やすだ

大学病院に勤務する精神科医です。

やすだ

大学病院に勤務する精神科医です。

マガジン

  • いい感じな関係を築くコミュニケーションのヒント・復刻版

    精神科医である私が、2006年5月から2008年1月にかけて勤務先の研修医にむけて一方的に勝手に送りつけていたメールマガジンです。ほぼ当時の原文のまま再掲してご紹介いたします。

最近の記事

死刑制度について私が反対する理由

京アニ事件、19歳の放火殺人事件と続けて死刑判決の話題があったので書きます。 私は死刑制度を廃止すべきだと考えています。 ただし、死刑廃止への一番大きな反論は被害者感情に関することだと思いますが、事件及び罪を犯した人の徹底した調査と分析、再発防止の議論と対策、被害者への十分な補償、遺族らの十分な支援とケア、これらがきちんと行える仕組みをしっかり整えることが死刑廃止とセットで必須です。 「死刑は必要だ、遺族の気持ちが分からないのか?」という声にはこう答えたい。 では、あ

    • 年賀状の思い出

      あけましておめでとうございます 長年にわたって作ってきた年賀状を、なぜか今年は作りませんでした 年始の挨拶に代えて、こんな自分語りを書いてみましたので、もしよろしければお読みください 私にとって年賀状作りは昔から趣味みたいなものでした 小学生の頃はクラスメイトら数十人分、相手に合わせて一人ひとり内容がかぶらないように、完全手書きの年賀状を作って送っていました 自分に送られてくる年賀状というのは当然、ひとりひとり全部違っているわけですが、自分が送るものは別に全部変える必要

      • 私が泣いてしまう曲・ゆるやかな遺書として

        何度聴いても涙が出てしまうという曲が私には3つあります。 涙がでるほどの名曲というのはきっと他にもたくさんあることでしょう。私はそれほど多くの曲を聴くほうではないので。 泣いてしまうツボは人それぞれですし、泣けるから名曲というわけでもないでしょうが、泣くほど心を動かされる曲ですから、やっぱり自分で熱く語ってみたい気持ちになります。ただ、そういう個人的な強い想いに、他人はそれほど興味を持たないものです。なので、そういう記事というのは、書きたいけど書かないほうがよいのだろうな

        • タットリタンとタッポックムタン

          韓国料理のタットリタン(닭도리탕)は鶏肉と野菜を煮込んだスープ料理で、タッ(닭)が鶏、タン(탕)は漢字で書くと「湯」で汁物、鍋料理の意味です。 で、トリ(도리)は一説には日本語の鳥(とり)だと言われているそうで、wikipediaによりますと、国語醇化政策によってタットリタン(닭도리탕)は現在ではタッポックムタン(닭볶음탕)に改められているとのことです。 ポックム(볶음)は炒め物という意味で、チャーハンは볶음밥(밥は飯の意味)炒りごまは볶음참깨(참깨はごまの意味)になりま

        死刑制度について私が反対する理由

        マガジン

        • いい感じな関係を築くコミュニケーションのヒント・復刻版
          76本

        記事

          自分語りをしたい

          自分語りをしたい。 ふとした思いつき、斬新に違いないアイデア、世の中に物申したいこと、日々のささいな喜び、失敗談、あまり大っぴらに言うべきではない愚痴や毒。 誰かから「それは面白いね」とか言ってもらえたら嬉しいと思う。でも、それをすごく望むわけでもない。大勢のフォロワーがほしいわけでもない。むしろあまり目立ちたくはない。世の中に向かって自分の考えを投げかけたいと思うけど、大勢の人の目に留まるのは気が引ける Facebookの友人たちにイイネを押しつけるみたいなところ、T

          自分語りをしたい

          いい感じな関係を築くコミュニケーションのヒント(復刻版)・あとがき

          2006年5月から2008年1月まで2年にわたってポツポツと書いたメルマガですが、復刻版でもやっぱり同じく2年かかってしまいました。過去のものをそのまま再掲するだけなのに。 なにしろ14年も前に書いた文章なので、内容が不適切だったり稚拙だったりしないかと心配はありました。でも、我ながら良いこと書いてるなと思えるところも多々あったのです。心配していてもキリがないので、結局、取捨選択も修正もせず、そのまま紹介することにしました。 拙いところはすみません。もちろんすべての文責は

          いい感じな関係を築くコミュニケーションのヒント(復刻版)・あとがき

          燃え尽きないで(75・最終回)

          「燃え尽き症候群」という言葉があります。「頑張りすぎて疲れきってしまった状態」というように広い意味で使われることが多いと思いますが、もともとこの言葉は、教師や社会福祉士など対人的なサービスに従事する人たちに目立って見られたある種の疲弊状態として注目された概念でした。 他人を援助するという業務では、思うような結果が出ないことも多々あります。さらに、業務として人と接することとプライベートで人と接することの境界線はあいまいになりやすく、仕事の上の失敗がすなわち自分の人間性の否定と

          燃え尽きないで(75・最終回)

          話し方を変える?変えない?(74)

          「子供がえり」してしまったような認知症の老人に接する時、声のトーンや速度、言葉遣いを変えたりするでしょうか。老人以外でも、子供、知的障害のある人、極度に落ち込んでいるような人などには、普通の成人に話しかけるのと言い方を変える(もしくは、変わる)ことがあると思います。 ちなみに私自身はどちらかというと話し方があまり変わらない方だと思います。使い分けるほど器用ではないだけなのですが、自分が子供のとき、小児科で変に子供扱いされるのが不快だった記憶があるのも影響がありそうです。

          話し方を変える?変えない?(74)

          一時的な退行を許容する(73)

          大人の社会では、弱音を吐いたりやけを起こしたり、愚痴を言ったりいじけたりするのは大人気ない行為だとされます。どんなに仕事が辛くても公の場では前向きに頑張ることが要求され、積み重なった心のひずみは、酒の席など私的な場所で発散させたりします。 酔って「こんな会社辞めてやる!」とくだを巻くサラリーマンは、その気持ちに嘘はないにせよ、本気で辞めるつもりもないはずです。言うだけ言ったら気が済むことの方が多く、「弱気なこと言うなよ、頑張れよ」といった励ましはかえって野暮というものです。

          一時的な退行を許容する(73)

          性格によるもの?(72)

          スタッフに反抗的だったり、病棟の規則を守れなかったり、そういう困った入院患者さんが時々いると思います。そんな時、「わがままな性格な人だ」と決めつける前に、もしかして病的な精神状態なのかも?と一度は疑ってみてほしいと思います。 躁状態や軽躁状態では苛々しやすく怒りっぽくなり、一見すると「イヤな奴」に思えることがあります。このような精神症状は精神疾患だけでなく、インターフェロンやステロイドなど薬剤によっても生じることがあり、注意が必要です。 実は私自身も、性格の問題だろうと思

          性格によるもの?(72)

          ごく普通のあいさつ(71)

          精神保健指定医として診察のために警察署などに出向くことがあります。「路上で刃物を振り回している人を保護したところ、精神疾患が疑われた」というようなケースで精神鑑定をするのです。 当然、相手は治療を望んで来ているわけではありません。相手にすれば「オマエ何者だ」といったところでしょう。こちらから見れば相手は「物騒なことをしでかした何やら恐ろしげな人」です。病院での診療ならば当たり前に存在する「治療関係」という前提が存在しないところでは、思いのほかとまどいを感じたりします。 そ

          ごく普通のあいさつ(71)

          業界用語?(70)

          私が精神科医になったばかりの頃、「○○さんが自分の言葉に反応して怒り出した」というような言い回しに、すごく違和感を覚えたことがありました。何かしら、人間の振る舞いを化学物質か何かのように扱っているようで、非人間的な印象を受けたのです。 ですが、今となってはそんな違和感も分からなくなってしまいました。日常用語として普通に使われているような気もするし、別に「非人間的」などと断罪するほどでもないような気もします。 当時の自分がナイーブすぎたのか、それともやはり精神科業界に入った

          業界用語?(70)

          振り回されない(69)

          相手のペースに振り回されないようにとよく言われます。これを視覚的に表現してみましょう。 「振り回される」は、相手が右にいけば自分も右について行き、相手が左に行けば自分も左に‥‥‥、という文字通りのパターンです。これは疲れます。 では「のらりくらりとかわす」はどうでしょう。実はこれも「振り回される」の亜型です。右から攻められれば左へ、左ならば右へと、相手と衝突することがないので一見うまくいっているように見えますが。結局、振り回されているのと本質的に変わりません。 で、理想

          振り回されない(69)

          アサーティブになる(68)

          これまでのメルマガを振り返ってみると、「いかに相手を理解するか」「うまく聴くためにはどうするか」という視点で書いていることが多いことに気づきました。これはおそらく、私自身が「聞き上手で話し下手」であると自認しているからだろうと思います。 ですが仮にもコミュニケーションをテーマにしているのですから、「いかに自分を理解させるか」「うまく話すためにはどうするか」も考えなければ不十分でしょう。 自分の気持ちや考えを上手に伝える能力を「アサーション」と言います。自分を押し殺して受け

          アサーティブになる(68)

          レディーファースト(67)

          唐突ですが、私は「レディーファースト」という考え方があまり好きではありません。というのも、この思想の根底には「女性は憐れむべき劣った存在であり、だから守ってあげなければいけない」という男尊女卑の考え方があるらしいと、どこかで聞いたことがあるからです。 レディーファーストの是非論はおくとして、ここで指摘したいのは「患者さんをいたわろう」という、誰もが否定しないだろう考え方の中に、「患者は我々よりも劣った存在だ」という奢った考え方がもぐりこんではいないかということです。 患者

          レディーファースト(67)

          反対に振る舞う(65)

          他人のけんかを横でみているとよく分かりますが、一方が興奮して早口でまくしたてるように話していると、もう一方の人もそれにつられるように早口になり、その結果、お互いにますますエキサイトしていってしまいます。 このように、自分の振る舞いは相手の振る舞いから影響を受け、さらには感情や思考にも影響は及んでいきます。 自分を見失わないためには、早口な相手にはゆっくりと、大声の相手には小声で、キーキーとヒステリックな相手には低く押さえたトーンで、というように意識的に反対の振る舞いをする

          反対に振る舞う(65)