出。
不自然だ。
作為的な何かを感じる。

やはりおかしい。
何かがおかしい。
なんだ?
(デッドとかオーヴァーとか…古賀さん、疲れているのかしら)

あちこちに散見される尋常ならざる雰囲気を醸し出す文字列に息苦しさを覚える。
疑念が渦を巻く。
なにが狙いだ?
何をしようとしている?

答えは突然に訪れた。

第一座右の銘。
ダイイチザユウノメイ。
ダイイチ…ザ…ユウノメイ

teach that you know me.


こ、これかぁ!
これだったか!

しかし待て。
なんだこの意味は…

お前が私を知っていることを教えろ?

お前の知っている事を洗いざらい吐け?


得体の知れない恐怖が全身を包む。
気味が悪い。
知らない方がよかったのは
私の方だったのかもしれない。
そうだ、このまま知らなかったふりをして…

ゴッ!
後頭部への衝撃。
痛。
闇。


気がつくと横になっていた。
動けない。
頭は痛いが意識はしっかりしている。
これは
これは映画なんかでみる手術台のような
ところか。
眩しい。

と声が。
『お前が知っていることを全て教えろ』
『お前が得た知識を全部よこせ』

その低い声の主の顔は光で見えない。
白衣の胸元にはDr.Kogaと刺繍されていた。

『頭の中身を全部欲しい』
『それ全部ちょーうだい』

なんて事だ!
まさか!
そして
それがこの世で聞く最後の言葉と…

と思ったが
このままやられてたまるか!
叫び声とともに全身に力を込める
「うおおおおっ!誰が玉木宏やねんっ!」

おお!
拘束が外れた!
しかも効いたぞ!
Dr.Kogaに精神的ダメージを与えられたようだ!
怯んでいる!
チャンスだ!

「恥じるな!誇れっ!玉置宏である事を!」
思ったとおりだ!
効いてる効いてる!
よし!
この隙に脱出だ!
ダッシュで脱出。
出口という明日に向かって。

と思ったが
このDr.Kogaなる人物の
あまりの落ち込みっぷりに
さすがに言い過ぎたかと思い
彼の元に戻る。
ひどく落胆し、焦燥しきっている。
罪悪感もあって彼に声を掛けた。

「飲みに、行くか?話、聞くぞ」

(ア)

https://note.com/koga_hiroto_13/n/nb1003939d8c4

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