20/09/27 【感想】巴里マカロンの謎
米澤穂信『巴里マカロンの謎』を再読しました。
いくつかの短編は雑誌掲載時に読み、短編集としては発売直後にKindleで買って読んでいたのですが、思いがけずスタバで雨宿りをするはめになったとき(09/09日記参照)にニューヨークチーズケーキを食べ、そのときにふと読みたくなって読み返しはじめたものです。こういうときにさっと取り出して読み返せるのが電子書籍のいいところですね。
収録作は以下の4編:
「巴里(パリ)マカロンの謎」
「紐育(ニューヨーク)チーズケーキの謎」
「伯林(ベルリン)あげぱんの謎」
「花府(フィレンツェ)シュークリームの謎」
このようなタイトルを冠するだけあってどれも国名シリーズっぽい…というか『エラリー・クイーンの冒険』っぽいロジックメインのつくりの短編集。創元推理文庫なので当然「~の謎」表記です。再読が面白いのはクイーンライクの誉れ。
よくまとまった、ウェルメイドな丸いつくりの短編集です。
あらすじより下はネタバレ感想になります。
「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店に行ってマカロンを食べます」その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。しかし小佐内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか? 小鳩君は早速思考を巡らし始める……心穏やかで無害で易きに流れる小市民を目指す、あのふたりが帰ってきました!
(東京創元社HP内作品ページより引用)
小市民シリーズはやっぱり小佐内さんがいいキャラしてますね。今回もいい働きしてます。小鳩くんを含む全登場人物に対して距離感が絶妙。
「紐育チーズケーキ」は小佐内さんの行動を小鳩くんが推理する話、「伯林あげパン」は小佐内さんが犯人、「花府シュークリーム」は小佐内さんがメイン探偵ポジ。探偵も犯人もやれるバイプレーヤーとして大活躍しています。
探偵・犯人・その他どの役どころになるか読んでみるまでわからない登場人物がいるとミステリ短編って一気に面白くなるんですよね。ルパンシリーズの短編集が面白いのってそこだと思います。
逆に古城秋桜さんは「巴里マカロン」をやったあと振り回され警察ポジや被害者ポジでこれまた便利に使われています。ここらへんのシステムを作るのが本当に上手いですね。
この大胆な役割のスイッチができるのは日常の謎ならではかもしれません。ガチの犯罪で犯人になったらお縄ですし殺人事件で被害者になったらあの世ですからね。
「巴里マカロンの謎」
あらゆることが手がかりっぽく描写されていて、それらが若干わざとらしいくらい組み合わされたり排除されたりしながら推理の糸になる。国名シリーズっぽいタイトルを冠しているだけあってモロに初期クイーン的な肌触りです。
「マカロンがいつの間にか1個増えている」という小さな謎から大きな真相を取り出す推理遊びが本作の主眼。
ハウダニットとして読むとマカロンがいつの間にか増えるという謎の真相が「目を離した隙に置いた」でガッカリするため、トリックものでなくロジックものとして読むのが正解です。
「紐育チーズケーキの謎」
「ニューヨーク・チーズケーキ」がただのフレーバーでなくちゃんとキーアイテムになっているのがナイス。それをやるためにかなり突拍子もない真相になってるのはご愛嬌。
分かりやすい悪がいるのも小市民シリーズっぽいですね。
個人的にはこのシリーズはこういう分かりやすい悪がいない「シャルロットだけはぼくのもの」みたいなやつの方が好きですが…というか個人的に日常の謎ものは分かりやすい悪がいないものが好きです。『空飛ぶ馬』では「砂糖合戦」でなく「織部の霊」が好きです。
「伯林あげパンの謎」
犯人は早々にわかってしまうため初読時は気もそぞろで読んでしまったのですが、改めて読んでみると色々な可能性をうまく排除しています。「何が起こったか」という興味で読む話。
証言をそのまま真に受けると隙がなさそうに見えるところに小さなほころびを見つけてこじ開けていく感じは法廷モノを読んでいるような味わいがあります。
シリーズキャラクター健吾との掛け合いも絶妙です。
「花府シュークリームの謎」
小市民シリーズの法則、「巻末の小佐内さんは強い」。
今回もラストを飾るこの話では強くて怖くてかっこいい小佐内さんでした。
「犯人の絞り込み」に主眼が置かれたフーダニットとしてしっかりとした作りになっています。そして捜査パートが面白い!
短編集の最後の話でそれまでの総決算みたいな演出があると必ずテンション上がっちゃいます。
「巴里マカロンの謎」で残っていたしこりも解消され、事件つづきで甘いものを存分に楽しめていなかった小佐内さんも救済され。満足感の残る締めでした。
この短編集でマイベストを選ぶならこの話かな。
小佐内さんかわいいポイントメモ
「そう、小鳩くんはこしあんなのね。わたしたちがもう少し親しかったら、シェアをお願いするところよ」
「勘のいい人は好きよ。わたしのことを見抜かない限りはね」