助手席と思い出
バス停に向かって歩いていると、近所の方が声をかけてくださった。
「駅に行くんですか?乗って行きます?」
昼食へ行くついでに。ナンバーの分類番号が2桁のマツダセンティアは、20年以上乗っているそう。乗り込む前に「駐車場の上の木に住む鳥がフンをするんでね、毎日拭いてやらんとならんのですよ」と、トランクからタオルを取り出す。内装も綺麗に保たれていて、このクルマを大事にしているのが伝わってくる。
「6気筒でチカラがあってね、いいクルマです。私ももう85になったし妻も2年前に亡くしてね、最近はもうできないけど、昔はこのクルマでよく遠出をしましたよ」
実家の九州へフェリーで行った話、軽井沢の保養所へ行った話、奥様との話。駅までの10分程度の道すがら、85歳とは思えない声量と澄んだ発音でお話をしてくれる。今は、奥様が入院されていた病院の食堂で顔見知りの職員さんたちと昼食をとるのが楽しいのだという。
私が座る助手席に奥様が座っていたのだと思い浮かべると、このクルマへの愛着がますます伝わってくるよう。たくさんの思い出を乗せて走っている。
『私はクルマ関係の仕事をしてるんですよ』
「それはいいですねぇ〜、素敵なことです」
「いってらっしゃい」
『また乗せてくださいね』