【ミャンマー】あえて軍事政権の味方をしてみる
2021年に起きたミャンマーの軍事クーデター。
アウンサンスーチーはじめ、その前年の秋の総選挙で勝利した民主派は軒並み拘束され、それどころか軍はクーデターに抗議するデモ隊に発砲。多くの犠牲者が出ています。日本人ジャーナリストの拘束もありました。
選挙にあらわれた民意を武力で覆そうという軍部が非難の対象になるのは当たり前。
だけれども、ここで私はあえて、あえて軍部の擁護をしてみようと思います。
ニュースとは違うこともいいますが、一種のディベートだと思ってください。
まず、自分が問題だな…と思ったのは、スーチーさんたちの民主主義理解。
「選挙で勝ったんだから、政権はこっちのもの」の一点張りです。
ん~。
確かに小中学校の社会科、高校の政経では、そう学ぶかもしれません。
「民主主義では、民意が第一」だって。
自分が政治学の授業の第一回で学んだのは、ちょっと違ったんです。
「政治とは、今あるパイ(資源でも何でもいいです)を、いかに上手に分配するかの技術」だと。
そう考えると…。
スーチーさんたちには、
「こっちが勝ったんだから、全部こっちのもん」という姿勢、いわば「勝者総取り」でなく、
ある程度の勢力を確保した軍部へも、その持っているであろう不満をなだめつつ、上手に懐柔する、そういう技術、テクニックを駆使することが必要だったんじゃないか。
それって、ある意味で「アジア的知恵」(聖徳太子の「和を以て貴しと成す」とか)と思うんですが、
欧米的民主主義の価値観を至上とするスーチーさんには、その妥協の術が分からないのかな…と。
なんかスーチーさんって、民主主義や、あるいは政治そのものへの理解が浅い気がするんですよ。
「勝者が独占するのが民主主義」じゃなく「勝者と敗者が話し合うのが民主主義」じゃないかと。
細かいことですが、もとスーチー派のなかから、そんなスーチーさんの強硬路線についていけず、
スーチー派を飛び出し軍と妥協も辞さない中間勢力もいたんですが、秋の総選挙ではゼロ議席でした。
もうひとつ、ミャンマー軍とはどういう軍か…ということがあります。
歴史に詳しい方はご存知でしょうが、ミャンマー軍(当時はビルマ軍)を創設したのは、日本陸軍。
ビルマを支配していた英国植民地支配の打倒をめざす青年たちに軍事訓練を施し、創設した。
その青年たちのなかに、スーチーさんの父君、アウンサン将軍もいました。
戦後、ビルマは独立を果たしますが(ここでアウンサン将軍は暗殺されてしまう)、日本陸軍の軍事訓練を基礎とするビルマ軍は、日本陸軍の習慣を色濃く残す軍になりました。たとえば精神主義とか、鉄拳制裁みたいな習慣とか。
しかしビルマは多数民族(ビルマ族ともミャンマー族とも)以外に、国内に多数、調べたら実に134もの少数民族を抱える多民族国家。
彼ら少数民族が平和裏に権利の主張をしていればよかったのですが、実際には各少数民族は武装ゲリラを組織し、武力抵抗を開始したのです。
少数民族が武力抵抗を開始したのと、ビルマ族が高圧的姿勢をとったのと、ここはどっちが先なのかむずかしいところではありますが。
ただ、ここでビルマ軍にひとつ軍配をあげたいのは、
すでに独立直後のビルマ国家でただ一つ、結集する軸となっていたビルマ軍が、アメリカ、ソ連、英国、中国、インド…そういう強国や周辺の大国に組せず、どこの国とも同盟せずに(非同盟)誇り高く自立・独立する道を選んだことです。
言ってしまえば、日本陸軍の精神主義を引き継ぎ、それにビルマ民族主義をもって、何十もの少数民族ゲリラと、血みどろの内戦を続けてきたということです。
当然、少数民族ゲリラのなかには外国の支援を受ける勢力もありました(ビルマ共産党が中国の支援を受けるなど)。それどころか、麻薬王クン・サーの私兵のような、武装した犯罪勢力もいました。
それに対しミャンマー(ビルマ)民族主義の強いミャンマー軍が、その民族主義の支え、誇りにしているのは、もちろんアウンサン将軍です。
そしてスーチーさんは、欧米的価値観を持ちながら、アウンサン将軍の娘。
ある意味、どっちがアウンサン将軍の正統性を引き継ぐのか…という争いなのです。
どっちもミャンマー民族主義では一致している(けっこう中国嫌いだったりする)。
だから、ここで「どっちが正統か」という、面子と面子のぶつけあいだけでなく、どこかでお互いの正統性を認め合い、譲りあえないものか。
ミャンマー(ビルマ)は誇り高く独立の旗を掲げるいっぽう、軍が命令口調で主導していた経済は低迷していました。
それがスーチーさんが政権に就き、少なくとも1期目は軍にも一定の気配りがありながら(それが軍とともにロヒンギャ難民弾圧に加わるなど負の面もありましたが)、経済面ではかなり開放され、ミャンマー経済・投資がミニブームになったりしていましたけれども、2回続けて選挙に圧勝したことで、もうミャンマーは経済の時代、軍のいうことなんか聞かないぞ…、
という姿勢を見せたか。
秋の総選挙の前には少数民族政党や中間勢力が善戦して、スーチー派と親軍部政党のクッションになる予想もあったのですが、結果的には中間派はゼロ。
でもこうして議会にクッションとなる勢力がいなければなおさら、ロヒンギャ問題、少数民族ゲリラとの和平問題…どれも軍との直接協力なしには解決できないはず。
つまりスーチー派は、勝ったからこそもっと慎重に行動すべきだったんじゃないでしょうか。
そこで起きた2月のクーデター。スーチー派支持一辺倒の欧米とは違い、ビルマ軍創設時の縁から、先進国で例外的にミャンマー軍とパイプを維持している日本政府。
スーチー派の「選挙に勝ったのだからこっちに全部よこせ」でもなく、ミャンマー軍の「軍なしにこの国はやっていけないのだから権力やらん」でもなく、それこそ「アジア的知恵」というべき「和を以て貴しと成す」の精神をもって、この国の数少ない穏健派に働きかけて、双方がなんとか妥協しながら受け入れられるような、ソフトランディングを仲介できないものかと思うのですが…。
日本が何もしなければ、少数民族ゲリラがスーチー派への支援や軍事訓練を開始したという報道もありますから、辺境の少数民族地域だけでなく、ミャンマー主要部で本格的な軍事衝突が起き、これまでにない全国的な一大内戦、内乱というハードランディングに陥る危機もあります。
最後に、日本がミャンマー軍事政権とパイプをもってることに批判的な向きはやはり多そうですけど、日本政府までも軍事政権批判に転じて、本来なら中国嫌いのはずで民族主義の誇り高いミャンマー軍を、中国やロシアの側に押しやるのも、上策とは思えないんです。
国際政治のリアリズムは「正義」や「理」を押しつけるだけじゃなくて、持てるさまざまな外交資源、それは軍事力や経済力だけじゃなくって、たとえば情報戦、あるいは外交人脈や民間交流(それこそ友人関係とかも。主義主張が違っても友達、みたいな「情」も)を総動員してこそだと思うわけですよ。
駄文長文、失礼しました。
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