アニメ「ルパン三世」―その源流は「忠臣蔵」!?
「LUPIN ZERO」
2022年10月24日、51年前にアニメ「ルパン三世(第1シリーズ)」が放映されたこの日に、「ルパン三世」シリーズの新作アニメの配信が発表された。
今回は単なるシリーズではなく、1960年代前半を舞台に、少年時代のルパンを描くという、これまでのシリーズに無い試みである。
昭和から令和まで、一貫してある年齢(20代後半~30代前半?PARTⅢやカリ城、「くたばれ!ノストラダムス」等はこれよりやや上か)だったルパン三世を、「1960年代前半に13歳」にするという設定と解釈の是非はあるにしても、長寿作品では避けられないスピンオフだと言える。
アニメ「ルパン三世」の背負う時代
あらゆる創作物がそうであるように、アニメ「ルパン三世」も時代を背負って世に送り出された。
原作(特に初期)は1960年代の風を強く受け、アンチヒーローとしての性格が色濃いが、アニメはそこから少し力の抜けた「しらけ世代」の空気を持つ。洒脱で無気力な姿勢は、60年代スポ根アニメのアンチテーゼであるし、無国籍で退廃的な世界観は、既成の価値観を否定する60年代末のカウンターカルチャーに呼応したものだ。
一方で、「血(血縁)」や「宿命」に縛られているのも特徴で、その誇りにかけて行動する場面も多い。ルパン・銭形・五エ門など、その根幹には逃れがたい血縁に起因する宿命を背負っている様は、60年代に一大ブームとなった任侠映画のようなテイストである。
その後、半世紀にわたって様々なルパン像が生まれたが、やはり生まれた時代の風を背負っているのが最もそのキャラクターらしくなるもので、「サザエさん」や「ドラえもん」がある時代設定から抜け出さないのと同じように、「ルパン三世」にも似合う時代がある。
昨今、「LUPIN THE ⅢRD」シリーズ(2012~)や上述の「LUPIN ZERO」、また来年(2023年)配信予定の「ルパン三世VSキャッツ・アイ」など時代をある程度特定した作品が増えているのも、多様化したルパン像を固定化するという意味で、有効な手法に思える。
アニメ「ルパン三世」と「任侠映画」
原作「ルパン三世」は、モーリス・ルブランによる「怪盗ルパン」と「007」シリーズ(1962年~)に着想を得て誕生したが、アニメ「ルパン三世」にはそれ以外にもいくつか系譜がある。その一つが前述の「任侠映画」だ。
「任侠映画」は東映の岡田茂が仕掛けた一大ジャンルである。アウトローを主人公にした「座頭市」(1962年)に着想を得て、時代劇の股旅物(主に江戸時代を舞台にしたやくざ物)や「忠臣蔵」をベースに、舞台を近代(明治・大正)に移した「現代アクション路線」として、低迷していた東映現代劇を復活させた。
外圧に対して主人公が耐えに耐え、終盤ついに堪忍袋の緒が切れて悪を倒すストーリーは、70年安保に向けた学生運動と呼応し、社会に不満を抱く学生やサラリーマンたちから熱狂的な指示を得、徐々に斜陽を迎えていた主要な映画会社は、軒並みこのムーブメントに乗る形となった。
「ルパン三世」が当初、東宝の劇場用ヤクザアニメ映画として企画されたのは、こういう流行の時代背景があったためだろう。
劇場用として作られた脚本の一つ「三代目襲名」(北原一脚本)も、テレビシリーズ制作前のサンプル台本である「華麗なる標的」(佐脇徹脚本)も、「現代的な青年がアルセーヌ・ルパンの遺産である「ルパン帝国」の跡目争いに巻き込まれる中で、ルパンの血を自覚し「ルパン三世」を名乗る」というヤクザ映画のようなストーリーとなっている。
実際に放送されたアニメ「ルパン三世」は、跡目・血族・因縁といったウェットな要素を極力取り払い、アクション中心の乾いたハードボイルドなタッチとなっているが、第一話での銭形の独白(※)に代表されるように、根底には逃れられない血の宿命があり、同じく第一話で語られるような、「ルパン帝国」とその他の犯罪シンジケートの死闘がベースとしてある作品となった。
ルパン三世の声優に関しても、笑っていてもどこか腹にどす黒いものを抱えているニュアンスを持つ山田康雄が起用され、山田康雄からイメージしたという山下毅雄による劇伴も、ブルースを取り入れた哀愁のあるもので、第2シリーズ以降の「ルパン三世」とは一線を画する寂寥感の漂う作風なのは、「任侠映画」からの影響と考えられる。
時代を超えて
この寂寥感漂う風合いは、第2シリーズ以降影を潜めるが、PARTⅢ以降に制作に参加し、TVスペシャルでのスタイルを確立した脚本家・柏原寛司は、任侠映画を以下のように評価しており、その影響が未だに「ルパン三世」の中に流れていることが分かる。
TVスペシャルでの「ルパン三世」の多くは、このスタイルを踏襲しており、ゲストキャラクター・敵組織など乱立する中からメインの対決に集約されていくストーリーが多い。
逆に言えば、任侠映画の系譜を受け継ぐ作品だからこそ、その方法論がアニメ「ルパン三世」にマッチしたとも言える。
さらに言えば、その源流には江戸時代以降、我々日本人が好み、遺伝子に刷り込まれた「忠臣蔵」の筋立てがあるから、時代背景やキャラクターデザイン、声優が変わっても、世代を超えて「ルパン三世」という作品が愛され続けているのかもしれない。