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マーダーミステリー「幻想推理」で快適なロールプレイのために仕組んだ9つの魔法《テクニック》


■はじめに

 新作「幻想推理」、数多くの方に遊んで頂きありがとうございます。

 この度、「毎月マダアン」にて、オンライン部門で最多得票を頂く結果となりました。この場を借りて、遊んで頂いた皆様、回して頂いたGM様に感謝申し上げます!

 「幻想推理」は、「ロールプレイがしやすかった」「〇〇さんが演じたキャラがぴったりだった」という評価を多く頂いております。
 もちろん、演じて頂けたプレイヤーの皆様の熱の入った演技力があってのことではありますが、作り手としても「幻想推理」というシナリオには、今まで自分がマダミス制作で詰め込んできたノウハウを詰め込み、気持ちよくロールプレイしてもらうための工夫をいくつか仕込んであります。

 この記事では、それを提供する記事として、マダミスのシナリオ作成において「どのようにすればプレイヤーに気持ちよくロールプレイしてもらえるか」という点について、自分が行ったことをまとめたいと思います。

 なお、自分は以前に以下のような記事を書いており、この記事は以前に述べたことのアップグレード版となります。都合、同じようなことを書いている点はご了承ください。(ちょうど2年ほど前に書いているのも感慨深いですね…)

 ※以降、なんか偉そうに創作論を語っていますが、あくまで僕という一個人が考えている自分用のメモを兼ねた備忘録です。これがマーダーミステリーにおいて正しい解釈であると主張する気は全くございませんので、あくまで一個人の戯言として受け取ってください。

 ※当該記事は、「幻想推理」の推理や犯人に対する直接のネタバレは含みませんが、構造を知ることにより、驚きが少なくなってしまうという点でのネタバレが含まれます。幻想推理を未プレイの方がこの記事を見ても幻想推理はプレイ可能ですが、幻想推理をまっさらな気持ちで楽しみたいのであれば、プレイ後の閲覧を推奨します。

■コンポーネント編

・HOを一人称で書く

「HOは三人称で書いた方が良いか、一人称で書いた方が良いか」というのは時々取沙汰される課題ですが、ロールプレイを促す上では明確に「一人称」で書いた方がプレイヤーに与える情報量は多くなります。

 これは、そのキャラクターの口調や感情といったものを、HOの読み込みを通じて、情報と並行してプレイヤーに与えることができるため、非常に情報効率が良くプレイヤーにキャラクターをインプットすることができます。
 
 また、プレイヤーによっては「HOの文章を口に出して読み上げる」というスタイルの人も散見されるため、一人称の文章を声に出して読み上げると、その間は実質的にロールプレイの練習をしつつ情報を読み込めるという、最大効率でプレイヤーに情報をインストールする時間となります。

 HOは、迷ったら一人称で書くことを心がけましょう。

※一方で、三人称視点で書いた方がキャラクターの言動を規定せず、プレイヤーの想像に委ねることが出来るというメリットも存在します。一人称が完全上位という訳ではないという点にはご注意ください。


・読み合わせ文章にキャラクター画像を表示する

 読み合わせ文章を作る際に、キャラクター画像は表示することが望ましいです。
 
 読み合わせを行いながらキャラクターのビジュアルがプレイヤーに表現されるため、アテレコのような状態を作り出し、読み合わせの度に視覚的にそのキャラクターのビジュアルと声が結びつきキャラクターとプレイヤーの同一性を飛躍的に向上します。

(※この画像は、例示のための資料で、「幻想推理」本編とは全く関係ありません)

 こういった資料を作成する技術論はこちらでも論じているので、よろしければあわせてごらんください。


・盤面にキャラクター画像を表示させる

 オンラインシナリオの場合、調査中、プレイヤーはほとんどの時間、盤面を見ながら議論を進めます。

 そのため、盤面には必ず「キャラクター画像」が見えるように配置しておきましょう。こうすることで、キャラクターの印象を常にプレイヤーに刷り込むことができますし、プレイヤーが誰か喋った時に、直感的にそのイメージとプレイヤーの声を繋げることができます。

 効率だけを考えれば盤面にキャラクター画像は必要ありませんが、効率だけではなく、雰囲気作りのために、何とかキャラクター画像を入れるスペースを捻出しましょう。

「幻想推理」でも、実際の盤面にキャラクター画像を表示しています(ネタバレ無し)

・BGMには徹底的にこだわる

 BGMというのは、マーダーミステリーを構成する重要な要素です。

 不安を煽る場面では不安を煽るBGMを流し、感動的な場面では感動的なBGMを流すなど、適切なBGMを流すことで、プレイヤーの感情を操り、盛り上げ、プレイヤーを”ノせる”ことで、ロールプレイの達成感にも大きく寄与します。

 その逆に、誤ったBGMであれば、プレイヤーがどれだけ頑張ったとしても没入感が削がれ、ロールプレイとしてもちぐはぐになってしまいます
 (極論ですが、被害者が残した繊細で感動的な手紙を読み上げるような場面で暴れん坊将軍のテーマのような曲を流しても、全く感動できませんし、ロールプレイにも身が入りません)

 よって、使用するBGMは全てシナリオ側で設定しておくことが望ましいです。

 その場面でどのようなBGMが適切なのかを知っているのは、間違いなく作者であるあなたであり、例えば「感動する場面」だとしても

・「オルゴールで儚い感動するBGM」が適切なのか
・「ピアノで情緒的な感動するBGM」が適切なのか
・「オーケストラで壮大な感動するBGM」が適切なのか

 といった、「感動」においても、数多くの表現方法があります
 (更に言えば、「ピアノ調で情緒的なBGM」だとしても候補となる曲はいくつもあります…)

 また、曲は曲単体ではなく、同じようなピアノ調のBGMばかりが続いてしまったりすると単調になるとか、一旦BGMを静かなものに落としてから、派手なものへ転換させるなど、全体としての統一性や物語にあわせた盛り上がりなども併せて設計する必要があります。
 
 こういった「音楽のトータルコーディネート」を、全くBGMを設定せず、外部のGMさんに丸投げするというのは無理な相談であり、結果として、適切なBGMが設定されずに体験感が落ちるという形となってしまいます。面倒くさくても、必ず作品に対するBGMの設定は全て行いましょう。

 ※勿論、作者よりも深く作品を理解し、作者が思いもよらないような素晴らしいBGM設定をして頂けるGM様も存在します。が、そのようなGM様は仮にBGMをこちらで設定していても、自己判断で設定して頂けるので、どちらにせよ規定のBGMを設定しておくことは作者の責務であると考えています


■システム編

・密談の機会を数多く作る

ロールプレイを行う上で、「密談」は非常に重要な機会です。

そもそも「全体会議」は全員で情報共有や推理を行う場であり、突飛なロールプレイや、個人対個人の感情を深めるようなロールプレイは遠慮してしまいますし、そもそも全員で時間を共有している都合上、各プレイヤーが発言する時間も短くなります。

一方で、「密談」では、二人だけの内緒話ができたり、直接推理と関係ない話ができたり、二人きりという空間そのものが没入感を上げる要素となったりします。

すなわち、量的にも、性質的にも、ロールプレイを行う上では全体会議と密談では雲泥の差があります。

さらに分かりやすく表現するために、超簡単に定量的に示すと

 仮に6人で12分の全体会議を行うとした場合、使える時間は1人あたり2分で、全体に配慮した行儀のよい言動しかできません(この場合のロールプレイ係数を仮に1と置く)

 一方で、この12分を2人で密談する時間とした場合、使える時間は1人あたり6分、かつ、ロールプレイもよりキャラクター同士の親密なロールプレイが可能です(この場合のロールプレイ係数を仮に2と置く)

■結果
全体会議:12÷6(時間)×1(RP係数)= 2ロールプレイ貢献度
密  談:12÷2(時間)×2(RP係数)=12ロールプレイ貢献度

 …このように、密談におけるロールプレイに対する貢献度は、おおよそ6倍となり、全体会議とは比較になりません。(数値としての根拠はおおよそですが、言わんとしていることは伝わるかと思います)

 よって、ロールプレイを重視するシナリオの場合は、強制的に密談時間を設けたり、自然と密談を誘因するようなゲーム設計としましょう。


・休憩時間は催眠状態を継続する

 ロールプレイというのは一種の催眠状態のようなもので、多少恥ずかしい言動や、深い情緒的な感動というものは、プレイを通じてどんどん深くなっていきます。

 休憩時間で「プレイヤーとしての言動」「日常の話題」が出た瞬間に、その催眠は切れてしまいます。

 こうすると、今まで読み合わせや雰囲気作りで積み上げてきた没入感が全て崩壊し、結果としてロールプレイも「また1から」となってしまい、台無しです。

 自分がGMを実施する際は、物語中はプレイヤー間の雑談を許さず、自分は強制ミュートとしています。これにより、プレイ中のプレイヤーの催眠状態を途切れさせず、最後まで没入感を持ったままロールプレイをしてもらうためです。

 また、あまりに長い休憩時間も、プレイヤーの催眠状態を解いてしまいます。長時間シナリオにおける適切な休憩時間は勿論大切ですが、あまりに長く休憩時間をとってしまい、他事(ソシャゲ、SNS等を始める)を行う余地を与えてしまうと、体験感を損なうため、お手洗いやお飲み物、小休止が最低限できるだけの時間、すなわち5分前後とすることが望ましいでしょう。


■シナリオ進行編

・導入の読み合わせで、ちょっと恥ずかしいセリフをシナリオから言わせる

 キャラクターのロールプレイとして最も難しいのは、導入です。

 そもそも、プレイヤーの大多数は劇団員ではなく一般人であり、芝居がかった発生や、気の利いたセリフなどをアドリブで紡ぐことは非常に難しいです。

 「さあ、今からあなたたちはキャラクターです、会話を開始してください」と促したとしても「あ、よ、よろしくお願いします…」「それじゃあ、調査を始めましょうか…」となってしまうことが殆どでしょう。

 第一声というのは重要で、そこで発した声が、その後のロールプレイの方針を決めてしまいかねないほど影響力は高いです。

 そのため、冒頭の読み合わせ文章で「そのキャラクターの方向性や印象を大きく決定付ける一言」「シナリオで用意された文章で言わせる」ことで、プレイヤーの羞恥心を和らげ、スムーズに導入することができます。

 特に、突飛な言動をするキャラクターや、敵対的な言動をするキャラクターなどは、いくらHOに書いてあったとしても、プレイヤーの自由意志に任せていては無難な言動のまま終わってしまうことが多いです。

 例えば、以下のような読み合わせ文章を予め用意し、プレイヤーに「普段ならば絶対に言わなような恥ずかしいセリフ」を無理やり言わせることで、その後のロールプレイのしやすさがぐっと上がります

被害者の妻「私の主人を殺したのは誰!? 絶対に見つけて殺してやる!」
被害者の息子「あーめんどくせぇ…。ちゃんと遺産は貰えるんだよな?」
頭のおかしい人「神だ!!! これは神の仕業に違いない!!!!」
富豪「こんなおかしい奴と一緒に居られるか! 儂は部屋に戻る!!!」
探偵「皆さん落ち着いてください。この事件はすぐに解決してみせます」

自由ロールプレイだとそれぞれいうのが難しいであろうセリフ

 重要なのは、「プレイヤーの口から実際に発声させ、他のプレイヤーに聞かせる」ことです。ロールプレイは、それを演じるプレイヤーが、キャラクターを通じて演じる言葉の解釈の姿勢や目線が一致してはじめて、コミュニケーションとして成り立ちます。その最初の一歩は、シナリオの方から背中を押してあげましょう。


・中盤以降は感情指定を行わない

 シナリオが一度進み始めると、シナリオを通じた解釈はプレイヤーのものであり、作り手であるあなたの手を離れます。

 とあるキャラクター同士が、もしかしたら恋人同士になるかもしれませんし、犬猿の仲になるかもしれませんし、もしかしたら全くの無関心になるかもしれません。
 そして、どのような結果になったにせよ、それがプレイヤーの自由意志がぶつかりあって生まれた結果であれば、シナリオを作成した作者であっても、それを否定することは出来ないと自分は考えています。

 もちろん「事件の真犯人を突き止める」といったような目的はゲームとしてプレイヤーに従ってもらう必要がありますが、その事件を通じて「犯人を殺したいほど憎んでいるか、それともこの罪は許されるべきなのではないか」といったキャラクターとしての判断や、ロールプレイを通じて他キャラクターに抱く印象は、そのプレイヤーによって、あるいは他のキャラクターを演じるプレイヤーによっても異なり、誰も計算できないカオスな状況で、その卓唯一での物語や感情をプレイヤー達は楽しみます
(自分は、これこそがマーダーミステリーの醍醐味であると考えています)

 そんな中で特に注意すべきは、ゲーム開始後でそのキャラクターの感情をシナリオ側から指定してしまうことです。

 例えば「何があっても犯人を殺そうとしていた復讐鬼」が、手紙を読んだことで「犯人を許すという善良な心を取り戻した」であったり、「調査を行っている最中に、特定の相手に恋心が芽生え、犯人探しを放棄する」といったような形です。

 シナリオの都合でキャラクターの根幹の思想の変更を強制されるような展開は、シナリオ側としてはドラスティックで面白い仕掛けだと思っていても、プレイヤーとしては理不尽感しか感じず、シナリオに対するモチベーションそのものを喪失させてしまう危険性があります。

 これを防止するためには、そもそも無理な感情指定をシナリオ上でしないのが一番なのですが、感情指定にしても目標変更にしても、プレイヤーに変更するかどうかを選ばせる、といった受け皿を用意しておくことが重要だと思っています。

 「感情指定」は、ついつい使いたくなってしまうテクニックではありますが、先達であるCoCにおいても典型例として挙げられるくらいに有名な「地雷」要素でもあります。用途と容量は守って利用しましょう。


・エンディングで最優先させるべきは「感情を着地させる」こと

 「終わり良ければ全てよし」といった言葉もあるように、過程はどうあれ、「物語がどのように終わりを迎えたか」はプレイヤーに対する体験感に大きな影響を与えます。

 そして、このエンディングの際に納得感が無ければ、プレイヤーの感動も、没入感も、そして「ロールプレイをやりきった感」も全て吹き飛んでしまいます。

 エンディングの展開として「AとBは恋人同士になる」という展開が仮に綺麗だったとしても、AとBを演じるプレイヤー同士が納得感が無いまま、予定調和的にシナリオの読み合わせでお互いに愛の告白をさせたり、甘酸っぱい雰囲気を出したとしても、気持ちが乗らないロールプレイとなってしまいますし、最悪のパターンとして、プレイヤーは「自分はシナリオをなぞるための存在で、自分たちがプレイした意味がない」と空虚感を感じてしまうこともあります。

 そのため、プレイヤーの課程や選択に応じた納得感のある結末を迎えられるように、エンディングでの描写等は単一のものではなく、大なり小なり分岐させて、プレイヤーの気持ちを受け止めて着地させられるものを用意しておくことが望ましいです。

 また、時々存在するのは、「エンディングで一切の描写が無く終わるキャラクターが存在するパターン」ですが、これをされて嬉しがるプレイヤーは存在しません。
(※デスゲームシナリオで、途中離脱が明記されており、死亡したプレイヤーは除く。この場合は無慈悲に切り捨てられた方がしっくりくる)
 
 例えそのキャラクターが一切の目標達成ができなかったとしても、それに応じた結末は用意して、キャラクターとして決着し、プレイヤーとしても感情を着地させて、プレイヤーに「やりきった」という感覚を与えてあげましょう。

 ここは議論が別れるところだと思いますが、個人的には「プレイヤーの感情に寄り添ったエンディング」は「物語として綺麗なエンディング」より優先されるべきと思っています。

 物語として一本芯の通ったシナリオだと、ここのバランスを取るのが難しいかもしれませんが、マーダーミステリーの主役はシナリオではなくプレイヤーであることを意識して作品を作ると、プレイヤーの納得感は高くなると思います。
(※物語性を主体として作るシナリオを否定するものではないです、あくまで個人の意見です)


■最後に

以上が、「プレイヤーに心地よくロールプレイを行ってもらうための、9つのテクニック」となります。

「偉そうに語ってるけど、お前何様やねん!」と思った方も、「まあ、ここまでよく長文を書いたねえ…」と思った方もいらっしゃると思いますが、一応自分もマダミス作者のはしくれ、自分の理論は作品で示す形となっております。

こちらの「幻想推理」は、上記で述べたノウハウを惜しみなく投入した作品となっておりますので、「実際にここで述べたノウハウを集積した作品がどのような作品になるのか」という点は、こちらの作品を通じて感じて頂ければと思います!

また、既に「幻想推理」をプレイした方も、よろしければ「がんばったねえ…」という気持ちで、こちらの記事やboothで「スキ!」をぽちっとして頂けると、励みになります!

それでは、このような長文乱文を読んで頂き、誠にありがとうございました。こういった技術論に需要があるのかは分かりませんが、また機会を見つけて記事を書いていきたいと思います。

yasu

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