鶏肉と豚肉。5日目
意味なきことを楽しむことの難しさといったらない。
1人暮らしを初めてもう3年半経つ。
不思議なモノで実家暮らしという感覚から離れていると、実家で暮らすという感覚を忘れてしまいがちだ。
実家には帰りたくはない。このまま気ままに暮らしていられればなんと素晴らしいことかとも思う。
今月はかなり厳しい。元より貯金は無い(筆者の名誉の為に言えば決して薄給なのではない)のだが、先月の長期出張と相まって給料日直前になって金が底をつきた。クレジットカードもこれ以上は頼れないという惨状だ。
「そういえばポイントが貯まっていたなぁ」。そんなことを考えて、クレジットカードのポイントを全て電子マネーに替えて、買い物に出かけた。
閉店間際のスーパーの食品売り場。家族連れはほとんど買い物を済ませてしまい、僕と似たような境遇のサラリーマンやら独身貴族をこじらせてしまったお姉さん方がちらほらといる程度だ。
電子マネーの入金額は1万円。米を買わなければならなかったのでそちらは最優先で購入した。そして鶏肉と豚ミンチ。実家でよく食べた豚のそぼろを作ろうともくろんだのだ。
「シャリーン」。給料日までに必要であろう買い物を済ませて帰宅した。
平日のど真ん中に早めに帰宅して、1人で料理を作り、それを食べる。
案外、贅沢な楽しみなような気もしてきた。一応、冷蔵庫に残されたカット野菜に少し上等な豆腐をのせて、しらすをかけてドレッシングでいただく。うまい。
弁当箱に翌日の弁当を詰めて、今、パソコンと向き合っている。
今日はどんな1日だったかなぁと思うと、特段なにもなかった。同じ現場で働く人がエロ本の袋とじを開けて「こんなもんを袋とじにすることはバカげている」とか声高に言っているのが面白かったくらいだ。
学生生活を終えてからというものの、「あぁ今日も楽しかったなぁ!」と思いながら眠りにつくことが少なくなった。
いや、楽しいには違いないのだが、なんというか、こう、うまく言葉に表せない焦燥感とかそういったものに常に追われている気がしていてならない。
学校の休み時間に廊下で3点倒立してみたり、野球部のおちゃらけたやつを猛ダッシュで追いかけたり、通学電車の中で酒を飲んでみたりしたのに、今は「それ意味あるの?」と誰かに何かを聞かれている気がしてならない。
世の中の大半のことに意味なんてないはずだ。豚肉にはビタミンが多いという話は聞いたことがあるが、おそらく、鶏肉も豚肉も主たる成分はたんぱく質によるものが多いはずで、体内に取り込まれてしまえばほとんど変わりなんてないんじゃないか。
こうして、誰が読んでいるかも分からない文章を書いて悦に浸っている自分の行為に意味なんてありようがないのだ。昔の偉い人が見たら「なんと益無きことを」と嘆いたに違いない。青山学院あたりに通うマックブックとスタバのコーヒーに命を削る、サイバーエージェントのインターンシップ生が見たら卒倒するに違いない。
だけど、僕から言わせてみたら、サイバーエージェントのインターンシップに参加することなんて、経済活動という観点で見れば何も意味を持ち合わせないわけだし、青山学院に通うことだって、そもそも中卒で働ける社会の実情に目を向ければ意味のないことのはずだ。だけれども、「自己実現」だとかそういう言葉をつけて意味ありげに振る舞っているだけだ。
だから僕は意味のないことを愛せる人間に今から、たった今から生まれ変わろうと思う。廊下で3点倒立して、女子から白い目で見られていたあの頃の気持ちを取り戻そうと思う。
だから、酔えもしないアルコール度数3%の缶チューハイを片手に益無き文章を書いているのだ。
誰かこの文章を読んでくれているのかな。あなたの価値ある人生を、暇つぶしに付き合わせて申し訳無い。でも、あなたが今やらなければいけないことと、こうして駄文を読みあさること、そこには鶏肉と豚肉の違いくらいしかないはずだ。
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