23/07/29 【感想】エラリー・クイーンの事件簿2

魔術マジックだ」と警視はつぶやいた。「まぎれもない魔術マジックだ」
「いいや、おやじさん、論理ロジックだ」とエラリーはくすくす笑って、「まぎれもない論理ロジックです」

エラリー・クイーン『エラリー・クイーンの事件簿2』創元推理文庫

前回一時帰国したときに古本屋をのぞいたら見つけて購入、そのまま台湾に持ってきていた『エラリー・クイーンの事件簿2』を読みました。
ラジオドラマ原作の作品が2本、映画原作の作品が1本収録されています。

エラリー・クイーン・シリーズはラジオドラマとしても人気を博したということは知っていたのですが、その作品は数えるほどしか読んだことがありませんでした。
それらのラジオドラマ作品の中でも「〈生き残りクラブ〉の冒険」は評価が高く、冒頭の有名なフレーズもあって知名度が一等高いように思います。実際、本書収録作のなかでも頭一つ抜けて面白かったです。

以下は個別作品の感想。直接的なネタバレはありませんが念のためご注意ください。


〈生き残りクラブ〉の冒険

エラリー・クイーン作品でたびたび登場し殺人事件の動機になっているトンチ氏式年金(満期の時点で生きている人だけで分配するシステム)をメインエンジンにした作品。クイーン作品中ではトンチ氏式年金はデスゲームとだいたい同義です。
それを〈生き残りクラブ〉と称する、ある種開き直ったようなフレーバーがドラマらしいハッタリになっていて楽しいです。

ある程度は当てられるように作られた「聴取者への挑戦」モノなので、ある一点からほぐせるようになっているもの。ミステリとしてはシンプルなのですが、面白くなるポイントをどれもしっかり抑えていて、よくできた短編でした。
犯人の意外性があったのもよい。職人芸を感じる作品でしたね。


殺された百万長者の冒険

意外な手がかり、意外な動機を備えたソリッドな出来。ただ「〈生き残りクラブ〉の冒険」と比べると小粒かなあ。
あと野球観戦しながらスコアをつける行為についての作中の扱いについて納得がいかない…。

それにしても、ラジオでこれを聞いてがんばって推理していた人はすごいですね。今の我々より「聞いた情報を頭の中で展開する力」が高かったんだろうなあ。


完全犯罪

読み終えてから解説で知ったのですが、元は映画だったものを小説に起こしたものだったのですね。何が起きているのかわかりづらい(空間的な把握を求められるのだがついていけない)のはそのせいもあったか。

エラリー・クイーン(実在の作家)がハリウッドで映画脚本を書く仕事で嫌な思いをしたことは語られたり作品としても表れていたりするのですが、実際にどんな本を書いていたのかは知らなかったので、そういう意味では読めてよかったな。

「このトリック前もやってなかったっけ?」と思ったのですが、やってたらしいです。
小説として書いたものをまるまる映画脚本に流用し、その映画を小説化した結果、大変よく似た小説が2作並ぶことになった…って流れかな。