童話『ねむりのくるみ』
猫のくるみは、ずっと眠っていたかった。
眼を閉じて夢の中に深く沈んで。
呼吸してる音だけしか聞こえないくらい静かな。
まったく光も届かない深海のような。
誰にも教えたくない大切な記憶のような。
そんな場所から帰りたくなかった。
ある時、猫によく似たいわゆる猫顔の小犬のみみがやってきて、眠っているくるみを起こそうとしました。
「くるみちゃん、くるみちゃん、そろそろ起きようよ。一緒にお話ししたいな。」
それでも、くるみは起きません。
みみは、早口言葉を10回耳元で囁いたら起きてくれるかなって思いました。
でも、きっとそんなことしたって起きません。
そんな気がして、やっぱりやめました。
みみは、大きな声でクリスマスソングを歌ったら起きてくれるかなって思いました。
でも、きっとそんなことしたって起きません。
そんな気がして、やっぱりやめました。
それに今はもう2月だから。でも1を足したら、12月になるからいいような気もするけど。
みみは、美味しい抹茶パンケーキを作れば起きるかなって思いました。
でも、きっとそんなことしたって起きません。
そんな気がして、やっぱりやめました。
それにパンケーキに抹茶は合わない気がして。でも、いちごジャムをかければなんでも甘くなるからいい気もするけど。
みみは、、、
考えるのに疲れたので、そばで一緒に横になりました。
くるみの寝息が、優しい子守歌のようで、みみは次第に深い夢の中に沈んでいきました。
泡雪が降るように少しずつ。
深い夢の奥底で眠っているくるみの横で、一緒になりました。
優しい寂しさに包まれて。
みみの隣にはくるみがいます。
二人はいつまでもそうして眠っていました。