金木犀と本屋。2日目

仕事をさぼる。

仕事を始めて1年と半年。この業界は本当に変わっていて「仕事をさぼる」ことをまず一番初めに教わる。おそらく、激務と言われる仕事をこなすためには適度に息抜きを入れることが必要なのだ。

これを覚えるのは早かった。思い切って映画館に入った時にはしびれた。電話が鳴ればお終い。分かってはいるのに悪いことをしている時間に酔いしれていたのだろう。童心に帰るということは時に恐ろしいものだ。

岐阜に来てからは私有車で仕事をする。どこにいてもわからないし、なにをしていようが自由だ。今日は本屋に入った。

懐かしい本が並ぶ。石田衣良、宮部みゆき、村上春樹…。学生時代のバイブルを手に懐かしい気持ちがよぎった。

「明日は休みか」。明日も予定がない。本を買うことにした。今回はマンガでなく石田衣良の「池袋ウェストゲートパーク」を購入した。

高校から大学にかけて全編読んだのだが、何冊か失くしてしまった。いい機会なので足りない部分を全部購入した。大学生の時に完結編が出ていたのでこれで全巻そろう。2000円也。まぁこのくらいならいいか。

池袋ウェストゲートパークが終わった時、寂しかった。いつまでも続く気がしていた物語が突然終わる。おもちゃを取り上げられた子供のように、悲しいやらむなしいやら何とも言いようのない思いが込み上げてきた。

仕事終わり、金木犀の香りがした。

甘ったるい香りがなんとも言えない思い出を蘇らせる。中学時代だったか、高校時代だったか、今となっては思い出せないが友人との帰り道に金木犀が咲いていた。思い出せないのも無理はない。楽しいおしゃべりの前には金木犀のにおいなんて記憶には残らないだろう。あの時も池袋ウェストゲートパークと同じように、いつまでも続くと思っていただろうから。

今となってはそのころの友人に会うことは少ない。ある人は一流企業に、ある人は工場に、ある人は専門職に、ある人は人の親になった。友人と過ごす時間は意外に短い。

金木犀は咲いている時期が短いそうな。だから好きなのかもしれない。1年中、甘ったるいにおいがしていたらかなわない。季節の変わり目をつげるからこそ、好きなのだろう。

きっと友人たちもそうだ。いつまでも皆と共にいてはやがて嫌になることもあるかもしれない。振り返れば良いことばかりなのは、金木犀と同じように限られた時間しか共有できないからだ。

調べたところによると、池袋ウェストゲートパークは続編が出たらしい。文庫化はまだ。でも、明日は買いに行こう。

帰宅し、パソコンに向かって今日記を書いている。

物語の続きが気になって眠れない。今日のうちに全部読んでおこう。忙しくなれば、寂しい思いができる時間もきっと短い。

金木犀のにおいが消えないうちに、池袋の冒険を終わらせておこう。

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