ダンスホールとミラーボールと。3日目
寒さが身に染みる。
「四季」という言葉がある。古来、日本では3か月ごとに季節を区切っていたようだが、しっくりこない現状だ。暦上は7月は秋。そんなことはないはず。夏休みの宿題を秋に片づけるなんて、中学時代の担任が聞いたら卒倒する。
しかし、季節が暦にじっくり追いついてくる季節がある。ちょうど今はその時期なのかもしれない。夏が終わって秋を飛ばして冬が来てしまったような気温だ。
数日前から毛布を出し、冷蔵庫に入っているビールはそのままになっている。
岐阜にきて1か月。
どうしても僕は孤独感が拭い去れない。生まれ故郷や、旧友たちとの再会は年に数回。いや、それすらもないことさえある。風光明媚な季節の移り変わりも、人より少し多めの給料も、1人ではどう使っていいのかわからない。結局孤独を埋めるための作業に金を使い、月末には金の心配をしなければならない。
先日、学生のころから好きだったDJのイベントに行った。岐阜の小さなダンスホールのクラブで、週に1回のイベントだった。今から6年前だろうか、彼の出した1枚のアルバムが僕のipodの再生数ランキング1位だった。
高校生の時、「町から出たい」とずっと思っていたが、行先は東京のはずだった。いつからか、東京から遠く離れ、想像もしない場所で働いている。でも、高校生の時に好きだったあの曲はこの町から生まれていたのだ。彼は岐阜出身だった。
「ファンだったんです。高校生の時」。彼は笑顔でテキーラを一杯差し出した。喉を熱い酒が通り抜けていく。食道を通って胃の中に。握手を交わす。
「どんな曲が好きなの?」
自分でも信じられないくらい言葉が次々にあふれ出てくる。「tha blue herbが一番好きです」「いいよね、本当に。俺も好きだ。いいセンスしてる」。
「じゃあそろそろ俺、回すから」。彼はそういうとターンテーブルの前に立った。ダンスホールには僕を含めて4人くらい。小さなクラブの、小さなイベントで、僕は高校生の思い出と一緒に音楽に身をゆだねた。
朝方5時。彼は自分のやっている店を教えてくれた。「今度来てくれ。音楽を一緒に作ろう」。
ダンスホールを出たた頃、町は静まり返っていた。朝5時10分。日の出にはまだ早い季節だ。静まり返った町と、水商売の男女の喧噪を横目に家のドアを開ける。真っ暗な部屋が僕を出迎えた。さっきまでのミラーボールが嘘のように。
家の照明が一瞬、ミラーボールに見える。しばらくこの明かりは消えそうにない。
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