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好きが詰まった「T・Pぼん」~藤子・F・不二雄先生 生誕90周年

2023年12月1日、児童漫画の巨匠、藤子・F・不二雄先生が生誕90年を迎えた。90周年ということで、様々記念企画が予定されている。

その中でも今回特に取り上げたいのは、35年振りに再アニメ化される「T・Pぼん」(1978-1986)である。


「T・Pぼん」とは

「T・Pぼん」とは、1978年から1986年まで潮出版社の漫画雑誌に掲載された作品で、主人公・並平凡T・P(タイム・パトロール)隊員となって、歴史の中で不幸な死を遂げた一般人を救うべく活躍する、歴史冒険SF作品である。雑誌の対象年齢が主戦場としていた学年雑誌より上であるため、主人公は中学生で、ストーリーも歴史をベースとした読み応えのあるものとなっている。

見どころ①:藤子Fの「好き」が詰まっている

11月1日より藤子・F・不二雄ミュージアムで開催中の『好き』から生まれた藤子・F・不二雄のまんが世界」のコピー「僕は、すべてにおいて「好き」であることを優先させてきました」にもある通り「T・Pぼん」はモチーフとしてF先生の「好き」がこれでもかと詰まっており、他作品と共通したものが散見される。
以下、一例を挙げる。

  • 第2話「古代人太平洋を行く」:「のび太の日本誕生」(1988)

  • 第5話「魔女狩り」:「赤毛のアン子」(1974)、エスパー魔美(1977)

  • 第6話「白竜のほえる山」:「のび太のパラレル西遊記」(1988)

  • 第7話「暗黒の大迷宮」:「のび太とブリキの迷宮」(1992)

  • 第8話「戦場の美少女」:「超兵器ガ壱號」他(1980)

  • 第10話「バカンスは恐竜に乗って」:「のび太の恐竜」他(1979)

  • 第11話「OK牧場の近所の決闘」:「休日のガンマン」他(1973)

  • 第13話「シンドバッド最後の航海」:「のび太のドラビアンナイト」(1990)

  • 第17話「平家の落人」:「雲の中のミカド」(1957)他

  • 第19話「最初のアメリカ人」:「のび太の日本誕生」(1988)

  • 第21話「武蔵野の先人たち」:「のび太の創世日記」(1994)

  • 第26話「浦島太郎即日帰郷」:「ドラえもん/竜宮城の八日間」(1980)

  • 第27話「誰が箱舟を造ったか」:「箱舟はいっぱい」他(1974)

その他、第28話以降のヨーロッパの歴史を舞台にした各話も、初期作品や「のび太と夢幻三剣士」(1993)などで見られるモチーフである。

見どころ②:藤子F作品黄金期の読み応え

連載期間である1978年から1986年は、藤子F作品の中でも質量ともに充実した黄金期である。
「ドラえもん」(1969)で「オバケのQ太郎」(1964)から始まる生活ギャグを完成させ、SF短編シリーズ(1969-1995)でSF作家・短編作家としての力量も発揮。さらには映画作品の原作として「大長編ドラえもん」(1979-1996)にも取り掛かるなど、作家として最も脂の乗った時期なのである。
各話には、歴史を紙面に再現する観測者としての視点・非科学的な世界への科学的な視点・歴史の謎に一つの解を与える作風など、F先生ならではの手腕が存分に発揮され、各話とも読み応え十分である。

見どころ③:「大長編ドラえもん」との関連性

見どころ①でも見たように、各話の中にはその後の「大長編ドラえもん」との関連が見られるエピソードが幾つかある。
F先生は1978年から毎年10月に2週間ほど世界遺産や史跡を中心に海外旅行に出かけており、その旅行での経験が、普段よりスケールアップが必要な「大長編ドラえもん」や「T・Pぼん」に色濃く反映されている。
また、連載は1980年以降、上半期に「T・Pぼん」、下半期に「大長編ドラえもん」と発表されており、1986年に大病を得て「T・Pぼん」を中断以降、その描きたいモチーフが、「大長編ドラえもん」に集約されていったと見ることも出来る。

藤子F作品の魅力を再発見

藤子・F・不二雄の代表作と言えば、「オバケのQ太郎」「パーマン」「ドラえもん」と紹介されるのが常であり、これに続いたとしても「キテレツ大百科」「SF短編」である。

今春「藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ」としてNHKで実写ドラマ化され、「SF短編」が再度書籍刊行されたが、「T・Pぼん」についても、この90周年を機に、藤子Fの代表作として、その魅力が再発見されて欲しい。

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