今日からブロガー。初日

初めまして。片田舎で文字書きの仕事をしています。

今住んでいるところは岐阜県です。出身は横浜ですが、またこれもめぐり合わせ。社命で「明日から岐阜に」と言われた瞬間、岐阜県民になっていました。

父はIT企業の偉い人、母は専業主婦。私も大手企業に入社し、順風満帆にきていたところでした。街灯がまったくないこの町で生きていくことに多少の不安を抱えながらそろそろ一か月。まずなにから書いていくべきか。

台風19号が近づいている。現在時間17:30分。今のところは四国あたりを北上しているらしい。

昨日、テレビで大宮エリー氏が「明日は雨なので読書の秋にします」と言っていた。

読書。なんというたしなみ。「趣味はなんですか?」「読書です」。決まりだ。

めったにない休みを家で、しかも一人で過ごすことに漫然たる不安がある。「あぁ今日は誰とも話さなかったな」とか「俺はこのまま死んでいくのではないか」とかそういう悩みが常に尽きないのだ。でも、「休みは何をしていたんですか」と聞かれたときに「読書です」と答えられたらなんと素敵な事か。

夜になるのを待って、酒を飲み歩いてなんとなく徒労感に襲われながら朝を迎えるのはやめよう。料理も久しぶりにしようか。なんとなく休みが楽しくなってきた。

車を走らせて、スーパーへ。食材を買って車に積む。後は本だけである。

久しぶりに本屋についた。心の中で「ほれほれ、『趣味が読書の男』が通るぞ」などとつぶやきながら店内を闊歩する。

10分、20分、30分。

ない。琴線に触れる本がない。車の中の鶏肉は悪くはなっていないか。そんなことばかりが気にかかる。大宮エリー計画は目の前で霞と消えそうになっていた。そうはなってたまるか。

何かに導かれるようについたコーナーはマンガコーナー。心の中の自分が「マンガなんて読書のうちには入らないぞ」とつぶやく。となりには平積みにされているマンガの上に乗ってさらに上段のマンガを取ろうとする少年。少年、そんなに高いところの本がほしいのなら店員に言うがいい。しかし、少年は目で語りかける。「おっさん、いい年こいてマンガかよ。文学とは言わんが、小説でも読んだらどうかね」

漸次、葛藤に襲われる。このままでは少年とは変わらないではないか。もう24歳だ。マンガなんか買うまい。そんなものはいまどきの「スマホ」で読めばいい。やめろ。やめるんだ。大宮エリーはマンガなんて読まない。きっと家で紅茶でも入れながらビスケットを食べて、お洒落なボサノバとか聞きながら「為になる本」を読んでいるに違いない。あぁ、俺もそんな風になるべきなんだ。

数秒後、レジで「ギャグマンガ日和」と「週刊少年ジャンプ」を購入した。帰りに少年を探したが、もういなかった。少年に言い訳する暇もなく店をあとにした。

家について一人用の鍋を作る。食べ終えて一服。購入したジャンプを読む。面白い。

外は完全に日が落ちた。今日も一日が終わりそうだ。限りある休みの日、週刊少年ジャンプと共に僕の1日が終わった。

少年はどんな1日だったのだろうか。高い場所にあるマンガを手にして、あの小さな両手で母親にせがんだのだろうか。僕にとってマンガの1冊はたしたことのない値段だが、彼にとっては1月に1回、もしくはさらに少ない楽しみに違いない。少年はあのマンガを読みながら母親の作る料理が出来上がるのを待っているのだろうか。

食器を片づけて、パソコンの前に座り、今ブログを書いている。

今日からブロガー。少年にとっての大事な1日と僕にとっての今日がどっちに意味があるかはわからない。でも、同じように真っ暗になった町を見て「あぁ明日も学校(仕事)か」と心でつぶやくのは違いない。

少年、僕にもそんなときはあった。君もいずれ仕事をしてマンガ1冊の重さが突然軽くなるときがあるだろう。そんなとき、今日の気持ちを忘れないでくれ。

大宮エリーにならなくたっていい。平積みされたマンガに乗って、精一杯手を伸ばして手にした「こち亀」の面白さがきっと君にとっての休日なのだから。

そんな言い訳をしつつ、寝っころがりながら週刊少年ジャンプを読む24歳の休日だった。

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